表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

第二章 その1

 いつになく短い夏休みが終わった。学園は、いつものように生徒たちの活気で溢れ始めた。

 「白野お姉さま」

 車から降りた白野を校門で待ち構えていたのは、瀬川夏花だった。白野は、おはよう、と言って、瀬川の脇を通り過ぎた。

 「お待ちになってください」

 瀬川は、きっと一緒に歩いてくれるに違いないと思っていたため、慌てて白野の跡を追った。

 「人の跡を追いかけるなんて、行儀が悪いわよ」

 白野は、そう言って、瀬川の方を振り返った。白野がにこりと笑っているのを見て、瀬川は安心した。

 「お姉さま、ご冗談はおやめください」

 「ごめんなさい。あなたに寝顔を見せたくなかった、と言えば言い訳になるかしら」

 「また、そうやって……」

 白野は、瀬川の小さな手を引いて、肩を寄せた。瀬川の息遣いが、細かく奏でられていた。

 (少しは、変わったのかしら)

 白野は、教室まで瀬川を送り届けようとしたが、瀬川は、下駄箱までで結構です、と言った。

 「何かわけでもあるのかしら」

 「いや、別に特段あるわけでは……」

 (白野お姉さまは、全く自覚していらっしゃらない。私の噂はともかく、変に面白がられたら、迷惑になるのは、お姉さまご本人なのだから)

 瀬川は、適当な言い訳を述べて、そそくさと教室へ向かった。白野は、教室に着いてから、何か気に障ることをしたのではないか、と考えた。

 放課後になると、いつものように参考書やノートブックを携えて図書館に向かった。単に勉強する場所ではなくなった。

 「いらっしゃいませ」

 瀬川は、最高の客人をもてなす女将のように、丁重なお辞儀をした。白野は、かえって、瀬川の幼さが露骨に現れていると感じた。

 「店員じゃないんだから。あなただって学生でしょう」

 白野は、瀬川を揶揄った。

 「別にいいじゃないですか。今日は何をお探しですか」

 白野は、少しばかり首を傾げて、尋ねた。

 「パストラーレの名曲を味わって、自分は未だ詩的ではないと思ったの」

 「なるほど」

 瀬川は、とりあえず頷いて、そうですね、と言った。

 「オルガン奏者になると、中世ヨーロッパの素朴を表現できるかもしれないわね」

 白野は、机を鍵盤に見立てて、指をそれとなく動かした。

 「完全に、別の世界に行かれている……」

 瀬川は、白野の様子を眺めていた。カソリックの厳格な規律を身に包んで、人を導く女子院長を思い浮かべた。

 「聖堂のパイプオルガンってまだ使えるのかしら」

 白野は、唐突に呟いた。瀬川は、そもそも、ホールにパイプオルガンがあることを認識していなかったため、反応出来なかった。

 「決めた。聖堂に行こう。ちょうど、音の川が流れてきたところよ」

 白野は、わけもなく笑って、そそくさと駆けだした。

 「昔から、あんな感じだったものね……」

 瀬川は、溜息をついて、白野が置いていった鞄を、カウンターの脇に置いた。

 残った仕事を片付けて、白野の元に行こう、と考えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ