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依頼開始 その二

 事務室に戻って来た二人の間に漂う微妙な雰囲気に霧上もエリナも気付いた様だった。

 しかし、流石に時と場合を考えてくれてのか、敢えてそこに触れる様な事を彼女達はしなかった。

 霧上の方はジトっとした視線を緋志に浴びせはしたが。

 人の緊急時に何をイチャついているのだ、という彼女の心の声が聞こえてきそうだった。

 誤解だ、と緋志は反論したかったが、残念ながら彼はテレパシーなど使えなかった。

 きっと彼女の咎めるような視線は自分がそう思い込んでいるだけなのだ、と彼は現実逃避して前に進む事にした。

「あ〜……それじゃ、そろそろ話し合いに戻りたいんだけど……」

 事が事だけに、緋志の一言で霧上とルミの顔付き一変した。

 緋志も脳のスイッチを切り替えると、まず何から話し合うべきかと脳内を整理した。

 ところが、彼が議題を挙げるよりも早く霧上がこんな事を言い出した。

「すまない。まず今野と霧上も見ておいた方が良いものがある」

 彼女がそう言うと、エリナが茶色いごくごく一般的な大きさの細長い封筒をカバンの中から取り出した。

 更に、その中から引っ張り出された折り曲げられた紙を広げると、それを緋志に手渡してきた。

 緋志とルミが目を通し終えるのを待ち、霧上が言った。

「エリナさんは、それを見て逆伎が誰かを狙っている事を知ったらしい。そして、ターゲットが紅道である事も」

「………」

 緋志は霧上の言葉には反応を示さず、何やら考え込んでいるようだった。

 それも無理はないだろう。

 その白い紙には、逆伐がエリナを助ける為に依頼を受けた事、その標的が吸血鬼と人間のハーフである事、神木町の所在地、といった情報が簡潔にまとめられていた。

 そして、最後の方に短くメッセージが添えられていた。


 ━━━どうするかは君次第だ。


 文字は全て活字で印刷されており、筆跡を気にしたのだろうということは察せられた。

 とはいえ、手紙にも封筒にも差出人の名前は無く、それどころかエリナ曰くコレはいつの間にか彼女の部屋のテーブルに置かれていたらしい。

 エリナが使用人達に確認した所、誰からも知らないという答えが返って来たらしく、どうも何者かが逆伐家の屋敷に忍び込んだか、あるいは何らかの魔術で送り届けたものらしかった。

 手紙を書いた人物の招待も気にはなるが、何よりも謎なのはその目的だった。

 どうやらルミの事を助けたいようだが、それならば何故直接、彼女に手を貸そうとしないのだろうか?

「(姿を見せられない理由でもあるのか……?)」

 緋志はそう推測したが、具体的にどんな理由があるのかを推測するには判断材料が少な過ぎた。

 何より、霧上が手紙の事を緋志達に確認させたのは送り主が気になるからでは無いという事を彼は分かっていた。

 この場合、手紙を送って来た人物がいるという事よりも、やはり逆伐が何者かに動かされてルミを狙っているという事が確認出来た事が重要だった。

「どうも……エリナさんに呪いを掛けた奴か、もしくはその仲間が、逆伐に依頼を持ち掛けたらしいな」

 霧上の意見に今度こそ緋志は頷いた。

 緋志は思考を巡らせ、情報を整理すると、口を開いた。

「………色々と考えないといけない事はあるんだが、まずはこれからどうするのか、それが問題だ。俺はエリナさんの呪いを解くために麗子さんを見つけたいと思ってる」

 麗子の事を知らないエリナに、霧上が簡単に彼女の事を教え終えるのを待ち、ルミが言った。

「でも、どうやって麗子さんを探すの? 確か、京都に行くって出て行ってから連絡取れないんだよね……?」

「そうだな。でも、麗子さんの言葉が本当なら、あの人は京都に向かった。なら、俺達も足取りを追い掛ければいい。それに、麗子さんを探すだけなら、夜亟さんの手を借りられるかもしれない」

 兎にも角にも、麗子を探す事が最重要課題である事は明白だった。

 緋志達の知り合いに彼女以上に魔術に詳しい人物は存在しないからである。

 もし、彼女にもエリナの呪いを解呪する事が出来なければ……そんな不安が、緋志達に無いわけではなかったが迷っている時間も惜しかった。

 時間が遅い為、夜亟の連絡は明日に回す事にして、一先ずスケジュールを組み立てる事となった。

 緋志達には足が無いため移動は新幹線で決定した。

 始発での出発は体の事を考えると厳しい気もしたが、今回の依頼は時間との勝負となるため仕方がなかった。

 これで、剛司に見つからずに神木町を出られれば彼の事は一先ずは考えずに済むというのは緋志達にとってはせめてもの救いだった。

 予定はすんなりと決まったのだが、細々とした問題は山積みだった。

 まず、手持ちの無いルミと霧上の旅費だったが、これは緋志が貯金を崩す事で解決した。

 彼の、もしもの為の備えが生きた瞬間だった。

 次にルミが明日は月曜ではないか? という点に気が付き、学校を休む為の口実を考える事となった。

 よく一緒に行動している三人が同時に欠席、更には陣が事故にあって欠席……一応、欠席の理由は三人がそれぞれバラバラにしたものの怪しまれてもおかしくはなかった。

 とはいえ、命が掛かっている為、背に腹は変えられなかった。

 結局、時計の針が一時を指した頃にようやく緋志達の話し合いは一段落した。

 緋志は事務室、ルミと霧上はダブルベッドのある麗子の部屋で、エリナは仮眠室で休む事となり、緋志達の長かった一日はようやく終わりを迎えたのだった。

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