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陰謀

「よう、糞ガキ」

「……おはようございます、華院さん」

早朝六時、チャイムが鳴ったので出てみると、『死神』の異名で恐れられる吸血鬼が立っていた。

反射的に扉を閉めたくなったが、どうにか自制し挨拶を返す。

「えっと、取り敢えず上がりますか?」

「ああ」

まさか命を奪われそうになった相手を家の中に招く事になるとは思わなかった。

一体どんな用件なのだろう?

「あ、もしかしてルミに用事があったけど、まだ寝てたんですか?」

ルミは緋志達の高校に転校してくると同時に、なんと、緋志の隣室に引っ越して来た。

あの日、当然の如く緋志は麗子を問い詰めた。すると、彼女は悪びれずにニヤニヤとしながら種を明かした。

曰く、突然緋志達の前から消えたあの日、麗子は紅道家を訪ねていたらしい。

更には、そこで現当主と話し合いを行って来たらしい。

そして、麗子の説得のお陰かは分からないが、ルミの母親は条件付きでルミが人として暮らす事を許したらしい。

その条件とは華院を倒す事。もちろん、殺すのはご法度。

つまり、緋志達は意図せず条件をクリアし、ルミの自由を勝ち取っていたのだ。

そんな訳で、華院が訪ねてくるとしたらルミに用事があっての事なのだろうと思い、そう尋ねたのだか………

「いや、今日はテメーに用があんだよ」

「俺に、ですか?」

ダルそうな素振りを隠そうともせず彼は椅子に腰掛けながら頷いた。

そして、懐から布で出来ているらしき茶色い巾着の様なモノを取り出した。

それをテーブルの上に置き、再び口を開く。

「こいつをお前に届けに来た」

「えっと、これは……」

「開けてみろ」

華院に促されるまま、緋志は巾着の口を開き中を確かめた。すると

「赤い、玉?」

巾着の中に赤く輝く球体状のモノが確認できた。

しかし、それを見ても、その玉がどのような物なのか緋志には全く検討がつかなかった。

そんな緋志の内心に気づいたのか華院はもう一度指示を出した。

「お前、魔眼使えるんだろ?」

「今の状態だと数秒が限界ですけど……」

「構わん。魔眼を発動させて、そいつを見てみろ」

言われるままに、緋志は眼の力を発動させた。

「?」

魔眼を発動させてすぐに、緋志は赤い玉が仄かに魔力を纏わせている事に気づく。

「何が見えた?」

「魔力が……それも何種類か。この玉一体幾つの魔術が掛かってるんですか?」

「そこは気にすんな。ま、簡単に説明するとこん中には血が入ってる。尚且、それが痛まないように魔術で保護もしてある」

「血って、まさか……」

「まあ、流石にここまで言えば分かるか。そうだよ、コイツはルミの血が入った丸薬だ。何でこんなモン用意したかは言わなくても分かるな?」

ルミが人間として暮らすための条件は確かに満たしていた。しかし、彼女は緋志達の学校に通いたがったのだ。結果、その為の条件が追加された。

それは、何があってもルミを守り抜く事、緋志達の力で。

「……確かに、ルミを守る為には力が必要です。でも、麗子さんが居てくれれば肉体強化の術は掛けてもらえますし…………」

「で?魔眼は使えんのか?」

「それは……」

痛い所を突かれて緋志は口を閉ざしてしまう。

「テメーみたいな雑魚が俺を負かせたのは何でだ?」

「……」

「オメーの持つ強みってのは相当限られてんだ。魔術が使えない分な。それを忘れんなよ、糞ガキ」

華院はまくし立てる様にそう言い立ち上がった。

どうやら用が終わったので帰るらしい。

緋志も見送りをしようと立ち上がる。華院を玄関口まで送り、一言礼を述べる。

「ありがとうございました」

「……勘違いすんなよ、テメーの事なんざ俺はどうでも良い。ただ」

振り返り、緋志を睨みつける彼の目は冷たく光っていた。

「あいつに何かあったら殺す。それだけだ」

華院は感づいていたのだ。これから起こる波乱の予感に。



都内某所

「で?この部屋から容疑者の姿が消えたってえのか?」

「は、はい……」

目立たないビルの一室で、無精髭を生やした中年男性がタバコを咥えながらしかめっ面でそう訪ねた。

質問の相手は対魔課、夜亟一馬だ。

上司から厳しく問い詰められた夜亟は肩を落として釈明する。

「じ、自分が本部まで護送し、その後の扱いについて上に問い合せた所、すぐに(げん)さんに尋問させろと言われまして……」

「それで、奴をこの部屋に入れてから俺を呼びに来たってえか?」

夜亟から源と呼ばれた男は顎を撫でながら確認した。

同時にため息を吐きながら夜亟に再度尋ねる。

「オメェよ、何でお前さんの檻の中に入れたまま俺を呼びに来なかったんだ?ん?」

「そ、それは自分の檻は入れるのは簡単なのですが、出すのは難しいので……源さんを待たせてしまうかと……それにこの部屋は魔術で結界が……」

「バカヤロー!!!」

ここでついに男の罵声が飛んだ。

『対魔課の鬼』と呼ばれる源元三(みなもとげんぞう)の怒鳴り声に流石の夜亟も肩を震わせた。

「そんな気遣いされた所で容疑者に逃げられたら意味あるか!!!

「す、すいませんでした!!!」

ガバッと頭を下げた夜亟を見て源は頭を掻いた。

彼は部下を叱るつもり等無かったのだ。しかし、事態のあまりの大きさに少々取り乱してしまい、夜亟に当たってしまった。

「頭上げろ夜亟」

「は、はい」

「いいか、ここは対魔課の本部だ。そこからたかがCクラス程度の対魔師が自力で逃げられるとは思えん」

源の言葉に夜亟の表情が引き締められる。

「まさか……源さん」

「ああ」

テーブルに置かれた灰皿にタバコを押し付け源はある推測を述べた。

(やっこ)さんの背後にゃあトンデモない大物がいるかもしれん」

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