龍平会 その四
どうやら確認が取れたらしく、ルミ達はようやく誤解を解く事が出来た。
エレベーターにギュウギュウになりながら乗り込み三階に上がった彼女達は、銀次に連れられて外から見るよりも広いビルの中を進んで行った。
本人の言葉通りなら目が見えないはずの銀次は、そんな事を忘れさせてしまう程普通にルミ達の前を歩いている。
何やら銀次は霧上の事を気に入ったらしく、彼女の無愛想な反応を気にもせずに一方的に話し掛けている。
やがて、霧上から不機嫌オーラが漂い出しルミが間に入ろうかと迷い始めたとき、ようやく銀次は立ち止まった。
「おう、取り敢えずここで待っといてくれや」
そう言いながら彼が扉を開けてくれた。
会釈しながら部屋の中に入ったルミは、すぐに回れ右してその場を立ち去りたくなった。
中には十数人ほどの柄の悪い男達が待機し、彼等の視線が一斉に浴びせられたのだ。
が、霧上とエリナは特に気にした様子もなく銀次に勧められるままにやたらと座り心地の良さそうなソファへと腰掛けた。
こうなってはルミとしても座らざるを得ない。
ルミはこのビルを訪れてからやたらと胃が痛む気がしてならなかった。
「おい、茶ァ入れて来いや」
「ヘイ」
ドッカリとルミ達の対面に腰掛けた銀次は近くに立っていた男にそう指示を出した。
すると、ルミ達の方へ(見えないはずなのに)顔を向けわざわざ確認を取ってくれる。
「あ、嬢ちゃん達も茶でええよな?」
「へ!? え、えっと、お構いなく……」
「ナッハッハッ!!! んなビビらんでも取って喰ったりせんや!! 安心しぃや、親父が煩いもんだから茶だけは美味いのが揃っとるさかい!!」
流石にルミの挙動不審ぶりが気になったらしく、銀次は笑いながらそう言った。
霧上はそれを見ながらヤレヤレと内心ため息を吐いていた。
半分吸血鬼の彼女ならば、得体の知れない銀次はともかくとして、そこらの下っ端共に負けるはずも無いのに何をビクビクしているのか、と霧上は心底呆れていたのだ。
「……あなた方は、全員魔術師なのですか?」
こんなに気が動転した状態で夜亟が到着してしまっては、ルミは話し合いに集中出来ないだろう。
そう考えた霧上は仕方なく暫く銀次と会話をして空気を変えることにした。
彼女の意図を読んだのかどうかは分からないが、銀次は心底明るい声で返事をくれた。
「いやぁ、そういう訳やないな。ちゅうか、嬢ちゃん達はオレ達の事知っとんのか?」
「まあ、私は噂を聞きかじった程度ですが」
「よっし、何か嬢ちゃん達とは縁がありそうやから、自己紹介……ちゅうか、組織紹介といこか!!」
彼はそこから自分達がどういった集まりなのかを、ルミ達に話聞かせてくれた。
何でも彼等は何かしらの形で魔の世界に関わってしまった者達らしく、更に全員が一度は死ぬような目に遭ったことがあるらしい。
一般人が魔に関わってしまった時、対魔課や、その他の専門家の力で日常へと戻る事が出来る者も居るが、同様に何かしらの事情で魔の存在から目を背けられない者も居る。
そういった者達が集まり形成されたのが、この『龍平会』という組織らしい。
「まあ、俺みたいに単純に暴れたいからって奴も居るには居るけどな!! カッカッカッ!!!」
ルミには全員そういう人達にしか見えなかったが、それは黙っておいた。
どうやら、彼等は基本的に魔術師や魔族絡みの荒事を解決しているらしく、決して悪人では無いらしい。
あくまで本人達の弁によればだが。
具体的には魔族の退治、魔術を悪用する輩の捕縛等を対魔課と協力して行うらしい。
が、そこでルミは、先程の銀次の言葉が気になってしまい、つい口を開いてしまった。
「あの……」
「おう、どないした?」
少し慣れてきたとはいえ、やはり銀次から発せられているある種の圧力の様なモノがルミの心をざわつかせる。
が、彼女は好奇心を糧にどうにか口を動かす事に成功した。
「その、魔術師でない方はどうやってお仕事をしてるんですか……?」
「ああ、それな!! せやな……おい、ヤス!! 俺にボルト打てや」
壁際で待機していた男の一人が銀次の指示に小さく頷くと、右手を突き出し突然声を上げた。
「ボルト!!」
すると、彼が人差し指に嵌めていた指輪に魔力が集まり、そこから空気を裂いて進む雷が放たれた。
一瞬の閃光の後に、銀次に向かって走ったその雷撃は、彼に触れる直前で見えない何かにぶつかったかのように弾かれ消えてしまった。
「ま、こないな感じに魔具を使ってるんや。俺を含めて何人かは自前の技術を持っとるけどな」
確かに、実演してくれると分かりやすいのだが、突然の出来事にルミは再び放心状態に陥ってしまった。
ひたすらコクコクと頷いて見せる彼女の為に、またしても霧上がフォローに入った。
「その魔具を作っているのが……『京の技師』と呼ばれているあの?」
「おっ、流石親父やな。嬢ちゃんみたいな若いのにも名が知れとるんか」
銀次が(顔は見えないのだが)感慨深そうに頷いていると、先程の男性が盆に茶碗と茶菓子の入ったお椀を持って戻って来た。
ようやく空気がリセットされ、ルミは一息付くことが出来たのだった。




