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04 お嬢様、ブラコンを自覚する


「そういえばリディ、そろそろユーリウスが帰ってくるよ」

「おにいさまが?ふつかでかえってくるっていったのに、いっしゅうかんももどらないなんて。おにいさまらしくないわ。」


  お父さまが、思い出したようにお兄さまのことを言ったのは、お菓子のおかわりも済んで、風に揺れるバラをのんびりと眺めていたときだった。

 

  わたしには、3歳上のお兄さまがいる。顔はお父さまそっくりで、目の色だけが違って、お母さまと同じ黄金色。わたしが目の色だけお父さまで、残りはお母さまそっくりだから、釣り合いは取れているような気がする。

  5歳から家庭教師をつけて色々と学んでいるお兄さまは、勉強もできるし、剣も使える。実は剣なんて3歳からお父さまに習っているらしいから、なかなかに強いのだ。

  わたしはほとんど屋敷から出ないから、詳しくは知らないけれど、メイドから聞いた話だと他所からの評判も非常に良いらしい。プラトナム公爵家嫡男のユーリウス様は、文武に優れた将来有望な少年である、と。


  そんな自慢のお兄さまが、王宮からの馬車で連れ去られたのが1週間も前のことだった。王太子殿下とわたしたち兄妹は、はとこである。プラトナム公爵家のお祖父さまのもとに、先代国王の妹姫が降嫁したのだ。つまり、わたしのお祖母さまは元王女さま。

  血筋の良さと、優秀との評判で、お兄さまは王太子殿下のご学友となった。週の半分ほどは、日中に王宮にて殿下と勉強に励んでいる。とは言っても、公爵家の屋敷から王宮までは近いので、朝夕は一緒に過ごせるのだ。それなのに……


「けっきょく、おにいさまはなんのようでつれさられたの?」


  なんだかよく分からないうちに急ぎで呼び出されて、1週間も帰ってこない。王宮は安全な場所の筈だけど、実は何かあったのではないかと心配していたのだ。


「普段は辺境騎士団を取りまとめている、将軍のジェフリー老が登城したんだ。滅多に中央には来ない人だから、王宮であの人に剣を教えてもらえる機会はほとんどない。私も若い頃に教えを請うたことがあるよ。素晴らしい方だ。殿下はきっと、ジェフリー老がいる間に少しでも教わりたいんじゃないかな」


  辺境騎士団って、国境を守る要だから厳しい訓練が行われると聞いたことがある。それを率いるジェフリー将軍は、きっと凄く強いのだろう。


「じゃあ、おにいさまはそれにつきあうようにいわれたってこと?」

「それはどうかな。付き合わされたというより、殿下が気を遣ってくれたんだと思うよ。ユーリウスが騎士になりたがっているのを、殿下なら気づいているはずだからね。」

「えっ! おにいさま、きしになりたかったの? ぜんぜんしらなかった」


  お兄さまが騎士を目指していたなんて、わたしは知らなかった。殿下は知っていたのに。ちょっと悔しい。


「リディが気がつかなくても落ち込むことはない。ユーリウスは、誰にも騎士になりたいとは言っていない筈だよ。迷っているんだ。剣の才があって、極めたいと思う気持ちがあっても、まだ踏み切れないのさ。」

「どうして? おにいさまはきっとりっぱなきしになれるのに」

「そうだね。私も、そう思うよ。反対する気は、ないんだけどねぇ……お祖父さまが宰相で、私もまぁ、文官をまとめるくらいの地位はある。家系的に、政務を補佐する者が多いから。武の道に進んで良いのか、悩んでしまうんだろうね。なんでも上手く出来てしまう子だから、周りからの期待も多く集まって、余計に悩むんだ」


  わたしの知っているお兄さまは、見た目はお父さまそっくりで、中身はお父さまよりも、さらにわたしに甘い。金の髪を輝かせて、黄金色の目をキラキラとさせて、とろけそうなほど甘い笑顔でわたしを包みこんでくれる。

  大好きなお兄さまだけど、毎日会っているのになぜあんな笑顔ができるのか不思議だ。

  やっぱりお兄さまもシスコンなんだろうか。

 

  もし、妹だからあの笑顔になるのではなく、周囲の女の子みんなにとろけそうな笑顔を振りまいているのなら、お兄さまの将来のために止めなくてはいけない。

  あの笑顔に当てられて、お兄さまの奪い合いが起きる。お兄さまが女タラシと呼ばれるのも、刺されるのも嫌だ。既に王宮にファンが居たらどうしよう。まだ間に合うよね? 早くも心配になってきた。

 

  え〜っと? 違う、今はそんな話じゃない。……お兄さまが騎士に憧れていて、しかも悩んでいたなんて! やっぱり思い返してみても、悩んでいるそぶりをしていたようには思えない。それでもお兄さまの悩みに気付く、お父さまと王太子殿下が凄いんだ、きっと。

  悔しいけど、わたしには人生経験とかが足りないんだ、たぶん。そういえば、殿下って何歳なんだっけ?


「おにいさまにそうだんされなくてもわかるなんて、でんかはすごいのね! いまなんさいなの? どんなひと?」

「レイモンド殿下は今9歳だね。ユーリウスの1つ上かな。剣の腕も良いらしいけど、勉学の進みも素晴らしいと聞いたよ。私から見ても、彼は非常に聡い方だと思うね。だから今回のことも、ジェフリー老に教えを請う事で、ユーリウスの悩みが吹っ切れるように、背中を押しているんじゃないかな」


  殿下って、お兄さまと1つしか違わないの? そりゃあ、ご学友だし、10歳も離れてはいないだろうけど。でもお兄さまはかなり優秀って聞いたから、もう少し離れているかと思ったのに。

  じゃあ、わたしがお兄さまの悩みに気がつかなかったのは、やっぱりにぶいだけだったりして。だってわたし、お兄さまのこと大好きなのよ。それなのに、ご学友に負けちゃったの? わたしの方が、ずっとお兄さまを愛しているのに? ううん、ただのご学友に、お兄さまへの愛が負けるわけない。


  ……と、いうことは? つまり、ただのご学友じゃないってことだわ。うん、絶対そう。殿下はお兄さまを、わたしに負けないくらい愛しているんだわ!

  なんてことなの! こんなことなら、もっと早くあの笑顔をやめさせたのに。やっぱりお兄さま、王宮でもとろけそうな甘い笑顔を振りまいてるんだ。そして、その笑顔に当てられて、お兄さまの奪い合いが起きているんだわ! 男女関係なく!


  サッと顔が青褪める。温かいミルクティーを飲んでいたのに、手足が急に冷たくなるのを感じた。


「お、おとうさま! はやくおにいさまをつれてかえって、えがおをふういんしないと! おうきゅうはきけんよ!」

「リディ……どうしてそうなったのか聞かせてくれる?」


  どうしてこんな簡単な推測が分からないんだろう? とにかく、一刻も早くお兄さまを連れて帰らないと危険だと、わたしはこの名推理をお父さまに話した。お父さまったらちっとも焦っていないようだから、なるべく危機感を煽るような話し方で。

  もはやわたしの想像の中では、お兄さまはお城の1番高い塔に閉じ込められて、助けて〜って泣いている。あっ、国王陛下が悪い顔をして塔の鍵を握りしめている。あっあっ、王太子さまが後ろから切り掛かる! どうしよう、兄が傾国の美男なばかりに国が割れるだなんて。


  どうしよう、壮大なストーリーすぎて訳がわからなくなってきた。目を閉じてもなんだか頭がぐるぐるする。

  頭を押さえてうんうん唸るわたしを、お父さまは優しく抱きとめて、深い溜息をついた。


  「リディはお兄さまが大好きだから、そんな風に考えちゃうんだね。ユーリウスで国が割れるなら、私でとっくに割れていた筈だから心配しなくていいよ。同じ顔なんだから。ユーリウスの笑顔に当てられているのは、今のところリディだけだね」


  そんなバカな。

(もしかして、わたしもブラコンなの……?)

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