転生ユウシャと異世界のヨウジョ
俺は勇者。
女神に選ばれし勇者だ。
ある日滝の下で修行していると女神からのお告げがあったんだ。
孤児だから本当の家族のことは知らなかったがどうにも俺は今は亡き、古の天にあったという王国の王族の血を引いた唯一の生き残りらしい。
その天にあった王国というのが精霊に愛されていて、その中でも王族の血を引くものは特にその影響が強くでるそうな。
魔王が復活した今、女神を信仰する生物の中でも唯一魔族に対抗する力を持つ生物が俺らしい。
そんなことから俺は勇者に選ばれた……
「って言うお話なんだよ、ヨウジョちゃん」
「ユウシャしゃまはめがみにえらばれたの? しゅごおい!!」
上目使いでその濁りなく深い青色の瞳をこちらに向け、キラキラと輝くヨウジョちゃんの笑顔が眩しい。
人を悲しませる嘘はダメだけど、人を元気づけたり楽しませる嘘は時に必要だと俺は思う。
こんな世の中だ。それならついてもいいだろう?
俺の実家は古の王族じゃなく牧場で親もまだピンピンしている。名前はユウシャ。中肉中背の体型に顔は平凡でこないだも宿屋で「あんた馬に似てるね」なんて言われた。笑いもせずに真顔で言われたから1番反応に困るパターンだった。そんな顔だからか精霊には愛されてないが実家の馬からはモテモテだ。こないだも実家に帰った時にペロペロペロペロペペロンチーノされ、その後はヌルヌルと略してペペロー状態になっちまう程にだ。
そんな俺に転機が訪れたのは16歳の誕生日。
その晩俺は急に高熱にうなされ、辛く苦しみ……
「あっ、これやべえな。空から幼女が迎えに来るのが見える」なんて思ったその時だ。前世の地球でのことを思いだしたんだ。
そう、あれは帰宅途中の電車のホームでスマホを操作しながら歩く女子高生が幼女に当たり、今まさに電車が向かう線路に幼女が落ちそうになりかけた所だった。これはマズイと思った俺は気づくと次の瞬間には幼女を助けるために体を動かしており、幼女を押し無事助けることには成功したが俺は線路に落ちてしまった。
次に気がついた時には何もない白い空間で謎の光と一緒だったんだ。
「こっ、ここは?俺はあの後……」
「目が覚めたかい?」
「あっ、あなたは……!?ってこれテンプレなら神様かなんかだよねきっと」
「えっ?もうちょっとそこはこうなんか……『だっ、誰だ!?』とかの反応期待したのに〜」
「ダッダレダー」
「棒だね。ダメだよキミそんなんじゃ、主演男優賞貰えないよ。声優の世界を目指すならさ……」
「いや、もうそれ無理じゃないですか。死んでますやん自分」
「そんなキミに今なら異世界転生で目指せちゃうキャンペーンを実施中、なんと今ならSRチートが貰える」
「おおーっ!」
「キミが幼女を助けるのを見ていたからね」
「どんな奴です?」
「人類一の強さ」
「地下闘技場に居て背中が鬼みたいになってそうですねそれ。あっ! 幼女に、幼女に触れても大丈夫な世界ですか!?」
「もちろん大丈夫。なんてたって異世界だからね」
「っしゃああああああ!! ならそれで転生を今すぐおなしゃす」
「んじゃ、転生かいし〜。あっ、そうそうこれまでの記憶を思い出せるのは16歳の誕生日からだから……からだから……だから……だ……」
ってなことがあったわけだ。現世の家族や友達のことを思うと悲しいが仕方ない。幸いうちには出来のいい弟がいるから親の老後を面倒みてくれるだろう。それに幼女が1人救えたたんだよかった。きっと友達も褒めてくれるさ。
異世界でチートを使い悪い魔物を倒したり現代知識であんなことやこんなことしていたら、いつしか周りは俺を見てSUGEEEといい有名になった。そんなこんなしていると、ある日俺は住んでいる国の王様にお城に呼ばれた。
そこで王様に……
「馬みたいな顔をしておるが……YOUはもしかして異世界人かの?」
と聞かれた。ちなみに王様はお爺ちゃんだ。
「はい16の時に前世の記憶を取り戻しました」
よくわかったな。
「へっへ〜ん。YOUみたいな俺SUGEEEする異世界人は前にもいたからわかっちゃっもんねワシ。」
衝撃の事実。神様一言もそんなこと言ってねえぞ。
「そうなんですか。それで私が呼ばれたのには……」
「YOUは何しに異世界へ?」
あれ、ここ空港だったか?それはもちろん……
「優しい世界(道端の幼女の頭を撫でれる)を見てみたくて来ちゃいました」
「OK。なら今日からYOUに勇者の称号あげるね。これはYOU者の誕生じゃの」
【速報】俺氏、勇者になる。
「了解です」
「そんなYOU者にさっそく一つ頼みがあるんじゃが」
おやおや?少し気な臭いぞ……
「なんでしょうか?」
「実はワシに息子がおらんのは残念じゃがムスコが元気ならんのじゃよ。ようするに種馬としてはダメな王なんじゃよワシ」
どうしよ。そんなの治せねえぞ。
「それはお気の毒に。さぞかしお辛いでしょうがいくら異世界チートでも治すことは……」
「いやそれは違うぞ。勘違いするでない」
紛らわしいい方すんなや。
「この世界では魔族や魔物が魔族領から人間を襲いに出てきているのを知っとるかのう?」
ああ、もちろん。なんたってそいつらを倒してる所をみんなにアピールして俺SUGEEEしてるからな。ちなみにこの世界の魔族とは人間のような姿に灰色の肌をしている。持っている魔力量が人間より多く魔法の使用に長けているがその反面身体は人間程頑丈にでなく病などにかかりやすい。魔物は魔力を持った動物などだ。なので相性がいいのか魔族は動物よりも魔物の使役を好む。
「それはもちろん」
「実は最近、魔族領と我が国の境目にある魔の森近辺で怪しい魔族がおるという情報がよせられた。その調査もかねて魔の森の調査を依頼したいんじゃよ」
ふむ。
「なるほど」
「そしてその調査にうちの娘を同行させて欲しいんじゃが……お〜い」
この爺さんの娘ってどんなババアが……
「むしゅめのヨウジョでしゅ!」
よっ……幼女だと!?なんでこんなジジイからしかも雲ひとつない快晴の時のような青い瞳に、雪のように白い髪、さらに透き通るような白い肌のこの子は……伝説の北欧系超幼女じゃねえかあああ!!
「ユウシャしゃまよろしくおねがいしましゅ」
「大切に育てますお父さん。ヨウジョ様こちらこそ末長くよろしくお願いします」
「これこれ早まるでない」
「てへへッ」
「実はこの子は先の魔族との紛争の際の孤児なんじゃよ」
Ohhなんと可愛そうな幼女ちゃん。
「さっき話したようにワシ子供居らんし、兄弟も早くに亡くして跡継ぎに困っておってのう。そんな時に発見したのがこの子で、養子として引き取って現在ワシ亡き後に王女にしようと帝王学を学ばせとるんじゃ」
「それで将来のために魔の森を経験させたく護衛を探しておったんじゃよ。その護衛を人類1の強さと名高いYOUに依頼したいんじゃがどうじゃ?頼まれてくれんかのう?」
「やります!いえ、是非やらせて下さい!!」
「ほっほっほっ、ヨウジョという名は王女になるべくしてなる名じゃ」
なに言ってんだこのジジイ?幼女は幼女だろ。
「よし、では頼んだぞ」
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そんなこんなでヨウジョちゃんと旅を始めはや2週間になる。ヨウジョちゃんとは仲良くなれた。
元々人間最強と存在として有名だった俺だが、正式に王様からゆうしゃとしてその称号を頂戴し。その噂は国中に知れ渡った。
そんな俺は料理してるんだが……なにやらヨウジョちゃんがトコトコ歩いて来た。
「ユウシャしゃまヨウジョもおりょうりてちゅだう」
何この天使。これは幼女特有の「あたしお姉さんだからこのくらいできるよ」アピールってやつだな。
「ありがとうヨウジョちゃん。なら、そこの野菜の皮を剥いてくれるかい?」
「うん!」
「手を切らないなように気をつけるんだよ」
「ひゃ〜い」
ヨウジョちゃんは偉い。
「うんしょ、うんしょ」
今も俺の指示通りに一生懸命皮を剥いてくれている。文字にすると危険だが……大丈夫だ、問題ない。勘違いはするなよ紳士共。
「みてみてゆうしゃしゃまあ〜、きゃわむけたあ」
腰に片方の手を当て、ニッカーっとドヤ顔スマイルで剥きたてのニンジンモドキの野菜を天にかかげ見せてくるヨウジョちゃん。やったねヨウジョちゃん!でもそれ張り切りすぎてみごとに皮と一緒に実も剥いじゃったんだね。食べる部分殆どないけどそんなとこからもヨウジョちゃんの頑張りがひしひしと伝わってくるよ。
「ありがとう。助かるよ」
わざとじゃないんだ、しかたない。
優しい嘘があってもいいじゃない。
「凄いなあ、偉いなあ、本当にかわいいなあヨウジョちゃんは。そんな良い子のヨウジョちゃんにはナデナデだな」
「うぃはあ〜」
ニターっとした笑顔がたまらんち。ぶひっぶひぶひぶっひひひひひひっひいいいいいいいっ!
本当に喜んでいるのは俺なのかヨウジョちゃんなのかぶっちゃけ分からない。外見では「俺、興味ないから。全然こういうの興味ないから」みたいな顔しながらヨウジョちゃんの白い髪を頭を今ナデナデ。ここは異世界、yesロリータnowタッチ。もちろん業界の掟には背いてはいない。頭と手までだ。幼女は守り愛でるもの、小動物と一緒だ。
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食後のヨウジョちゃんはと言うと……
「うとうとうとうと」
どうやらヨウジョちゃんはおねむなようだ。
「そろそろおねんねしようか」
「そうしましゅ」
「じゃあおやすみヨウジョちゃん」
「おやしゅみなしゃいユウシャしゃま」
そう言い別々のテントで俺たちは寝た。紳士だからな、ノータッチ。
ーーーーーーー
「ぎゃああああああああああああ」
なんだ!?
そこにいたのは後ろからみただけでわかる程に不気味で禍々しい生物だった。
えっ……?
全体は小さな子供程の大きさで、芋虫のような細長い円筒形をした体。下半身は巨大な白い繭のような糸に包まれていて上半身は体内のピンクや紫の臓器や血管が透けて見え本人の臓器も常に体内を移動していて今もムシャムシャと何かを食っている最中みたいだが……
あれは魔族!?
後ろから食われた魔族の眼球がこちらを見ている。
気まずい。体内の眼球と見つめ合うのは辛い……。こんなシチュエーションじゃドキドキしない。
いや、そんなことよりこんな禍々しい化け物は危険だ。
ヨウジョちゃんに害を及ぼす前に始末しないと……
いや……そもそもヨウジョちゃんはどこに?
「ギョアアアアアアア!!」
そんな不気味な音を発しながら、食べていた魔物の赤い血を全身に浴びて、ピンクのグチュグチュの食べカスを上半身の顔らしき位置を移動している口らしき器官に付いた化物の瞳は……
深い深い青色をしていた。
ああ……
「ユウシャシャマアアアアア!」
きみなのかい?
「ダマッチャッチェチェゴメェンナシャアアアイ」
ヨウジョちゃん。
「ヨウジョ……キャワイイ?」
下半身が小刻みにビクビク震えてる。
そうか……恐れられるのを怖がっているんだね。
やっぱり変わってしまってもヨウジョちゃんは幼女のヨウジョちゃんだ。
「ああ、カワイイよ」
なんだ……
騙していたのはお互い様だったんだね。
その時、森の奥から……
「問おう、人間最強の勇者よ」
そんな声が聞こえた。
誰だ?
ここは魔の森。入れる人間はそれなりの強さで通常は複数人で行動する必要がある。俺くらいの強さがない限り、単独行動なんて危険だ。
「そいつは普通の魔族でも魔物でもない。高位の地位にある魔族のみ知らされる、世界滅亡の予言に登場する破滅に導く存在……妖魔だ」
妖魔だと?なんだそれ……
「妖魔とはかつてある魔族がした禁断の秘術により大量の生贄を元に召喚された存在」
「そやつの禍々しさがお前にもわかるだろう?まだ完全に成長はしていないがそやつはいずれ世界を破滅に導くかもしれない」
「成長したらやがて人間は……いや魔族をもこの世界から絶滅する」
「殺すのなら……」
ッ!?
コイツはヤバイ。姿をまだ現さないが今まで感じたことのない程の殺気だ。間違いなく強い。
下手したら俺よりも……
「今しかないぞ?」
…………。
何言ってんだコイツ?
ヨウジョちゃんを……殺す?
ザッけんなよ!!そんなこ……
「そんなことはさせない!俺がこの子を世界を破滅に導くような存在には成長させない!!」
「ほう?どうやって?」
「魔族の国があるだろう?敵対しているが魔法に長けた魔族なら何か知っているかもしれない」
「魔族が人間の……それも最強の勇者に加担するとでも?」
「もしこの子を救う方法があるなら……」
魔族が人間の頂点にいるかもしれない俺という存在が憎いのなら……
「魔族に成功と人間の安全を条件にして俺の首を差し出すさ」
「なぜそこまで……」
「なぜなら俺は……」
「ゆうしゃの前にロリコンだ」
「幼女を救うためなら死ねる」
それに前にも
「そうした経験があるから今俺はココにいる」
「ふふふっ、ホッホッホッホ。やっぱりYOUは面白い奴よ」
なっ!?
「あんたは……王様!?」
「うむっ。実はのうワシは魔族なんじゃ。しかも魔族最強の魔王じゃよ。えっへん」
「まあ、武力で成り上がったんじゃがな」
「ほんでもって元地球人の転生人なんじゃ」
「じゃからYOUの話聞いた瞬間にピンと来たんじゃっ。あっ、このロリコンは転生人じゃとのう」
だから異世界人だと……
「魔族はのう、人間を滅ぼそうとする過激派と時間を掛けてでも人間に歩み寄ろうとする穏健派に分かれておるんじゃ」
「ワシは穏健派でのう、まあ元々が人間じゃし」
「そんなワシら穏健派が国を動かすのが気に食わん過激派の中の一人が妖魔の召喚という禁断の秘術を使った」
「召喚の阻止は間に合わんかったが妖魔の保護には無事成功した」
「ただ後に行われた予言にはその子が世界を滅ぼすとでてな」
「そこで秘密裏に先代の人間の王にそのことを伝えるとワシに協力してくれるということで今の地位を用意してもらった。まあどのみち力じゃワシに逆らえんしの」
「ワシはなゆうしゃとは勇気ある勇者も大切じゃが……」
「だれにでも優しく接する優者」
「どんな相手にとでも友好関係を築けるという友者」
「どんなことにも悠然と構えることができる悠者」
「大事な判断を結する結者」
「武力だけじゃない。そんなゆうしゃが世界を変えれると思っておる。それはYOUで間違いはなかったみたいじゃ」
「なら、ヨウジョちゃんを救う方法は!?」
「うむっ、可能性はまだある。それにあの姿は既に魔力を使えば自力で戻せるんじゃよ」
よかった……
「で、魔力の手っ取り早い回復方法が魔力を多く持つ存在を食べること」
「ここにおる魔族は人間を襲おうとしに来た魔族の中でも犯罪者じゃ」
「じゃから定期的にワシがいつもは連れに来とるんじゃがのYOUにも理解してほしくて今回はお願いしたんじゃよ」
「ただ、不安なのはあの子がワシが居なくなった後どうなるかは分からん。YOUにはその時に何かあればあの子を助けることができる存在になってほしいんじゃ」
「頼めるかの?」
「ああ、なんてたって俺はゆうしゃだ」
「ふっふっふっ、あっ!ちなみにあの子人間年齢では18歳じゃよ」
「えっ……それ年上……合法……」
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「みなしゃん、ヨウジョでしゅ」
「きゃあああヨウジョ王女よ!」
「ヨウジョ様!!」
「………………」
「今日はみなしゃんに聞いて欲しいことがありましゅ」
「じちゅは、今は亡きお父しゃまに聞いたお話なんでしゅが……私は妖魔という存在らしいのでしゅ」
「まっ……魔族の仲間!?」
「きゃあああ」
「どっ……どうか落ちちゅいて聞いて下しゃい……」
「おい、そこのババア黙れや!ヨウジョ様が演説しているんだ」
「ヨウジョ様おきになさらず続けて下さい」
「ヨウジョ様頑張って〜!」
「本来なら、もしかしたら世界を破滅させるような存在だったかもしれなかったそうでしゅ」
「けれどそんな私の運命を変えてくれたのは2人の異世界人……」
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「しくしく、しくしく」
「そこの魔族の幼女ちゃん、どうして泣いているのかな?」
「ひっ!?おうましゃん?」
「よく言われるけど違うな〜」
「に……にんげん!?」
「大丈夫だよ。馬みたいな顔してるけどおじさんは幼女の味方だからね。ほらよければおじさんに話を聞かせてくれないかい?何か力になれるかもしれない」
「や…やさしいにんげんもいるんだね。しらなかった……じちゅはね。みんなが……みんながねあたしのことをなかまはじゅれにしていじめるの……」
「何でかな〜?」
「おまえはまじめだからって……」
「ふふっ。ならおじさんが魔法の言葉を教えてあげよう」
「えっ?なに……」
「うんち」
「うん……ち?」
「そう。その魔法の言葉を唱えると子供なら誰でもその場を、言えば笑いに、すれば氷に変えられる。そんな魔法の言葉だよ」
「むりだよ。そんなんじゃ、どうせ……」
「ならあるお話をしよう」
「俺は魔王。
世界に選ばれし、魔王だ。
ある日死の沼の周辺で修行をしていたら…………………」
「まおうしゃま、しゅごおい!」
「だろう?幼女ちゃんも頑張れるかな?」
「うんようじょもがんばる!やばんじゃないまほうにくわしいにんげんもいるのね。ありがとうにんげんのおじさん!!」
幼女が去っていく……。
1人の幼女を今日も救えた。
こんな世界だ。優しい嘘があってもいいだろう?
なぜなら俺はゆうしゃ。
世界中の幼女を、そしてあの子を救うために今日も旅をする。