36 お嬢様、サンショウウオだった
「ロザリー、王女さまってどんなひと?」
「ヴェロニカ様は、モニカ様によく似ていらっしゃるわ。さっぱりとした、気持ちの良い方よ」
「モニカさま?」
「王妃様よ! ……リディ、まさか王様の名前も分からないとか言わないわよね?」
「ライオネルさま! 王さまはわかるよ」
「それも分からなかったら、今から勉強会を開くところだったわ」
「王さまに会ったことある?」
「いいえ。ユーリウス様は?」
「一度お会いした事があるよ。挨拶だけで終わったけれど」
「ユーリウス様は、王太子殿下とよくお会いしているのですよね? とても優秀な方だと噂で聞きましたわ……やはりそうなんですの?」
「優秀だし、真面目な方だよ。何を学ぶ時にも真剣に取り組んでいるし、周りの意見もちゃんと聞いてくださるんだ」
「やっぱり……サイラス王子とはだいぶ違いますわ」
「第二王子さまはどんなひとなの?」
ロザリーの顔がわずかに歪んだ。あら、もしかして、第二王子さまには良い印象がないの?
「サイラス王子は……私がヴェロニカ様と勉強していると、いつも急に来るの。ご自分の勉強を投げ出してね! 見た目は女の子のように可愛らしいけれど、中身はそんな可愛いものじゃないわ。こちらは真面目にやっているのに、構えってうるさいし、いっつも勉強の邪魔をしてきて……優秀な兄がいるから甘やかされたのか知らないけれど、ワガママなのよ!」
しまったわ。第二王子さまの話題は怒りのツボを突いたみたい。ロザリーがぷりぷりしている。なんとか宥めなくては。
「ええっと、ロザリー、いつも大変なのね。おつかれさま。その、サイラス王子がわるいと思うわ。べんきょうしないし、かまえってうるさいし、すごいお兄さまがいて、ワガママで……? それって、わたしと同じだわ」
ロザリーが怒っていること、ほとんどわたしにも当てはまっているわ。とてもじゃないけれど、第二王子さまの事を悪く言えない。
ちょっとしょんぼりしていたら、ロザリーが口をパクパクし始めた。なに? おやつ欲しいの?
「いえ、その、貴女は別よ、世間知らずだけれど……うるさいとは思わないし。確かにユーリウス様は素晴らしい方だけれど、リディはワガママじゃないとは言えないけれど、でも……でも、そう! リディには可愛げってものがあるわ!」
必死にわたしを慰めてくれるロザリーに、心がほっこりしてきた。
ふふ、そうかぁ。わたし、第二王子さまと似ているけれど、可愛げとやらのおかげで助かったのね。
だんだん元気が出てきたわたしとは逆に、なぜかロザリーがしょんぼりしていた。
「えぇ? どうしたの?」
「いえ……考えてみたら、サイラス王子はリディと同い年なのよね。いつもタイミングが悪いからつい、怒ってしまうのだけれど。今度会った時には、もう少し優しくしてみるわ」
「ほんと? よかったぁ。なんだか似ているから、ひとごとに思えなくて……ロザリーと第二王子さまがなかよくなったら、ちょっとうれしい!」
「うう。仲良くはならないわよ! 少しだけ、今までが冷たすぎたかなって反省しただけなんだから!」
そんな事を言いながら、なんだかんだ優しくしちゃうに決まっている。ロザリーはそういう子なのだ。天使さまなだけはある。
「あ〜、たのしかった!」
さんざんおやつを食べ、お茶を飲み、話尽くして、帰る時間になった。
「ロザリー、今日はありがとう! つぎは、遊びにきてね」
「ええ、そうするわ。また、手紙を書くわね」
「うん! またね!」
こんなに喋り通したのは初めてっていうくらい沢山お話できた。満足!
馬車の方へ振り返ろうとしたら、お兄さまに止められた。
「リディ。大事なことを忘れていない?」
「だいじなこと?」
何かあったっけ?
「最初はちゃんと覚えていたのに、忘れちゃったの?」
「わすれた……? あっ! ロザリー、聞きたいことをわすれていたわ。そのくるくるのかみ、巻いているの? 前に会ったときはまっすぐじゃなかった?」
「髪? ああ、これは生まれつきよ。まっすぐにしても、時間が経つとカールしちゃって困るのよね」
「ふうん。わたし、くるくるの方が似合っていると思う! ああ、スッキリした。お兄さま、ありがとう。じゃあ、またね!」
ロザリーは天然パーマだったのかぁ。ニーナみたいなふわふわの髪も可愛いけれど、ロザリーみたいに束でくるんとしている髪は大人っぽくて素敵だわ。わたしも今度巻いてもらおうかな。
今度こそ馬車の方へ振り返ろうとしたら、またしてもお兄さまに止められた。
「リディ……内緒が良いのかと思って言わなかったけれど、忘れているようだから言うよ。デンファレは渡さなくていいの?」
「あぁっ!」
そうだった! すっかり忘れていた。わたしの馬鹿! 慌てて、執事さんから花を受け取った。
「ロザリー、おそくなってごめんなさい。あのね、お花が好きだって言っていたから、わたしがえらんだの。うけとってくれる?」
「リディが選んだ? これ、デンファレね……綺麗だわ。ありがとう。ねぇ、これ、花言葉だけれど……」
デンファレを抱きしめ、そわそわとするロザリーを見て、わたしの中のロザリー愛がむくむくと膨れ上がる。
ロザリー、やっぱりお花が好きなだけあって、花言葉も知っているのね。
「ええ。お似合いの2人!」
腰に手を当てて堂々と宣言したわたしに、ロザリーはホッと安心したかのように笑った。
「そう、そっちよね、良かった……」
胸を撫で下ろすロザリーの反応に、わたしは首を傾げた。そっちってどっち?
「デンファレには、『お似合いの2人』の他に『ワガママな美人』って花言葉もあるから……」
もし『ワガママな美人』の方だったらどうしようかと思って、とはにかみながら言うロザリーの言葉に、わたしは顎が外れるかと思うくらいの衝撃を受けていた。
「え? なんで!? だって辞典には書いてなかったよ!」
「辞典には、いくつかの花言葉がある花は、有名な方だけ書かれることもあるし……贈り物で頂いたら、普通は良い意味の方で受け取るけれど。リディが嫌味を言う筈もないしね」
「花ことばって、ひとつの花にひとつじゃないの……?」
「一つの花もあるし、いくつも花言葉を持つ花もあるわ。薔薇やチューリップなんて、色別に意味も違うしね」
「なにそれ! しらなかった」
もう、今日だけでいくつ新しい知識が増えたのかしら。わたしって本当に知らないことばかりなんだわ。井の中のサンショウウオ決定ね。
いや、もしかしたらもっと凄いかも……オオサンショウウオかもしれない。なんてことなの! ちょっとかっこいい!
とりあえず今日のお風呂で、水中呼吸ができるか試してみようっと。




