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依頼開始 その一

 エリナが落ち着くのを待って、緋志は契約の具体的な説明に入る事にした。

 ルミは見返り等求めずに彼女の力になる気満々の様だったが、緋志はボランティアで命を張れる程お人好しではなかった。

 霧上もその点については緋志と同意見だったが、何故わざわざ茶番を行ってまで彼女の方から依頼させたのか、理解に苦しんでいた。

 回りくどいにも程があるだろう、と仏頂面の彼女は心の中で呟いていたが、それも緋志が提示した報酬額を聞くまでだった。

「二千万。値切りは無し。諸経費は其方持ち。払えない分は諸経費含めて分割払いでもOKです。利息も頂きません」

 条件は良心的なものの、如何せん肝心な金額自体が異常だった。

 とても個人にふっかける額ではない。

 当然の如く、ルミが眉を潜めて緋志に詰め寄った。

「ちょっと緋志!!」

 が、それまで事態を静観していた霧上がここで口を開いた。

「落ち着け紅道、よくよく考えてみろ。依頼が成功すれば二千万で命が助かるんだぞ? 破格の条件だ。しかも、私達だって依頼の性質上命を掛ける事になるんだからな。当然の保険だ」

「ま、そういう事だ……ルミ、今回の依頼は相当危険なんだ。俺達はボランティアじゃない。貰えるものはキッチリ貰う」

 彼等の言っている事は確かに正論だった。

 それでも、ルミは納得出来なかったのだ。

 自分の時(・・・・)はこんな対応しなかったではないか、そんな反発がルミの中には渦巻いていた。

 エリナの方は特に異論は無さそうだったが、このままではルミが依頼に集中出来ないと危惧した緋志はエリナと霧上に少し休憩しよう、と告げるとルミを誘ってビルの四階へと足を運んだ。

 相変わらず、異界と化している広過ぎるビルの中を進み、緋志は予備の仮眠室に着くと灯りを付けて中に入った。

 部屋の中には小さな机と椅子、そしてシンプルな構造のベッドがあるのみで、壁には窓も無くいささか閉塞感のある造りだった。

 緋志はルミをベッドへと座らせると自身は椅子に腰掛け、ため息混じりに口を開いた。

「何か、言いたい事あるんじゃないか?」

 ルミは口を尖らせると、そっぽを向きながら呟いた。

「緋志、何か変だよ……」

「俺の、どこら辺が変なんだ?」

 緋志の口調はいたって普通、むしろいつもよりも柔らかい雰囲気をはらんでいた。

 何となく彼が面白がっているのは、ここ数ヶ月の付き合いでルミにも理解出来るようになっていた。

 ただ、今のルミは緋志とは全く逆の精神状態だった。

 彼女は顔の向きを戻すと、眉を顰めて言った。

「だって、私を助けてくれた時と全然態度が違うじゃない」

 ルミからすれば、命の危険があるエリナの方が以前の自分よりも追い詰められていると感じていた。

 彼女が本当に言いたい事は緋志に伝わったが、それによって彼は遂に耐えきれなくなり、思わず吹き出してしまった。

 咎める様な彼女の視線を気にもせず、緋志は話し始めた。

「………俺、ルミのそういう所好きだよ」

 まさかのカウンターパンチにルミは最初ポカーンと口を開けていたが、やがて我に返ると一気に頬を紅く染めた。

「な、なな……い、今はそういう話をしてるんじゃなくて……」

 きっと彼女は目の前で困っている人がいたら手を差し伸べずにはいられないのだろう。

 自分に酔っている訳ではなく、それが紅道瑠魅という存在の本質なのだろう。

 そんな彼女の在り方は緋志には眩しいものだった。

 本来ならこういった話し合いには時間を掛けて、なるべくお互いの考えを擦り合わせて理解を深めた方が良いのだろうが、生憎、今は時間が無かった。

「……俺は、ルミの事を助けたとは思ってないけど、ルミの依頼を受けた時と、今回じゃ対応が違うのは……まあ、認めるよ。でもな、俺はエリナさんに対してルミの時みたいな対応を取ることはしない」

 緋志の後半のセリフに、やはりルミは納得がいかない様だった。

 さっきまで朱色に染まっていた頬が、今度は林檎の様に膨らんでいた。

 緋志はキリキリと胃が痛むのをグッと堪えて、こう言った。

「俺、好き嫌い激しい方だからさ……好きな奴の為なら結構頑張れるけど、嫌いな奴の為に何かをしようなんて思わないんだよ……別に、エリナさんの事が嫌いって言ってる訳じゃくて……」

 結局、大事な所は誤魔化してしまった。

 どうにも意識してしまうと、ヘタレになってしまう様だった。

 が、流石に今度ばかりは緋志の言いたい事もルミに伝わった様だった。

 頬ばかりか顔中が真っ赤になってしまったルミは、せめての足掻きで顔を俯けると、無言でコクコクと頷くだけだった。

「それじゃ……そろそろ戻るか」

 暫く気まずい沈黙が漂っていたが、ルミが落ち着いたのを見計らって緋志がそう口にした。

 どっと疲れた緋志だったが、まだまだやるべき事が山積みだった。

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