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背後には? その二

「?」

打ち合わせ通り、一回のノックの後に、一呼吸開けて二回扉を叩いたのだが中からの合図が返ってこない。

「チッ……」

華院は舌打ちをしながら携帯を取り出し耳に当てた。

「おい、聞こえるか」

『はいはい、どうしました?』

「合図を送っても中からの返しが無い……人の気配も、しねぇな」

夜亟が息を呑んだが伝わってきた。

華院は舌打ちをすると、一応確認をしてみることにした。

「んで? 俺はこのまま部屋に突っ込んでもいいのか?」

『危険です! 我々もそちらに向かいますから……』

「舐めてんのか? テメェが来た所で邪魔になるだけなんだよ。俺が聞きてぇのは今すぐ部屋に踏み込むのか、そっちで人集めて周り固めてから踏み込むのかどっちがいいかって事だよ」

最も、華院は後者の選択が愚策に過ぎない事を分かって提示していた。

十中八九、中に居るであろう議員は殺されているか、拉致されている。

そして、それを実行したのは恐らく魔の世界に関わるものだろう。

だとすれば、時間を掛けても得する事など何も無い。

証拠を消され、姿を眩まされる前に敵を抑えなくてはならないのだ。

そんな事は、曲がりなりにも対魔課に身を起き続けた夜亟も理解していた。

『………』

それでも、夜亟はすぐに返事をする事が出来なかった。

夜亟にとって華院は強力な戦力であり、味方についてくれている内は心強いが、いつ裏切られるか分からないジョーカー的な存在なのだ。

そんな彼に、そこまで踏み込んだ事をさせるのを躊躇うのは当然だった。

「おい、俺は気が短ぇんだよ。とうすんだ? こんな事してても時間の無駄……」

華院が苛立ちを隠そうともしない声で夜亟に発破をかけようとした時、ゆっくりと、目の前の扉のドアノブが動き始めた。

「(んだと!? 中からは何の気配も感じてねぇってのに……)」

自分の探知能力に自信を持っていた華院は有り得ない事態に驚きを隠せなかった。

が、すぐに魔力を練り上げ、臨戦態勢へと移る。

華院の見つめるなか、限界までドアノブが傾き、そのまま静かに扉が開き始めた。

『華院さん? 華院さん! どうしたんですか?』

電話から漏れ聞こえる夜亟の声に応える余裕は、今の華院には無かった。

まず見えたのは歳を感じさせる無骨な手。そして黒いコートの袖が続き、部屋の中から一人の男が姿を表した。

「! テメェは……」




その頃、ホテルの外では夜亟が必死に携帯に向かって呼び掛けていた。

「華院さん! 華院さん!?」

「大体聞こえていたが……何かあったのか?」

見かねた麗子が尋ねると、夜亟は早口で状況を説明した。

「それが、中で何かあったらしく……華院さんの声も何故かしなくなってしまって……」

「フム……私の術には何も引っ掛かっていない。となれば、何かが起きたとするなら、その犯人はまだ中にいるはずた。一先ず我々も中に行くぞ」

「待って下さい、状況も分からないのに……」

麗子までアグレッシブな事を言い出すとは思っていなかった夜亟は、肝を冷やしながら慌てて彼女を止めようした。

そんな時、応答の無かった電話口から華院の声が漏れ聞こえてきた。

『……ぇは』

一瞬にして二人の視線が携帯へと向けられる。

息を呑み、じっと夜亟の手に握られたソレを見つめる二人の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んで来た。

『よう、こんな所で会うなんて奇遇だな、死神?』

その野太いダミ声に、夜亟は反射的に冷や汗をかき、麗子は驚きを隠せなかった。

「この声は……源さんか?」

「え、ええ多分……華院さん、華院さん聞こえますか!?」

夜亟は恐る恐る再度の呼びかけを行う。

今度はすぐに返事が返ってきてくれた。

『おい、この老いぼれが来てるなんて聞いてねぇぞ?』

「い、いやぁ自分も聞かされてないんですが……」

その時、自分が話題にされていると気付いたらしい源の声が聞こえてくる。

『ん? 今の夜亟の声か? アイツ来てんのか』

『あぁ………話すか?』

何故そんな微妙な所で気を利かせてしまうんですか!!

と、突っ込みたい夜亟だったが、そんな事を出来るはずも無かった。

程なくして、華院から携帯を受け取ったらしく源の声が電話口から流れ出した。

『よう、夜亟。暫く見ねぇと思ったらあの紅道家の死神と、仲良く何してやがる?』

「い、いやぁ、その……リデラの不正入国に関わった疑いのある議員を調べようと思いまして……」

『ほぉ? お前さんもちっとはやる様になった……訳じゃ無さそうだな。死神が居るってぇこたぁ、情報集めて貰った挙句に接触役までして貰ったのか?』

「それは〜、その〜」

段々と顔を青くしていく夜亟を麗子がザマァみろと言いたげな表情で見ていた。

彼はこれ以上失態を晒す訳にはいかない、と決意し、話題を変えようと試みた。

「そ、それより、何で源さんがこのホテルに……」

『あ? そりゃ、おめぇさんと同じ理由に決まってるだろうが。俺も太田を追って来たんだよ。ただ、普段はガードが固すぎてな……まさか対魔課が面と向かって国会議員を事情聴取するわけにも、いかねぇしな』

確かに、源の言っている事は何一つ間違っていなかった。

夜亟も同じ対魔課だからこそ、それは理解出来た。

そもそも、夜亟が華院を間に挟んで情報を得ようとしたのも同じ様な理由からなのだから。

しかし、納得出来ない部分も夜亟の中には残っていた。

「は、はあ……その源さんが太田に目を付けたってのは、まあ、信じられるんですが、今日彼がこのホテルに来る事までどうやってしらべんですか?」

『悪いが、そいつぁ後で話させて貰うぜ。まだ現場をしっかり見れてないんでな』

唐突に、源の口から不吉な単語が飛び出した。

麗子もそれを聞き取ったらしく、眉を顰めて夜亟の方へと視線を送った。

「え、現場って……もしかして」

『ああ、太田は死んだよ。俺も着いたばっかりなんで何とも言えねぇが………ありゃ殺されたな』

「そんな……」

源の無念そうな声から察するにどうやら遺体は死後間もない状態らしい。

何にしろ、これで重要な参考人が消されてしまった。

「と、とにかくそういう事でしたら自分も……」

『いや、おめぇさんは外で待機してろ。怪しい奴が出入りしねぇか一応見張っとけ。っと、聞き忘れてたがおめぇ一人か?』

「は、いえ、麗子さんが一緒ですが……」

『相変わらずお熱みてぇだな? というか、あんまり民間人を巻き込むんじゃねえよ』

「いえ、その、人手が足りませんし……麗子さんは頼りになりますし」

『まあ、いい。それじゃ本部に連絡して応援送って貰え。ここまで有名な人間が殺されたんじゃ現場を隠蔽するのは無理だ』

「りょ、了解です!」

『俺からは以上だ。んじゃ、死神に変わるぞ』

源の言葉通り、今度は華院の声が電話口から聞こえてきた。

どうやら彼もあまりの急展開についていけていないらしく、若干戸惑っているようだった。

『で? 俺はもう帰っていいのかァ?』

「いや~そうですね……」

夜亟としては何かあった時の為の戦力として彼をこの場に残したかったのだが、どうやらすっかり萎えきってしまっているらしい華院をどう説得していいものやら分からず、口ごもってしまう。

その時、電話の向こうから源が思わぬ助け舟を出してくれた。

『おっと、すまねぇがおめぇさんにも手伝って欲しい事があるんだよ』

『あ? 何で俺が……』

「そういう事でしたら、そちらはお二人にお任せしますね!! 自分は本部への連絡もありますので一旦失礼します!!」

『あぁ!? おい!!』

華院の怒声が聞こえなかったフリをして、夜亟は素早く通話を終了させた。

腹の底から重々しいため息を吐く夜亟を、麗子がザマァ見ろと言わんばかりに眺めていた。

「これで華院さんがお前を殺してくれるかもしれないな」

「……あながち冗談に聞こえませんね」

「ん? 私は至って本気で言っているのだが?」

「こんな時くらい優しくして下さいよ……」

自らの置かれた状況に肩を落とすしかない夜亟だった。




「クソが!! 切りやがったな!!?」

プープーという音に神経を逆撫でされた華院は、手に持つスマホを床に叩きつけるのをどうにか自制すると、すぐ目の前に立つ源を睨みつけた。

「おい、テメェ一体どういうつもりだ?」

「そんな怖い顔するんじゃねえよ。なぁに、ちと面通しをして欲しいんだよ。俺ぁ写真でしか太田の顔を見た事が無いんでなぁ」

源は申し訳なさそうにそう言うと、ドアストッパーで止めておいた扉を開け部屋の中へと入って行った。

「ちっ……」

太田は消えたリデラへと繋がる、ようやく見つける事の出来た唯一の糸だったのだ。

その彼が殺され、リデラに辿り着ける確率が限りなく低くなった以上、このまま帰ってもいいと華院は本気で考えていた。

が、わざわざ時間を割いてまで呼び出した相手を殺されたのだ。

腹が立っていないと言えば嘘になる。

「ま、あのオヤジに恩を売るのも悪くはねぇか……」

華院は開け放たれたらままのドアを潜り抜け、念のため扉を閉めた。

中は評判に違わぬ、豪勢な造りになっていた。

大きな窓の外には美しい夜景が広がり、置かれている調度品はどれも高級感の溢れる品だった。

しかし、その最高級スイートを台無しにしてしまうモノがベッドの上に存在していた。

「こりゃあ……ご機嫌だな」


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