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第2話 神の相談所

「……は?……神?」


思考がまるで追い付かない。俺は街中の女性が見れば卒倒しそうな悪意の無さそう笑顔と差し出された右手を交互に見る。


「うん」


フレイという男は透き通った声で自信満々といった風に頷いた。しかしながら差し出された右手を下ろそうという気はさらさらないらしい。

仕方がないのでこちらも右手を差し出し握手をすることにする。


「……よろしく」


俺は警戒しつつあいさつを返す。ぶっきらぼうなのはこの状況に戸惑っているからで決して普段から愛嬌がないわけではない。……たぶん

それにしてもこいつの手柔らかすぎだろ。本当に男かよ……


「ふむ……」


そんな俺とは裏腹にフレイはそう短く零すと握手に応じたこちらの右手をにぎにぎとし始めた。まるで感触を確かめるように。

えっ?なにこの状況?


「というか何で俺の名前知ってるんだよ!」


俺は握手していた右手を無理矢理払うと問い詰める。決して男ににぎにぎされるのが恥ずかしかったから

誤魔化したわけではない。


「ああそれは君のことを一方的に調べていたからだよ」


振り払われるのが事前に分かっていたかのようにフレイは軽く微笑すると平然と言いのけた。


「……あんたストーカー…?」


だいたんな告白に驚いて思わず声が漏れてしまう。


「ストーカーか、近いかもしれないね。まあ、その辺りは席に着いてから話そうか」


フレイは椅子を引くと俺に対してどうぞ的な促す動作をした。

距離を取ろうか計りかねていたところに肯定とも取れるフレイの発言によって包囲網が張られてしまう。

仕方がないので俺は椅子に座ることにした。

……さっきからなんか主導権が向こうというかどうにも逆らえないんだよなぁ。これが所謂帝王学っていうものか。

そんなことを思っているとテーブルを境にお互い椅子に着席にした。


「さて、何が聞きたい?」


フレイは優しげな声色でこちらの心を読むかのように問いかけてきた。主導権は俺にくれるわけか。

聞きたいことも突っ込みたいことも色々あるが取りあえず……


「じゃあまず、ここはいったいなんなんだ?」


俺は入店してから神やら握手やで聞きそびれていた根本的なことを尋ねた。


「なに、とは酷く抽象的だね」


抽象的、それは色々とここには秘密がある、ということだろうか?


「表に"占いの館 機械仕掛けの神( デウスエクスマキナ)"って看板があったけど、本当に占い屋なのか?」


俺はもう少し直接的に店なのか?どうかを尋ねる。

フレイは顎に手を当てると少し考える風を装ってこう答えた。


「いや、ここは神の相談所だよ」


相談所!?占い屋じゃないのかよ!というかまた神って……

俺は神という部分を意図的に避けるように再びフレイに問いかける。


「え、えーと、"先着一名様無料!!"ってスタンド看板もあったんだけどそれは……」

「スタンド看板……?知らないなぁ、たぶんそれも部下が勝手にやったんじゃないかなぁ」


フレイは全く、と困ったような困ってないような魅力的な笑みを浮かべる。

それに対して俺は部下という言葉に過敏に反応し椅子から立ち上がってしまった。そのままきょろきょろと周囲を警戒するような動きを見せる自分にフレイは落ち着いて、と促すように左を静止する形で突き出してきた。


「大丈夫、ここには僕と十夜君の2人しかいないから」


満面の笑顔でフレイはそう言った。

……色んな意味で大丈夫じゃないんだが……まあ、割り切るしかないか

はぁ、と短く溜息をつくと俺は再び椅子に座った。


「要するにここは店じゃないってわけか?」

「そういうことだね」


うんうん、とフレイは可愛く頷く。


「わけわからん。何の意味があって路地裏の、しかもこんな誰も来なさそうな場所に相談所なんて設けてるんだ?」


そもそも本当に相談所なのかも怪しいところだけど、と思っているとフレイから思わぬ言葉が投げられたのだった。


「何の意味って……君を待っていたんだよ」


……は?今こいつはなんて言った?


「……すまん、聞き間違えじゃなければいいんだが、俺を待っていたって言ったのか……?」


俺は聞き間違えでありますようにと願いつつフレイに問いかける。けれど帰ってきたのは「そうだよ」という肯定であった。


「何の意味があって!」

「君が必要だからだよ」


軽く声を荒げる俺に対しフレイは淡々と意味深な言葉を発した。

……頭が痛くなってきた……

俺は額に手を当てながらうーん、と軽く唸る。


「……そもそも俺がここに来る保障なんてどこにもないだろ?」


現に俺は借金取りから逃げて、道に迷ってここを訪れたのである。ただの偶然、それしか説明のしようがないはずだ。それなのにフレイは首を横にふるふると否定する。


「いいや、君は今日必ずここを訪れていた。だってそう仕向けたのは僕だからね」


フレイは今までとは異なる不敵な笑みを浮かべて言いのけた。

俺は唖然とした。というかするしかなかった。

仕向けただって?何を馬鹿なことを言ってるんだ?

しかしながら一方で納得しかけている自分も微かにだが存在した。何故なら自分の置かれている状況が異常なのは明白なのだから。これが単純な偶然で片付けられるのなら世の中もっと楽だろう。


「……どういうことだよ?」


俺は動揺を隠すようにあえてドスの利いた声で尋ねる。


「嫌だなぁ、そんな怖いことをして。だってほら思い出してごらんよ、ここに来る前のことをね」


フレイはあっけらかんとした表情のまま右の人差し指で頭を指しながらそう言った。


「ここに来る前のこと?」

「うん。十夜君は借金取りから逃げるようにして路地裏に入ったんだよね?そのあと何か気づいたことなかったかい?」


フレイは試すような期待するかのような眼差しを俺に向けた。

何故、借金取りから逃げているって知ってるんだこいつは?いやまあ、俺のことを調べていたと言ってたから行動パターンも把握していたのだろう。そういうことにしておこう。それより……


「そういえば、路地裏の途中で違和感を感じたなぁ。その後で体がやけに重くなって……まさか…?」

「そう、そのまさかだよ。神の力を使って君をここに来るように操作したのさ」


フレイはグッ、と右親指を突き出し満面の笑みを浮かべた。


「それにしても凄いよ!違和感を覚えるだなんて相当魔法抵抗が強いんだね。だってあれ催眠や洗脳に近いから違和感を感じるどころかその時の記憶がない人間の方が殆どなんだから」


平然と犯行をバラすフレイ。しかしながら話は終わらず、それに、と付け加えて続ける。


「違和感を感じたってことは元々あった路地裏の一部に僕が建物や壁を適当に組み合わせて作った“道“のことも気づいたんだよね!やっぱり君が適性だね!」


凄い凄い、と子供みたいにはしゃぐ様子に、あんた神様なんだろ?とか色々とツッコミたい気持ちでいっぱいだった。


「ん?どうしたの?さっきから黙ってるけど、他に聞きたいことはあるかい?」

「……聞きたいことも何も、まず神の力だとか現実味のない話についていけない」


正直、いきなりそんなことを言われても大抵の人は信じないだろうよ。


「まだ信じられないと?」

「ああ」

「当の本人が体験したというのに?」

「………」


それを言われると弱い。

確かにあの現象は今まで体験したことのない類であった。金縛りのように体の自由は利かず、の割に体は明確な意思をもって行動する。一言で表すなら異常。自分の知識を絞り出しても該当しそうなものと言えば、催眠や洗脳ぐらいしか思い浮かばない。しかし、こんな場所は知らないし訪れたのだって今日が初めてなはず。もし催眠の類なのだとしたらそんなあやふやな状態で術者の思い通りに事が運ぶだろうか?

そんなことを考えていると、フレイも自分同様に軽くうーん、と悩むような仕草をする。その後、何やら思いついたらしく手のひらをポン、と叩いた。


「そうだ、喉乾かない?好きなもの頼んで良いからさ」


突然のことに一瞬あっけに取られる。

けれど、ごめんね、気が利かなくて、とか言ってくる手前何も頼まないわけにはいかず俺は「……じゃあ紅茶を」と言ってしまった。間髪を入れずに「わかった」とフレイから返って来る。

おいおい、まさか俺が言葉で信じないからって変な薬使って無理矢理信じ込ませる気じゃないよな?

俺は一抹の不安を感じながら飲み物が来るのを待つことした。

だが、フレイは立ち上がることなくこちらを見つめてくるだけだった。


「……飲み物取りに行かないのか?」


行儀が悪いとは思いつつも気になった俺は催促するように訪ねる。

それに対してフレイはその言葉を待っていたとばかりに口を開いたのだった。


「何を言ってるんだい?目の前にあるじゃないか?」

「……えっ?」


フレイはニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべながらテーブルを指差した。

俺は目でそれを追う。そして、驚愕する。


「なっ!?」


なんとテーブルの中央にはティーカップに注がれた紅茶が2つ置かれていたからだ。


「い、いつの間に……!?」


動揺で声が震えた。俺は落ち着かせるように目を閉じると深呼吸をした。

……落ち着け、よく考えるんだ……

俺が見る限りフレイは立ち上がる動作すら見せなかった。ならばフレイではない何者かがこそっと持って来たのかもしれない。……いや、フレイは"ここには僕と十夜君の2人しかいない"と言った。それを仮定するならば――


「これで理解できたかな?」


そんな思考を遮るように透き通った声が響き渡った。当の本人を見るとしたり顔である。


「……はぁ、もう分かったよ。あんたは神様で特別な力を使って俺をここに呼んだってわけだな?」


俺は投げやりに答えるとフレイは満足そうに「うん」と返事するのだった。正直まだ納得してないけど深く考えないようにした。人生なるようにしかならん。


「で?神様は何の用があって俺をここに導いたんだ?俺は別に神様に相談するようなことはないぞ?」


嘘です。現在進行形でお金が無くて切羽詰まっています。まあ、自業自得過ぎて神様に相談するだなんて格好悪くておくびにも出しませんけどね。


「何を言ってるんだい十夜君、ここは神の相談所だよ?」

「は?だから、神"に"相談する所なんだろ?」


全く何言ってるんだ、と思っていると一拍置いてフレイは違うよ、と一言。


「神"が"相談する所だよ」


ふふっ、と今まで見た笑顔の中でもとびっきり可愛い笑顔をしながらフレイはそう語った。

はぁ、と俺は嘆息を漏らすと心の中でこう思った。


……どうにでもな~れ

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