私の、一風変わった初恋の話
どうも、初めまして。しがない女子高生です。お話を聞いていただけてうれしく思います。
とりあえず、自己紹介させてくださいな。
私に趣味と言えるものがあるならば、推理小説を読むことくらいで。
典型的なインドアタイプ。運動させれば五十メートル走破に十秒。趣味は先述の通りだし、交友関係は狭い。ちなみに図書委員です。
見ての通りですが、瓶底みたいなメガネと三つ編みおさげが特徴の、要するに委員長って言われて連想するような見た目です。とはいえ、特段成績優秀というわけでも、利発的というわけでもなく。──ああ、いい言葉があった。「オタク」と言うと容易に想像がつくでしょうか。
そういう人間です、私は。
おやおや、それを聞いて突然私に興味を失いましたね? 顔がもう、黙ってても伝わってくるほどつまらなさそうです。まったく、失礼ですね。
ええ、そうですとも、私はつまらない人間ですよ。どんなクラスにもこんな見た目の子一人くらいはいるだろうし、別に眼鏡を外したら美人というわけでも──ああ、帰らないで! 話を聞いて!
ごほん。……本題に入ります。私は、先日、初めての恋をしてしまいました。そして、同時にとても他の人にはいえない大きな悩みの種を抱えてしまうことにもなったのです。
ですからこうして、あなたのもとにやってきたのです。哀れな女学生のお話を、ぜひ聞いてほしいのですよ。
その恋というのの始まりはですね。この町の閑静な住宅街がぜんぜん閑静じゃ無くなってしまった、とある事件がきっかけなのです。あなたなら当然知っていますよね、殺人事件が起こったの。私の家のお隣さんのお友達の娘さんのお母さんの、兄弟の──ええと、誰だっけ。ともかく、男の人です。殺されちゃったの。
あ、黙って聞いててください。口は挟まないでいいです。
一軒家の連なる川沿いの。子供たちの通学路でもある、人通りの少ない道。真夜中にぴかぴかと光る、虫のたかった自動販売機の前で。
酷いんですよ、今。ドラマみたいにキープアウトのテープで区切ってあって、区画一体立ち入れません。どうやら犯人が口を割らないもので、凶器が見つかってないんだそうです。私の予想では、とっくに川下へと流されちゃったんだと思いますが。ああ、もちろん川の方も捜査は入ってるみたいですけどね。
とはいえ、連日マスコミが押し寄せてますし、結構な騒ぎです。高校生が容疑者っていうのが、引っかかるんですかね。未来ある若者が殺人! みたいな。
まあ、この程度のニュースでマスコミがくるほど、この町の外は平和みたいですが。この町だけは、余所とくっきりと線で区切られてしまったように、閑静から打って変わって喚声が。……なんちって。冗談です。ああ、怒らないで。
被害者は首の骨が折れて、額から流れた血で塗れた姿で見つかったそうですね。ついでに、はしたない言い方ですと「ぼろん」ってした姿で。まぁ要するに、あられもない姿ということですが。
ん? なんですか?
ニュースでは「ぼろん」の件は流されてないはず?
関係者しか知らない? ……そうでしょうか。だって、私が知っているもの。人の口に戸は立てられぬって言いますし。
──続けます。
凶器は、警察によると今のところ調査中。まぁ、鈍器でしょうね。バットとか、そういう類の。理由? 簡単です。男の死因からみて明らかでしょう。ああ、あと、目撃者が事件当時、鈍い音を聞いたという証言があったんです。ごすっ、ごすっ……て音を。
聞いてませんか?目撃者の話は。
目撃者っていうのは、事件当時にそこにいた、近所の高校の制服を着た女の子です。──この時期は冷えますから。夜なのもありますし。あったかい飲み物でも欲しくなって、お汁粉でも買おうと思ったんですかね。
その女子高生を、後ろから襲おうとした輩が被害者……という話らしいです。要するに、犯人は女子高生を助けようとした、と。で、加減を誤った。
しかし、その女子高生、本当に危なっかしいですよねぇ。高校生には相当遅い時間です。普通なら、数時間は早く帰宅してるはずですもの。私今日、ダッシュでここまで来ましたけど、なんとか四時に間に合いましたもんね。短縮授業だったのもありますが。
どうもその日は、近所の高校の図書委員会が長引いてしまったものだから、帰宅が遅くなっちゃったみたいです。
目撃者の特徴──三つ編みおさげで、瓶底メガネの女の子。もう、わかったでしょう。私が、誰か。
──私です。
私なんです。あなたが捕まる原因になったの、私なんです。
私のせいなのに。私の、私の。
なぜ、あなたが捕まらなければ──私を助けてくれた、正真正銘のヒーローなのに。どうしてですか。私は、私は!
──面会終了の時間です。退室してください。