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ゴーストケース 2

「………陣、居るんでしょ?」

屋上から校舎内に戻った舞は、誰の姿も見えない階段に向かってそう言った。

「……」

すると、踊り場の辺りの空間が溶けるようにして、若干気まずそうな陣の姿が現れた。

陣は舞から目を逸らしながら頭を掻き、何を言おうかと迷っているようだった。

「はあ……陣、別に私は何とも無いから」

舞がため息を吐きながら、そう呟くと陣はビクッ!と体を強ばらせる。

「(こういう時だけは、分かりやすわね……)もう教室戻るけど、アンタは?」

「………なあ、舞。もう少し気をつけてくれよ。アイツ……霧上が普通じゃないって気づいてたんだろ?」

舞の質問には答えず、陣は深刻そうな顔でどうにかそれだけ口にした。

彼なりに舞の事を心配しているのは本人にも伝わった。しかし

「そんな事、アンタに言われる筋合い無いわよ。私の言う事は全然聞かない癖に私には指図するの?」

舞の正論に陣はグッと口を詰まらせてしまった。

舞は特に何も無かったかのように階段を降り、陣の隣で立ち止まるともう一度訪ねた。

「ほら、教室戻るわよ」

「……ああ」

舞は、陣との距離感ご上手く掴めない事にもどかしさを感じていた。

「(もし、私がこんな体質じゃなかったら……)」

いや、もしこの体質が無ければきっと陣とは出会えなかった。

それが分かっているからこそ、舞は自分の体質とどう向き合えば良いのか分からなかった。




その頃、探偵事務所では麗子と緋志が頭を悩ませていた。

「ふうむ……紅道華院から貰った丸薬を使えば一時的に吸血鬼の力を得られるのだろう?それなら魔眼を使い続けて霊を探す事も可能なんじゃないかい?」

「それは……そうかもしれないんですが。実は華院さんから詳しい説明は受けてなくて……効果がどれ位続くのかも分かりませんし。」

「もしも効果が切れるまでに探しきれなければ厳しいか……では、やはり……」

麗子の呟きに緋志が苦々しい表情で答える。

「何とか陣を説得してから、舞に協力を頼んでみるしかないですね……」

緋志はその時の事を考えると気が重くなった。

恐らく陣は猛反対するだろうし、下手をすれば陣の協力すら得られなくなるかもしれない。

さらに────────

「もし、陣を説得できて、舞からもオーケーを貰えたとして、実際に霊を退治する時が大変ですよ」

「確かに……舞ちゃんは魔術が使えないからね。誰かが常にガードしてないと危険か……当然、陣君がその役に就こうとするだろうけどね」

緋志の言わんとする事は麗子にキチンと伝わったようだ。

陣が舞のガードに付きっきりになってしまうと、霊に対して決定打を打てなくなってしまう。

かと言って、陣がガードの役目を緋志に譲るとも思えない。

「そもそも、君と陣君だけで霊とやり合えるかも不明だからね……」

「(せめて、俺が少しでも魔術を使えれば……)」

緋志が悔しそうに唇を噛む。

が、次の瞬間、緋志がハッ!としたような表情になり、麗子に尋ねた。

「麗子さん、ルミの訓練はどんな感じですか?」

ルミの訓練。

それはルミがこの町で暮らし始めてから麗子によって行われている、魔術の指導だ。

彼女も実家から何の援助も無い状態で暮らす事になった為、麗子の事務所で雑用を引き受ける事になった。

しかし、戦闘経験が皆無なルミがそのまま仕事をするのは危険という事で麗子から魔術を習っている、という訳なのだが────

「ん? そうだね、今は魔力の制御については一通り教え終わって、簡単な符術なら使える状態まで仕上がっているよ」

「!? たった一週間でそこまでいったんですか?」

普段は至って冷静な緋志も思わず驚いてしまった。

一般的に魔力の制御を習得するだけでも一ヶ月はかかると聞いた事があったのだが……

「いやあ、私もビックリしてしまったよ。ルミちゃんにはセンスがあるみたいだね」

「こう言ったらルミに悪いですけど、何か意外ですね……でも、ルミが符術を使えるなら有難いです」

緋志はニヤリと笑うと麗子に自分の考えを話して聞かせた。

麗子は黙って緋志の説明を聞き終わると

「……うん、良いんじゃないかな。正直、駄々をこねられる状況でも無いからね……じゃあ、陣君達への説明と説得も頼めるかい?」

サラリと仕事を増やされた緋志だったが特に文句も言わずに頷いた。

「じゃあ、そろそろ時間もマズイので俺はこれで……放課後にまた来ますから」

「ああ、助かるよ。それじゃあよろしく」

緋志は急いで探偵事務所を出ると学校へと駆け足で向かって行った。




「おーい緋志、今朝何かあったのか?やけに遅かったじゃねーか」

ホームルームが終わり他の生徒と同様に、緋志が次の授業の準備をしていると、わざわざ陣が緋志の席までやって来て、そう尋ねて来た。

「ん……まあ、ちょっと長い話になりそうだから、昼休みに話すよ」

「……そっか。ま、俺も話したい事あるし丁度いいかね」

陣はヒラヒラと手を振りながら自分の席に戻って行った。

「(舞と何かあったのか……これは、依頼の話は慎重にした方が良さそうだな)」

緋志は今までの経験と舞のどこか不機嫌そうな様子から昼のミッションが難しくなった事を悟り思わずため息を吐きそうになってのだった。



「(緋志、何だか疲れてるみたい……)」

一方、ルミは教材の準備をしながら緋志の様子を盗み見ていた。何となく朝来るのが遅かっただけで一々話を聞きに行っては鬱陶しがられるかと心配だっのだ。

しかし、陣がそれらしき事を聞いているのを見て自分も行けば良かったと後悔がつのってしまった。

「(あうう……陣さんは良いなあ。あんなにアッサリ話しかけに行けて……)」

チラチラと見てくるルミの視線に気づいたのか緋志が、ルミの方へ視線を向けてきた。

ルミは思わず顔を逸らしてしまってから、さらに後悔してしまう。

「(あああ……もうダメだ……私愛想なさすぎたよ………)」

こうして、どことなくギクシャクした空気の一日が始まったのだった。



昼休み

チャイムが鳴って授業終了のごうれいが終わると生徒達がガヤガヤと動き出した。

緋志もルミと陣と舞を誘おうと立ち上がる。

「(夏菜だけ仲間はずれってのはマズイか……)」

緋志が頭を悩ませながらルミに話しかける。

「ルミ」

「ど、どうしたの!?」

「いや、どうもしないけど……昼飯一緒に食べないか?」

「へ? う、うん」

若干ルミの挙動が気になった緋志だったが、特に何も言わずに今度は陣を誘おうと彼の姿を探す。

すると、気を利かせて陣の方から二人の所に来てくれた。

「おーす! お二人さん、俺も飯に混ぜてくれよ」

「ああ……あと舞も誘いたいんだけど」

そこで陣はある程度、緋志の言いたい事を理解したらしい。

表情こそ変わらなかったが、一瞬ピリピリとした空気が陣から漏れだした。

「……あいつ、今日は学食だってよ」

「そっか……弁当組が食堂の席取るのもあれだし今日はこのメンバーで食べるか」

「おう、じゃあ俺の席の周りで食べようぜ。今日は空いてるからよ」

どうやら間が悪かったらしく舞とは話せないようだ。

「(ま、取り敢えずは陣だな……)」

「(うう……何で二人ともバチバチしてるの〜……)」

二人の間にただならぬ何かを感じて食欲を無くしてしまったルミが恐らく一番の被害者だった。


「ここ、良いかしら?」

食堂でいつものように一人で食事を採っていた霧上の向かい側から声が掛けられた。

「……別に、構わないが」

「そう。じゃあ、お邪魔するわね」

そう言って座ったのは舞だった。

彼女の今日の選択は日替わりランチだ。メインの生姜焼きが食欲をそそる。

「……何か用か?」

「何でそんなに身構えてるのよ……言っておくけど、私は魔術やら何やらは使えませんからね」

「何? 魔術を使えないのか? では、何故私が……普通ではないと気づいた?」

普通、の単語を口にする時に明らかに霧上の言葉が止まったが、舞は気にせず答える。

「別にただ分かったのよ。あなた……霊を連れ歩いてるでしょ?三人」

舞の発言に霧上は完璧に固まってしまった。

「まさか……霊が見えるのか?」

「違うわよ。何となく分かるの。ルミちゃんとか、あなたに憑いてる霊とか……そういうのが」

サバサバとした様子で話す舞に霧上は何と声を掛ければ良いのか分からなくなってしまった。

────普通の基準

きっと、舞にとっては『そういうモノ』はあって当たり前の存在なのだ。

「……」

「ねえ」

「!? な、何だ」

「良かったら今日も一緒に勉強しない? ルミちゃんも喜ぶし、夏菜の赤点回避率も上がりそうだし、私も教えて貰いたい所があるし……あ、でも夏菜は呼び出し食らってたから厳しいかも」

そう言って舞は微笑みかけてくる。

霧上は自分が何を感じているのか分からなかった。

ただ、彼女は頷いてしまったのだった。

そういえば、誰かと食事を摂るのも随分と久しぶりだった。

この学校に来てから胸の奥が疼く気がする。

霧上がその理由に気づくには、もう少し時間が必要だった。

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