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15 お嬢様、やればできた

 

「初めまして、リディアお嬢様。エイダと申します。私はこの度、お嬢様の家庭教師に任ぜられました。パーティーまでは2週間を切っておりますので、少々厳しめになりますが、しっかりとマナーを身につけてくださいね」

「はい、エイダせんせい。よろしくおねがいします」

「やる気があるようで、嬉しく思いますわ。さあ、まずは立ち方から直して参りましょう」


  家庭教師のエイダ先生は、何人もの良家の子女を指導してきたという、ベテランの先生に相応しい迫力を持っていた。柔和に微笑んでいたけれども、この人には逆らってはいけない、そんな予感をひしひしと感じる。

 

  もうすぐ5歳になるわたしが、こんなポンコツでも致命的な痛手を受けたことがないのは、偏にこの直感の鋭さのおかげである。

  わたしは、エイダ先生の前では猫を被ることを決めた。




「リディアお嬢様、本日はお茶の作法を学ぶと致しましょう」

「はい、エイダせんせい」



「リディアお嬢様、本日のお食事は、私と共にマナーを確認しながらとりましょうか」

「はい、エイダせんせい」



「リディアお嬢様、この場合は、頭を下げる必要はありません。よろしいですね?」

「しつれいしました、エイダせんせい」



「リディアお嬢様、笑顔は歯を見せずにしましょうか。目の表情でも色々なことを伝えられますわ」

「これでよろしいですか? エイダせんせい」



「リディアお嬢様、素晴らしい挨拶でした。これでパーティーで行われるであろう事には完ぺきに対応できると、このエイダが保証致します」

「ありがとうございます、エイダ先生」


  リディアは レベルが あがった!

  たいりょくが 3ポイント あがった!

  かしこさが 50ポイント あがった!

  公爵令嬢の仮面を てにいれた!




  気がつけば誕生パーティーの前日を迎えていた。エイダ先生の10日を超える特訓を乗り越えたのだ。最後の3日くらいは記憶がない。


「リディアお嬢様、おはようございます……」

「おはよう、ニーナ。なんだか、ひさしぶりに会ったきぶんだわ。おて」

「え、ええ!? リディアお嬢様ですかっ」


  ニーナの様子がおかしいわ。おてに反応しないなんて、そんなこと……もしかして、病気にかかっているんじゃないかしら。どことなく元気もないし。


「ニーナ……どうしたというの? 不安になるわ。おて」

「は、はい……! お嬢様ぁっ! よ、良かったですっ」


  やっとおてを返してくれた。ニーナの震える手を握りしめて、泣きながら訴えるニーナの話を聞く。どうやらわたしは、マナーを身につけて完ぺきなレディになっていく過程で、毎朝のおてもせず、日課の散歩もせず、グレおじさんにおやつも貰いに行かなかったために、相当心配をかけていたらしい。

  確かに記憶がないけれど、わたしがおやつを貰いに行かないなんて、ちょっと自分でも信じられない。わたしの性格から考えて、無意識に食べてました、って方がまだ信じられる。


「お嬢様が、エイダ先生の授業のあとは部屋でおひとりで過ごされるのです……! 使用人の誰にも声をかけずに、ただ1人で……! 私、寂しくて寂しくて! ユーリウス様も、リディアお嬢様に何をしても反応がないと、心配しておいででした! あ、あんなことをされても、正気に戻られないなんて……もう、私たちのリディアお嬢様は戻ってこられないのかと、絶望いたしました」


  わたしを正気付かそうと、お兄さまが何か凄いことをやったらしい。記憶にないけれど、その記憶はそのまま無くしておこう。


「心配かけてごめんなさい、ニーナ。もうだいじょうぶよ」


  わたし、お淑やかなレディじゃなくても、みんなに愛されているのね。



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