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舞姫記  作者: 乙麻呂
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プロローグ

久々に見る空は灰色だった。


今までの行いを全て表すようなその色に、紅嬉(こうき)は内心苦笑する。


まぁ私に清々しい青は似合わないな。


現在紅嬉はひたすら真っ直ぐに続く道を馬車に乗って移動していた。


先ほど門を通ったからそろそろ建物に着いても良い頃だと思うのだが、中々その目的のものが見えない。


「いつ着くんだ?」


「もうじきじゃ」


誰に問うともなしにそう呟けば、思いがけずすぐに返事が返ってきて、紅嬉はびくりと肩を震わせた。


外を見つめていた目を中へと戻すと、そこには暗緑色の刺繍が複雑に施された、紅の衣を纏った女性が柔和に微笑んでいた。


「後一つ、太和門を抜ければ直に見えるであろう」


そう言われても…


紅嬉はもう一度視線を外へと向けると窓枠に肘を突き、先ほど抜けた門を振り返った。


気づけばもうだいぶ門からは離れていたが、先を見てもまだその太和門らしきものも見えてこない。


その先にあるであろう建物までの距離を思うと正直うんざりする。


「なぁどんだけ広いんだ、ここ」


少々呆れ気味にそう問うと、女性は小首を可愛らしく傾げながら人差し指を口元に持っていった。


しばらく紅嬉の頭上辺りに視線を彷徨わせた後、何やら口の中でもごもごと何かを呟いている様子。


よく聞くと数字のようだが…。


「そうよのぅ…敷地の中に学び舎だけじゃなく寄宿舎もあるし実習室もあるし…一部生徒は寄宿舎ではなくて一軒家を持っているから敷地面積はかなりあるかの…。確か南北に1キロはあったと…」


そこまで言うとふわりと女性は優しく微笑み、呆気に取られて呆然としている紅嬉の肩をぽんぽんと二回程叩いた。


「ほれ、あれが我が校の学び舎、太和殿じゃ」


はっと我に返ると馬車はいつの間にか太和門を通り抜け、人が多く行き来する大通りを闊歩していた。


前方を注視すると視界を全て埋めてしまいそうなほど大きく立派な御殿が建っていて、馬車はその下方に位置する観音開きの朱塗りの扉に向かって前進を続けているようだ。


扉は今は大きく開け放たれており、その手前には低い段差を連ねた階段が取り付けられていた。


「ようこそ、我が校へ」


女性がそう囁くのが分かる。


その吐息混じりの小さな声は紅嬉の耳に心地よく響いた。

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