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共闘

「ふむ………」

陣によって青い炎の壁に閉じ込められたリデラだったが、その顔には余裕が浮かんでいた。

そもそも、自らを閉じ込めている炎からは全く熱さを感じられなかったのだ。これは恐らく直接的な攻撃手段ではない。

大方、苦し紛れの時間稼ぎだろう。

「実体は一応あるようだが、普通の炎の様な性質は無いようですね」

そのまま通り抜けても良さそうなモノだが、リデラは万が一の場合を考え、炎を消す事にした。

「これをこんな所で使う事になるとは……」

リデラが不服そうに懐から取り出したのは緑の芳光が宿った小瓶だった。

ドイツで仕入れた貴重なその小瓶をリデラは勢いよく地面に叩きつけた!!

カシャン! と儚い音と共に小瓶が砕け散る。

と、その瞬間リデラを取り巻くように風の渦が巻き起こった。

陣の炎は魔力を纏った風の力によってあっけなく散り散りになってしまった。

壁が消え、リデラの目に飛び込んできた光景は

「ん? 」

彼にとって予想外のものだった。



壁が消える数分前

緋志と華院の間に沈黙が走っていた。

華院には目の前の人間が何を言っているのか理解出来なかったのだ。

確かに、緋志の言う通りあのイカレた退魔師からルミを連れて逃げるのは困難だろう。

だが、可能性がない訳では無い。

華院とて無抵抗なまま殺されるつもりは無い。要するに華院を囮にすればまだ逃げ切れる可能性もあるという事だ。

「(この糞ガキ、そんな事も分かんねーのか?)」

ルミを救う為の貴重な時間を消費する事に苛立ちながら、華院は口を開こうとした。が、

「あなたは、ルミを守ろうとしている」

緋志の静かな声に、彼の口は縫い付けられてしまった。

「今なら分かる。あなたはあの退魔師がルミを狙っていると知ったからあそこまで強硬にルミを連れ戻そうとした。今だって、自分を囮にしてルミを逃がそうとしている」

「……」

華院は何も言わずに、緋志の言葉を聞いている。

「確かに、やり方には問題があった。でも、結局あなたはルミを守ろうとしているだけだ……」

それが、緋志には眩しかった。

彼が体験した事の無い家族の絆

それが、華院からは確かに感じられたのだ。

寂しげな緋志の表情を見た華院は感情を表に出さぬまま徐に口を開いた。

「……まあ、確かに俺も死なないなら、それに越した事は無いな。で?俺に何をさせる気だ?」

「!」

陣は驚きの余り口をポカーンと開け放った。

明らかに人間を見下していた吸血鬼が、緋志の提案に乗った?

そんな陣を置き去りにして緋志は計画を打ち明け始めた。

「ありがとうございます……華院さんには、血晶で刀を作って頂きたいんです」

「刀?作れない事もねーが……そもそも血晶ってのはそこまで応用が利く能力じゃねえ。今の俺じゃ作るのに時間も掛かるし、形を保てるのはほんの数十秒だぞ?」

「はい、それで大丈夫です。時間はどれくらい掛かりますか? 」

「どっかの糞ガキのせいか魔力の制御が上手くいかねーからな、いつもなら一瞬でできるが……五分って所か」

緋志はその言葉に頷くと、今度は陣に向かって説明を始めた。

生き残るために



「オヤオヤ……てっきり逃げ出したものと思っていましたが……」

炎の壁から開放されたリデラの眼前に緋志と陣が仁王立ちしていた。

彼らの後方には吸血鬼が二匹控えている。

そう、まるで

「まさか、吸血鬼を守るつもりですか?」

「だったら何だ?」

「……汚らわしい」

リデラは吐き捨てる様に呟くとレイピアを構えた。

突き刺すような殺気が緋志と陣の肌を撫でる。

誰よりも先に動いたのは陣だった。

「おら!!」

「む?」

狐火の球を作り出すと、それをリデラに向かって打ち出す。

しかし、特に慌てもせずリデラはそれを躱してしまう。

「っ!」

炎を躱すそこ一瞬の隙を緋志は見逃さなかった。

鋭い光がリデラを襲う。

が、惜しくもレイピアにより緋志の斬撃は防がれ、キン!! という硬質な音が辺りに響く。

「ふっ!!」

それでも構わず、緋志は再度、小太刀を振り抜いた。

「(甘い!!)」

だが、再度の攻撃はキッチリとリデラの瞳に映ってしまっていた。

感覚が引き伸ばされ、陽炎の様な影が緋志の体を追い越し、彼の未来の動きをなぞってしまう。

リデラは最小限の動きで刃を躱し、柄による一撃を見舞った。

「かっは!!!」

緋志がえづきながら体勢を崩す。

直後、細い剣先が緋志の体を貫いた

「ぐっ!?」

リデラは僅かに笑みを浮かべながらレイピアを引き抜き、勢いのまま回し蹴りを緋志に見舞った。

魔術で強化された脚力が緋志を容赦なく吹き飛ばす!

「緋志!!」

陣が怒りの声を上げリデラに向かって走り出す。

緋志は何とか受身を取りながら、必死に声を出す

「バっ!!止めろ!!!」

陣の実力であいつの間合いに入ったら……

悪寒が体を突き抜けるよりも早く、緋志は再度リデラに攻撃を仕掛けようとした。

しかし

「助かりましたよ」

陣が拳を振りかぶった瞬間、ザシュッという不吉な音が緋志の耳に届いた

「ぐっ、うう……!!」

焼けるような痛みに耐えながら陣は何とかリデラから距離を離そうとする。

が、それよりも早く引き抜かれた刃が再び陣に襲いかかった。

「糞が!!」

陣が叫んだ瞬間、リデラの視界から陣の姿が消える

それでも、リデラは気にせずレイピアを横なぎにした。

僅かな手応えとともに切っ先に濡れる液体が付着し、地面にも飛び散った。

「おおおおお!!!」

緋志は怒りに突き動かされ、リデラに飛びかかる

「『神楽(かぐら)』!!」

緋志は無駄と分かっていながらも、遠丞の力を発動させた。

普通の人間には視認も難しい速度で緋志の体が動き出す。が

「無駄ですよ」

あっさりと躱され、カウンターで胴を切られてしまう。

血を撒き散らしらしながら、緋志は再度技を発動させる。

「『懺架(ざんか)』!!」

「しつこいですよ?」

緋志の体が動き出すよりも先に、凄まじい衝撃が彼を吹き飛ばした。

ゴロゴロと転がりながら、獣の様な動作で立ち上がる。

リデラは蹴りの姿勢を戻し、冷笑を浮かべながら緋志に語りかける。

「無駄ですよ。あなたは学習しないのですかな?」

「ハアハア……」

「正直、あなたよりそちらに転がっている狐少年の方が厄介でしたよ。まあ、もう動けないでしょうが」

緋志がチラリと横目で見た先には血を流しながら倒れる陣の姿があった。

「くっ……」

緋志は歯を食いしばり、構えを立て直す。

華院からの合図はまだ無い

「(クソ、まだなのか!?)」


「(ふむ、先程から死神は一切動きませんね。どうやら遠丞の技が相当効いたようですな……無様なものだ)」

侮蔑の眼差しは、目を閉じ精神を集中させている華院には届かなかった。

彼は迷いを捨て、必死に魔力を練っていた。

妹を守るために

「さて、そろそろ終わりにしましょう。結界を張っているのはこの辺りだけですのでそろそろこの国のエージェントが来てもおかしくありませんしね」

「勝手に決めないでもらいたいな!!」

緋志は一瞬でリデラに駆け寄る。

しかし

「無駄ですよ」

飛び込んだ先には既に刃が置かれていた。

「っ!!」

緋志は無理矢理に体を捻り、その凶刃を交わそうとする。

だが、緋志の体が切っ先を避けた途端、リデラも体を回した。

結果、非常にの脇腹に刃が深々と埋まり、緋志は衝撃で吹き飛ばされた。

同時に、緋志の手から小太刀が離れてしまう。

「ぐう、あ……」

焼けるような痛みに緋志の視界が歪められる。

どうにか顔を上げた緋志はある異変に気づいた。

傷の治りが遅い。

「(もう、体が……)」

吸血鬼の力はあくまで仮のもの。

その有効期限がきれようとしているのだ。

「どうやら、おしまいのようですね」

リデラが血を払いながら緋志に向き直る。

「汚らわしい魔族に肩入れ等しなければ、あなただけは生かして上げても良かったのですがね……」

「……黙れよ」

「何?」

「黙れって言ったんだよ」

お前が何を知っている?

彼らの何を知っているというのだ?

魔族が汚れている?

「俺から言わせれば、お前の方が何倍も薄汚いねえよ!!」

ずっと、逃げてきた。

考えるのを怖がってきた。

何も考えず、魔族を狩ってきた。

でも

リデラのこめかみに青筋が浮かぶ。

そして、緋志に向かって何事かを叫ぼうとした瞬間

「受け取れ!!糞ガキ!!!」

声の方向を向いた緋志の目に一振りの真っ黒な刀が映った。

立ち上がり、掴む。

「血晶?無駄な事を……」

リデラが嘲笑を浮かべ、レイピアを構え直す。

緋志は先程までの怒声が嘘の様に静かだった。緩やかに、緋志がリデラに近づいていく。

そこで、リデラは異変に気づいた。

「(何だ?眼は発動しているのに……動きが、読めない!?)」

音も無く、緋志は近づいてくる。

その体からは、何か、異様な気配が立ち上っていた。

まるで、実体が無いかの様な不気味な気配。

「バカな、バカなバカな……」

「じゃあな、クソッタレ」

そこでリデラは緋志の姿を見失った。

「な、何が……」

確かに目の前にいたはずの少年の姿は消えていた。そして

「ば、バカな……」

彼の体には大きな斜め傷が走っていた。

傷を知覚すると同時に痛みがリデラの体から力を奪い、彼はそのまま倒れこんだ。

何が起きたのか一切理解出来ぬまま。


彼の背後で緋志は大きく息を吐いた。

手の中の刀は役目を終えた事が分かったのか、サラサラと崩れて無くなってしまった。

「何とか、なった……かな」

そのまま、緋志の意識は闇へと沈んでいった。

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