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幕間

 宮廷での勤めを終えたアルトさまは、数日に一度、下町の隠れ家に戻って来られる。本当は、宮廷道化師であるアルトさまは、宮廷内にご自分のお部屋があるので外に出る必要はなく、よくよく考えればその行動は怪しいのだけど、いまの宮廷に、道化師の行動を疑って観察する者などいない。

 私は、アルトさまが紹介して下さった踊り娘一座の一員となっている。その一座のテントに自分の場所はあるのだけど、様々な事情で、いつも全員がそこで眠る訳ではない。恋人と逢瀬の予定があったり、或いは夜の間にも別な仕事をしてお金を得る必要があったりして(どんな仕事かは誰も尋ねない)、座長に一言断りを入れれば、夜は自由に過ごす事が出来る。


 私が世慣れないせいで、一座には当初、随分迷惑をかけてしまった。踊り娘の振る舞いについては、事前に酒場へアルトさまに連れて行って頂き、予備知識は得ていたものの、一座の一員になるにあたって必要な、下働き……洗濯や炊事など……が、私には全く未知のものだったのだ。

 見よう見真似をしても、折角出来上がったものを台無しにしたりして、最初はとても居づらかった。みんなが、私を白い目で見て仲間外れにしたので。でも、私が誠心誠意勤めて、失敗したら謝り、努力してみんなに近づこうと頑張ったことを、徐々に座長やみんなが認めてくれて、やがて受け入れられた。


『アリア、あんたはいいとこのお嬢様だったんだろう? 隠したってわかるから言わなくていいよ。色々事情があったんだろうけど、お嬢様なんて、あたしらを蔑んでいいもん食って着飾ってばかりだろうと思ってたのに、あんたはそんなに遜って。あたしは初めて、お貴族様も同じ人間なんだなって思ったよ』


 そんな言葉をかけてもらえて。私はただ、ここでの居場所をなくしたら、アルトさまにご迷惑をかけるし、目的も果たせないから、と必死なだけだったのだけど、段々、彼女たちに友情を感じ始めた。


 そんな毎日だったけれど、アルトさまが隠れ家においでになる日は、なるべく早く勤めを終わらせて、座長に許しを貰ってそこへ行った。情報を交換し合う為、という、アルトさまとの暗黙の了解があって、最初はそれだけだったけれども、いつしか私はアルトさまのお顔を見るのが楽しみになっていた。

 粗末な台所で私は火を熾し、少ない材料でアルトさまの為に、覚えたばかりの手料理を作る。お口に合うか自信はなかったけれど、アルトさまは『美味い』と言って食べて下さる。時には、最初の怖い印象からは想像もつかなかった笑顔を見せて下さるようになった。

 アルトさまは時々、父や兄との思い出話を聞かせて下さり、私は涙ぐみながらそれに聞き入る。


『辛いならやめるが』


 とアルトさまは仰って下さったけれど、私は聞きたかった。

 私を救ってくれたアルトさまの声と、私の大切な家族の話を。


『宮廷で口にする料理とは違うが、そなたの料理は美味い』


 と、重ねてアルトさまは仰った。私は恥ずかしくて俯く。

 アルトさまは、もし皇帝の座につけば、私を皇妃にして下さると仰ったけれど、お心変わりなさらないかしら? なんてつい考えてしまう。今では庶民も私たちと全く変わりない人間なのだと私は思えるけれど、皇帝になられるアルトさまに、こんなに庶民じみてしまった私が釣り合うのかしら? と。

 そんな事を考えていると、アルトさまは仰った。


『もし、皇帝と皇妃になっても、たまにはこの手料理を作ってくれないか』


 と……。

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