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19 お嬢様、お友だちだった

 

「はむ、むぐ……ロザリーは2つ上かぁ。わたしはね、今月で5さいになるの!」

「知ってますわ、招待されてきたのですし」


「もぐ……ごくん。ロザリーはひとりっこかぁ。わたしはね、3つ上のお兄さまがいるよ!」

「それも存じております」


「むしゃ、もぐ……ロザリーはお花がすきなのかぁ。わたしはね、お花もすきだけど、おやつはもっとすき!」

「それも……見たら分かりますわ」


「もぐもぐ……ロザリーは、むぐっ!? けほっ」

「あぁ、もう! そうなると思いましたわ! 口に詰め込みすぎですの! ほら、お茶、お飲みなさいな」

「ぐっ……ごくん。あ、ありがとう、ロザリー。ロザリーはやさしいね」

「リディはなんと言うか……馬鹿ですの?」

「がーん!」

「なんでそんなに嬉しそうなの……」


  はじめてのお友だち(になる予定のロザリー)と食べる、グレおじさんのスペシャルおやつ。最高の味わいだ。さっきまでのパーティーの、退屈だった気持ちも、吹き飛んでどこかに消えた。


「ロザリー、わたし、ロザリーのことがすき。10年かかってもいいから、お友だちになってね」

「……私はリディと違って、親しくもない人を愛称で呼びません」

「ロザーリエってよんでってこと?」

「なんでそうなるの! お友だちになってあげるって言ったの!」

「そうなの!? いま、そう言った!?」

「リディ、貴女、やっぱり馬鹿だわ!」

「でもお友だち?」

「う、うう。お友だちよ! 貴女って、馬鹿な上に恥ずかしい人ね!」


  真っ赤になったロザリーが顔を覆い隠すのを、わたしはにんまりと笑ってみていた。

  ああ、なんて可愛いんだろう。わたしのはじめてのお友だち。

  ロザリーを見つめてうっとりしていると、控え室の扉が開いた。


「リディ? その様子だと、上手くいったみたいだね。こんにちは、ロザーリエ嬢。リディアの兄のユーリウスです。ご両親には心配ないと伝えておいたけれど……突然すまなかったね」

「ユーリウス様。ご存知のようですけれど、セルディン侯爵家のロザーリエです。さっきの事は、気にしなくていいですわ」


  あんなに真っ赤だったロザリーが、スッと表情を戻して、優雅にお辞儀した。おお、凄い。ロザリーちゃん、あなた、侯爵令嬢の仮面を持っているね?


「お兄さま! みて! わたしの! わたしのお友だちになってくれたの! ロザリーってよんでいるの!」

「ちょっと、リディったら!」


  ロザリーのもとに駆け寄って、手をつなぐ。お兄さまに握った手を突き出して、さりげなく仲良しアピールをした。えへへ、みてみて。

  ロザリーがまた顔を赤くするのを見て、嬉しくなる。つないだ手が、無意識にブンブンと揺れていた。


「こーら、リディ。どこかに手をぶつけたらどうするの? 落ち着いて」


  珍しくお兄さまに窘められて、浮かれていた気分が元に戻る。


「ロザリー、ごめんなさい……」

「もう……別に、気にしていないわ。私と手をつなぐの、そんなに楽しい?」

「ロザリーとすることは、なんでもたのしいよ!」

「そ、そう……凄いわね」


  ちょっと呆れた顔をしたロザリーと、また近いうちに絶対に遊ぼうと約束して、バイバイする。

  お兄さまが、ロザリーを元の場所へ連れて行ってくれるそうなので、わたしは控え室でスペシャルおやつの残りを全て片付けるという大仕事に取り掛かったのであった。






「リディアお嬢様ぁっ! やっと会えました……! パーティーの時は凄い人でしたから、近づけなくて。ドレス、お似合いでしたわ。私がお支度したかったのですが、メイド長には逆らえませんでしたっ」


  スペシャルおやつを胃に収納した後に、滞りなくパーティーは終わった。部屋に戻ってしばらくして、ニーナが飛び込んで来た。そうだ、わたしはニーナに、大事なことを確認しなくてはいけない。


「ニーナ……もんだいは、なかった?」

「はい? 特に問題があったとは聞いておりません。片付けはまだ残っておりますが、じきに終わりますわ」

「いえ、パーティーのことではなくて。朝に……」

「朝ですか? えーっと」

「まって! やっぱり気にしなくていいわ。わすれてちょうだい」

「ええ? かしこまりました」


  そう……まだニーナには、禁断症状が出ていないのね。これでひとつ分かったわ。おて中毒は、おてする側より、される側の方が依存性が高いってこと。ニーナ……何もできなくて心苦しいけれど、せめて、貴女には発症しないことを祈るわ。


  なんだか感傷的な気分になったわたしは、いつもより早めに寝ることにした。

  目を閉じて、布団の中でうとうとしながら、今日を思い返す。

  ああ、長い1日だったなぁ……初めて会う、沢山の人たち。悪魔のマヌエラに、天使のロザリー……心を読むお兄さま……まだ、恐ろしい病を知らないニーナ。

  ああ、これからの毎朝は、わたしと中毒症状との戦いとなるんだわ。恐ろしさでブルッと震えたわたしは、そのまま眠りについた。

 


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