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背後には? その一

日が沈みきったにも関わらず、そこは人工的な光によって照らされ、多くの人々が行き交い賑わっていた。

高層ビルの窓に映り込む光はまるで歪んだアートの様に、見るものの心を塗りつぶす。

人の群れが寄り付かない空白地帯で、一組の男女は目の前にそびえるビルを観察していた。

「私まで来る必要があったか?」

「いやぁ、正直今回は上にバレない様にかなり慎重に動いてまして……人手が足りないんですよ。麗子さんなら、何かあった時に頼りになるので」

「ま、コチラとしても情報は手に入れたいからな……但し、報酬はキッチリ頂くからな」

「勿論、心得ております」

二人は東京のとある高級ホテルの近くに陣取り待機していた。

何故なら─────

「しかし、タダの面会でこんな場所を指定してくるなんて流石というか……指定してきた部屋は、スイートなんだろう?」

「ええ、最上階の特別スイートルームですね。現役国会議員ともなるとやる事が違いますね」

「面会相手があの『死神』だから、と考えても度が過ぎると思うのだがね」

そう、彼らは不正入国を手引きした疑いのある国会議員とのアポイントメントを取り付けた華院をサポートする為にここまで来ていた。

夜亟からしてみれば普段から足を運ぶ範囲での活動になるのだが、麗子はどうにも都会の空気に馴染めず、早く用件を済ませて帰りたい所だった。

「金と権力を手に入れた人間の考える事は分からんな。そもそもコイツ……太田慶次(おおたけいじ)だったか? 華院を雇う様な奴なんだろう? 裏の魔術師と繋がりがあるのは明白じゃないか」

麗子が取り出した写真には三十代前半のいかにもエネルギーに満ち溢れていそうな、スーツ姿の男性が写っていた。

呆れた表情を作る麗子に夜亟が困った様に事情を説明する。

「麗子さんの仰る通りではあるのですが……言ってしまえば魔術師なんて今の所は、裏の存在な訳でして……」

「なるほど、対魔課とも繋がりがある訳か」

「ええ、まあ……」

「だとすれば尚更真っ黒だな。もはや対魔課の存在を知っている連中を片っ端から取り調べた方が早いと思うがな」

皮肉げに笑う麗子は実際、そうするのが正解だと本気で考えていた。

対魔課という名称が付いたのは最近だが、それに類する組織は昔から政府によって作られていた。

それは、魔術や魔族という物が存在する以上、それらに関連した事件や事故が起こり、普通の警察では対処しきれなかった歴史があるせいだ。

ただ、政府の人間はその存在をひた隠しにしている。

勿論、一般人の混乱を防ぐ、他国と足並みを揃えるという側面もある。

しかし本音の所は違う人間もいるのだ。

彼らは魔術を自分の為に使い、魔術師を利用して時に難局を乗り切ってきた。

そのアドバンテージを手放したくない人間が多数を占めるからこその現状なのだ。

要するに、対魔課の存在を知る人間の中にも魔術での犯罪に手を出している者は確実に紛れ込んでいる。

彼らは用意にそれを隠蔽する事が出来る立場にあるのだから。

麗子の言わんとする所は夜亟も分かっていた。

「自分としては、それをやってみたいと思わなくも無いのですが……」

「そうすれば、お前の顔を見る事も無くなる訳だ。どうだ? 死に花を咲かせてみるというのは?」

「まさか、麗子さんを射止めるまで死ぬ気はありませんよ」

「吐き気がする宣言をありがとう。さて……」

麗子は素早く腕時計を確認すると、夜亟に目配せし

「そろそろ時間だな……人避けと敵意察知の術式は構築済みだ。他に準備しておく物は無いな?」

「それだけ用意して頂けただけでも有難いですよ、では連絡してみましょうか」

夜亟はポケットから携帯を取り出すと、履歴の一番上の番号へと電話を掛けた。

三回目のコールで繋がり、耳元から不機嫌そうな男の声が聞こえてくる。

『いつまで待たせんだぁ!?』

「いやぁ、すいませんすいません……って、約束の時間まで後十五分程あるのでは?」

『こんなウザってぇ所で待つ方の身にもなりやがれ』

「自分に言われましても……」

夜亟は華院の理不尽な怒りに戸惑いを隠せなかった。

『で? 俺は結局どうすりゃいいんだ? とっちめてルミを狙ったあの屑野郎を知ってるかどうか聞きゃいいのかぁ?』

何やら不満が溜まっているらしく、過激な事を言い出した華院に夜亟が慌ててブレーキを掛ける。

華院と連絡を取り合う様になってから気苦労が増えている気がした。

「そんな事をしてしまったらコッチが潰されますよ」

『奴が暫く口を聞けない様にすりゃイイじゃねえか』

夜亟は頭痛がして来た。

このままでは本当にやりかねない勢いだ。

「取り敢えず、今回は自分の考えに従って頂けませんか? 勿論、相応のお礼はさせて頂きますので……」

『ケッ! 冗談も通じねぇのかよ』

冗談になっていないから胃が痛いのだが、そんな事を言ってしまったら本当に殺されかねなかった。

『今回の所は指示に従ってやるよ。んで? どうすりゃいい』

「ありがとうございます。今、華院さんはどこにいらっしゃるんですか?」

『最上階のエレベーターホールだ。あと五分経ったら奴の部屋に移動する』

「了解です。では、面会の時は通話を切らずに携帯を持っておいて下さい。それとなく、探りを入れて頂ければそれで結構ですので」

『ケッ……ちとつまんねーが、それでやってやるよ』

余りにもアバウトな夜亟の指示だったが、華院が反発する事は無かった。

何故なら、太田が自分との面会を受けた時点で何かしら後ろめたい事があるのは確実だと華院は睨んでいたからである。

夜亟と麗子が話していた通り、華院は太田がその筋の魔術師と関わっている事も当然知っている。

そういった依頼人は一度依頼が終わった後は関与を隠そうとすることが多く、また誰かからか狙われるまで自分の方から連絡を取ろうともせず、こちらからのコンタクトにも反応が鈍い事が常である。

しかし、太田は華院が理由も告げずに面会をしたいと申し出て直ぐに許可を出して来た。

怪しすぎるにも程があるのだ。

「いやぁ、助かります。それでは自分達は予定通り何かあるまで待機していますので」

『あぁ……よし、そろそろ移動するぜ。期待して待ってな』





「(糞が、何でワザワザこんな場所指定してきやがる……どう考えても密会向きの場所じゃねえだろ)」

不機嫌な表情を隠そうともしない華院は今一度エレベーターホールに設置された鏡で自分の姿を確認した。

そこに映る自分の姿を見てますます彼は苛立ちを感じてしまう。

お硬いブラックのスーツ上下に、オールバックに整えられた髪。

本人の様相も相まって明らかに堅気では無い雰囲気が漂っているのだが、流石は有名所のホテルである。

こうでもしないともっと浮いてしまうのだ。

「(とっとと聞くこと聞いて帰るか……)」

スーツ自体はいつもの魔具製の服を変化させただけなので着替える手間等は掛かっていないのだが、単純に自分がこういう格好をしている事自体が彼は不満だった。

「(さてと……)」

目的の部屋の前に辿り着いた彼はゆっくりと扉をノックした。

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