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それぞれの休日 その二

半分だけ人の血を引くその少女は早足で目的の場所へと歩いていた。

彼女の中に流れるもう半分の鬼の血のお陰で、彼女はいつも苦労していた。

主に寝坊を繰り返してしまうという点で。

「何とか間に合うかな……」

今日はルミとしては比較的早く起きられた方ではあったのだが、話し込んでいる内に家を出るのが遅くなってしまった。

ルミは携帯で時間を確認しながら今朝の事を思い返してみた。

最近、正確には文化祭以来、緋志との間にあった微妙な雰囲気は無くなっていた。

それ所か、緋志はルミと会話をしている時に笑顔を見せてくれる事が多くなっていた。

今までより距離が近づいている事をルミはハッキリと感じていた。

「(でも……返事はまだ貰えないんだろうなぁ)」

正直、ルミは自分が何故そういう気持ちを緋志に対して抱いているのか、ハッキリとは分かっていなかった。

出会ってからまだ二ヶ月も経っていないのにそういう感情がいつ芽生えたのかもルミは思い出せ無かった。

もしくは、そういう事を整理する時間が無かったのかもしれない。

この短期間で彼女は二度も命の危機に晒されたのだから。

「(あの時の緋志、珍しく慌ててたなぁ……)」

ルミはとうとうと流れのままに文化祭でのワンシーンを思い出して思わず赤面してしまった。

良くもまぁ、あんな事を言えたものだとルミは自分に呆れ半分、感心半分だった。

そんな風に半分上の空で歩いていたせいか、いつの間にかルミは待ち合わせ場所である駅前の広場へと辿り着いていた。

休日ゆえ、いつにも増して人が多くルミは必死に首を伸ばして待ち人の姿を探し始めた。

と、そんな彼女の背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ルミちゃん?」

「え?……あ、夏菜さん! おはようございます」

ルミが振り向いた先には涼し気な淡い青色のワンピース姿の夏菜が立っていた。

「おはよ〜、どうやら寝坊はせずに済んだみたいね」

「ア、アハハ……」

ニヤニヤと笑う夏菜にルミは乾いた笑いを返す事しか出来なかった。

まだルミがこの町で暮らし始めてから二ヶ月と経っていないのにルミが朝に弱い事はすっかり周知の事実となりつつある。

もっとも、ルミの登校時間が遅い上にほぼ毎日眠そうな顔をして教室に入って来るのだから仕方が無いのだが。

「ほら、揃ったんだから行きましょ」

「あ、はい」

「何から見ようかしら?」

すっかり姐さんポジションを獲得している舞の一声で三人は移動を始めたのだった。



ビルに入ってから暫くは普通にウィンドウショッピングを楽しんでいた三人だったが、夏菜の提案により突然ルミの着せ替えショーが始まってしまった。

店員と夏菜と舞が次々と新しい服を持ってきてはルミに着せ、誰のコーディネートが一番似合っているのかを競い合っていた。

「うん! これ良いかも!」

「似合ってるわよ」

夏菜と舞から続けざまにそう言われ、ルミは何だか気恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

二人が選ぶ服は今までルミが着ていたモノとは全く趣が違うのだ。

スカートの丈は短いし、肩は出ているし、少しばかり肌を露出し過ぎではないだろうか? と、ルミはお婆ちゃんが孫の服装に苦言を呈した様な感想を抱きながらも大人しく彼女達にされるがままになっていた。

確かに恥ずかしいのだが、緋志達と来た時も感じた新鮮な楽しさがルミの中の感情の綱引きで勝っていた。

とはいえ、流石に着せられてばかりもアレというか二人にも自分の服を選んで貰わなければ、ということでルミはこう尋ねた。

「あ、あの、私の服を選んでくれるのは嬉しいんですけど……お二人はその、試着したりしないんですか?」

すると、夏菜は腕時計をチラリと確認し

「あ、もう十二時前なのね……なら、そろそろ決めに掛からないとね」

と呟いた。

それを聞いた舞は、いつの間にか時間が過ぎ去っていた事に少し驚いた様な表情を浮かべた。

と、同時に夏菜が時間を確認した意図も理解していたため、こう言った。

「じゃあ、そろそろ買う物決めてその後少し時間を潰してからお昼にしましょうか」

「はーい、そんな訳でルミちゃん今まで着た中で気に入ったのは?」

再びキープした服の群れに手を伸ばそうとする夏菜に、ルミが慌てて再度質問した。

「え!? え、えっとそのお二人は?」

「あ、私今日は服を選びに来た訳じゃないから」

笑顔でそう宣った夏菜に続き、舞も頷き

「私も」

と、同調した。

そこでルミはようやく今日の約束をした時の事を思い出した。

数日前、ルミがそろそろ暑くなる季節だし夏用の服を買いに行きたい、と呟いたのに夏菜が反応し流れのままに今日のお出かけが決まったのだが……

「(そう言えば、お二人が服をみたいなんて言った覚えは無い、ような……)」

つまり、彼女達を二時間近く自分の買い物に付き合わせてしまったのだ、とルミは現在の状況をそう分析した。

申し訳無さがこみ上げて来て思わず謝罪がルミの口をついて出てきてしまう。

「す、すす、すみません……私の買い物に付き合わせてしまって……」

「別に気にしてないわよ? 楽しいし……でもそうねぇ……許して欲しいなら、コレ着てみて?」

か、すぐにルミは、笑顔を浮かべ今まで見た中で最も短いスカートを持つ夏菜を見て、謝罪した事を後悔する羽目になったのだった。



色々と、主にルミの精神を犠牲にした買い物は終了し、三人はフードコートのある地下へと向かう事になった。

「ルミちゃん大丈夫?」

舞がやや心配そうにルミの顔をのぞき込む。

それも無理もないだろう、何せルミは早くもグッタリしていた。

人混みが苦手な事もあるのだが、やはり人に色々と見られるのは慣れてないルミにとっては精神的は疲れが溜まる行為だった。

「あ、だ、大丈夫です……その、お腹が空いたなぁ、と思って!」

「……反省はしてるわ。今度はもう少し加減するから、今回は許してね」

「あ、あの、ホントに、その、選んで頂いたお洋服も可愛かったですし……って、結局、次も色々着させるつもりなんですか?」

コロコロと表情を変えるルミを見て舞が微笑んだ。

何故か気恥ずかしくなったルミは夏菜に助けを求めようと前を歩く彼女に視線を向けた。

結果的にそのお陰でルミは夏菜にぶつからずに済んだ。

急に足を止めた夏菜に舞が訝しげに質問した。

「ちょっと、どうしたの?」

「アレ……」

呆然とした様子で夏菜が視線の方向を指さした。

釣られて二人もそちらに顔を向ける。

彼女達の瞳に映ったのは、多くの人々で賑わう駅ビルの中においても一際目立つ一人の少女だった。

頭にはフリルの付いた白いカチューシャを身につけ、更に身につけているドレスもモノクロカラーのフリル付きドレスという、ルミ以外には見慣れている者がいないであろう、いわゆるメイド服をその少女は身につけていた。

それだけでも充分奇抜だというのに、その少女はさらに目立つ容貌をしていた。

日焼けではない、褐色の肌にエメラルドの様な深い緑色の瞳は彼女が確実に純粋な日本人ではないという証明だろう。

「め、メイドさん、ですね」

「な、何でメイドさんが一人でこんな所歩いてるのかしら?」

夏菜が首を傾げるが、当然、舞もルミも彼女の疑問を解消する事は出来ない。

「!?」

その時、舞だけがその気配に気が付いた。

前方から歩いて来るメイドから、漂って来たその気配は明らかに普通では無かった。

魔族という訳では無さそうだが、強いていえば何度か会ったことのある麗子や、夜亟の様な雰囲気だった。

つまるところ、一般人では無いのだろう。

「(関わるのは不味そうね……)」

舞はそう判断し、どうにかして二人と移動しようとした。

しかし、彼女が行動を起こすよりも先にメイドの視線が三人に向けられた。

彼女はスタスタと歩み寄って来ると三人の数歩前で立ち止まり口を開いた。

「すみません、人を探しているのですが少しお話を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」

抑揚の乏しいその声からは感情らしきものは読み取れなかった。

舞がどうするべきが迷っている間に、いつもの調子で夏菜が答えてしまう。

「へえ、人探ししてるんですか……私達で答えられる事なら」

「ありがとうございます。聞きたい事、というのはこんな人を見かけなかったか、という事なのですが」

そう言って、そのメイドはポケットから一枚の写真を取り出した。

そこに写っていたのは目付きの悪い少年の横顔だった。

どうやら嫌がる相手を無理やり取ったものらしい。

だが、三人の内の誰も見覚えがある者は居なかった。

「ん〜私は見た事無いわね……ルミちゃんと舞は?」

「ごめんなさい私も……」

「同じく……」

三人の返答を聞くや否やメイドは深々と腰を折り

「貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます……恐縮なのですが、もしこの方を見掛ける事がございましたら、エリナが探していた、と伝えて頂けないでしょうか?」

やはり平坦な声なのだが丁寧な口調で彼女はそう三人にそう尋ねた。

舞としてはこれ以上関わりたくないのだが、相手の異質さに気が付いていないルミと夏菜が曖昧に、「まあ、それぐらいなら……」と、頷く事を止めることは出来なかった。

「重ね重ねありがとうございます……それでは私は別の場所を探してみますので」

そう言うと彼女はさっさとエスカレーターの方へと歩いて行った。

その後ろ姿を見送りながら早速夏菜が興奮気味に話し掛ける。

「ビックリしたぁ〜! でも、凄く丁寧な感じだったし、美人さんだったし……もう少しお話してみたかったかも」

「で、でも急いでるみたいでしたし……舞さん? どうかしたんですか?」

ずっと舞が黙りっぱなしだった事に気付いたルミが首を傾げそう聞いてきた。

舞は無理やり笑顔を作って誤魔化したものの胸中は不安でいっぱいだった。

また、何かが起こるのではないかという、漠然とした、しかし確かな不安が彼女の心に絡み付いていた。

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