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02 お嬢様、ニーナが犬に見えてくる

 

「リディアお嬢様っ! ああ、良かった! どこかお怪我などございませんよね、あら、どうして服が汚れているの? まさか転ばれましたか、打ち身などございましたらどう致しましょう! ひとまず湯浴みをして、お身体を確認致しませんと! それから、それから……う、ううっリディアお嬢様ぁっ」


  ど、どうしよう。お父さまと屋敷に戻ってすぐにニーナにつかまった。

  すぐ横にはニーナの雇い主である公爵さまがいるというのに、ニーナの目にはもはやわたししか見えていないようだ。勝手に部屋を抜け出して心配をかけたわたしが悪いのだけれど、そこまで泣かれるとどうしていいのか分からない。ニーナは他のメイドたちよりも感情豊かであったけど、こんなに興奮しているのは初めて見る。


「ニーナ、あのね、しんぱいかけて、ごめんなさい。じめんでよこになったから、つちがついただけで、けがはしてないわ」


  とりあえず謝ってみる。ニーナは顔を覆っていた両手をパッと広げて、わたしをジッと見た。なんとなく、わたしも見つめ返す。

  ニーナは焦げ茶色のふわふわとした髪に、くりっとした黒い目をしていて、小柄で素朴な感じの可愛い娘だ。いつ見ても、パタパタと動いている気がする。

  女の子らしく、いつも身だしなみをキチンとしているのに、いまは髪も乱れていた。それ程必死に探してくれていたのだろうか。

  ニーナの目がさらに潤む。え、まだ泣くの!? わたしはぎょっとして、咄嗟にしゃがんでいるニーナの頭に手を伸ばした。


「ニーナ、ニーナ、ごめんなさい。もうなかないで。もうしんぱいないわ」

「ううっお嬢様ぁ、何か嫌なことでもあったのですか? だから急にいなくなって……? 使用人一同、できる限りのことを致しますから、リディアお嬢様の憂いは必ずや晴らしますから、どうか、ご相談くださいませ!」


  だめだ、聞いてない。どうしよう。相談してと言われても、自分でもよく分からないのだ。でも、ニーナの決意は固そう。


「そう、もちろん、愛するリディアお嬢様のためならば、このニーナのみならず、メイド長をはじめ、執事も、料理人も、庭師だって! このプラトナム家使用人の総力をもって! お嬢様のお悩みを消してみせますっ!」


  なんだか拳を握りしめてプルプルしてる。かわいい。とりあえずさらに頭を撫でくりまわす。わ、ふわふわだぁ。


「さあ、リディアお嬢様! なにも心配はいりませんわ。お嬢様の顔を曇らせたものはなんですの? ニーナにお任せくださいませっ!」


  ふわふわの髪。くりっとした目。パタパタとした動き。プルプルと震えながらやってきて……なんだか、


「【といぷーどる】みたい……?」

「はい?」

「あっ、ううん、なんでもないの。ふふ、ニーナ、いいこいいこ」

「いいこ……? いえ、あの、リディアお嬢様っ」

「うんうん、だいじょうぶ。ニーナ、ありがとう。よーしよーし」

「いえあの、リディアお嬢様、私もう17歳にもなるのですが」

「ニーナはいいこね、だいすきよ」

「リディアお嬢様……! 私も大好き、でございます!」

「えへへ、おて」

「はいっ! うふふ」

「いいこね、ニーナ。おとうさま、おまたせしてごめんなさい。おへやできがえてきますね。あとでおちゃにしましょう」

「気にしないで、リディ。ゆっくり支度をしてきなさい。私はお茶の支度を頼んでくるから」


  しまった、思わず犬扱いしてしまった! 失礼かなと焦ったけれど、ニーナの機嫌も直ったし、まあ、いいか。

  使用人にも優しい自慢のお父さまは、ニーナの無礼も全く気にせずに、にっこりと笑顔で手を振って見送ってくれる。ああ、お父さま、かっこいい。



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