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閏の雨  作者: アオハル
1/4

1.AM08:00

 初めましての方は初めまして。

 お久し振りの方はお久し振りです。

 今年は閏年、今日は閏日。

 という事で記念的に1作をば。



 それでは、どうぞ。



『――日本海を低気圧が発達しながら進み、寒冷前線が通過する見込みです。このため関東では午前中は曇り、昼頃から雨に変わって所によっては雷を伴う事が予想されます。出掛ける際には傘を持った方が良いかもしれません――――』

「…………、」

 天気予報にチャンネルを回し、キャスターの淡々とした解説を耳で聞き流しながらバターロールをもさもさと食べる。

 別にバターロールに罪はないのだが、自炊に慣れ切った自分にとってこの朝食は現在聞き流している天気予報よりも味気なく感じた。

「なんでこう急に目が痛く……」

 朝食が作れなくなった原因について呻くように呟いてみた。

 が別に奇跡も魔法もあるわけでもなく、試しに開いてみてしまった目に瞬時に痛みがもたらされた。

 今朝、目が覚めたらこうなっていた。

 花粉症の前兆に『突然、目に痒みが奔る』というものがあるらしい。それなのかとも思ったが、痒さではなく睫毛が目に入った時のような痛みというか異物感が目を開けていると治まらず、仕方なしに先程からずっと目を閉じっぱなしだった。

 おかげでルーチンワークと化していた朝食も作れず、テレビもラジオ感覚で耳から聞き取らなくてはいけない羽目になってしまっていた。

 人間の五感、その内の一つである視覚。

 それが普段どれだけの働きをしていたのかを改めて実感した。

 我が家だからまだ物の位置がある程度把握出来ていたとはいえ階段を下りる時は一歩一歩忍び足状態だったし、洗面台の扉のドアノブも手を彷徨わせながらじゃないと回せなかったし、目分量でやっていた調理も出来なかったし、テレビのリモコンも掴めなかった。何かに詰まった度に無意識で目を開いては悶絶しそうになっていた。

 そして何より。

「…………、」

『しかし明日以降からは春らし――』

 プツン、と電源の切れるあっけない音が聞こえた気がした。

 手元のリモコンでテレビを消した途端、その瞬間から訪れる静寂。

 本当にこの家には自分しかいないという感覚が、視覚以外を通して伝わってくる。

「なーにナイーブになってるんだか……」

 元々両親は共働きだし、留守番はとうの昔から経験を積んでいるので今更寂しさを感じるなんて事はない。断じてない。ただいつも以上に自分一人しかこの場所にいないんだというそれだけの事実をいつも以上に噛みしめるようだった。

 そんな事よりも、だ。

 重要な問題が一点。

「今日は休むか」

 こんな目じゃ外出すらままならない。

 傘を持って出掛ける以前の問題だ。

 テーブルのコップを探るようにして掴むと、グイッと一気に中の野菜ジュースを呷る。それから連絡をしておくために自分の部屋に置き去りにした携帯電話を取りに向かった。

「連絡だけしたら取り敢えず目薬して…………寝るか」

 目を休めるのにこれ以上の手段が思い浮かばなかった。

 一人ボンヤリと思った事を呟いて、早速行動に移す事にした。



 その後。

 テーブルにぶつかったりコップを落としそうになったり階段を踏み外しそうになった音が、自分だけしかいない我が家に空しく響いたのは別の話である。

 続きは本日午前4時ジャスト投稿予定。

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