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決着

 緋志はフウ、と詰めていた息を吐き出した。

 どうにか勝つ事が出来た。当初よりも賭けに近い形の勝負となってしまったが。

 彼から少し離れた所に華院が横たわっていた。慎重に近づき、本当に華院を行動不能に追い込めたかを確認する。

「大丈夫ですか?」

「て、てめえ……何しやがった」

 華院は自分が受けた掌底がただの打撃ではなかったと感づいていた。

 緋志に攻撃を受けてから、魔力を制御する事が出来ないのだ。

 そのせいで、先ほどまで空に刻まれていた魔法陣は既に消え去り、夜を維持している結界も崩れかけていた。

 ぽつぽつと空に穴が開き、世界に光が戻っていく。

「俺の魔力を打撃を通して打ち込んで、あなたの体内を流れる魔力を乱しました。魔力が乱れれば魔術は使えませんし、同時に、体の機能、特に再生能力なんかも阻害できます。俺の家が生み出した、魔族を生け捕りにするための技です」

「ああ? 生け捕り?」

 華院は技の内容全体より最後の部分に疑問を感じた。

「お前、俺を殺さずに仕留めようとしやがったのか?」

 緋志はフードを脱ぎ捨て、やや眩しそうに、すっかり元の青色に戻った空を見上げてこう言った。

「依頼人の家族を殺すわけにはいかないでしょう」

 屈辱だった。

 華院は歯を食いしばると、自分を見下ろす人間に怨嗟の眼差しを向けた。

「てめえ、後悔すんじゃねえぞ。俺は一度負けたくらいじゃ諦めねえ。絶対にあいつを連れ戻す!」

「……本当に、うちの家よりちゃんとした家族ですよね。紅道家の人たちは」

 緋志が誰にともなく呟いた言葉は華院の耳には届かなかった。

 華院がなおも何かを言おうと口を開きかけたその時

「お兄様!」

 駆け寄って来たルミに先を越されてしまった。

「お兄様……」

「何だ? お前がこいつらに頼んだんだろ? 何で心配そうな顔してやがる」

「私は……お兄様の妹ですから」

 ルミは跪き、華院の頭に手を添えた。

「……人間として生きるなんざお前にゃ無理だ。分かんだろ?」

「いいえ、お兄様。」

 ルミは一旦言葉を切り、大きく息を吸った。

「私は……誰でも、自分がどのように生きていくかを決める事は可能だと思います。生まれた時に定められた道を歩いていくだけが、全てではないと、そう思っています」

「……」

 華院は黙ったまま何も言わなかった。

 ルミはそんな彼を見て少し寂しそうな顔をすると緋志に声を掛けた。

「緋志、大丈夫?」

「あ〜ケガとかは無いよ、うん」

 が、答える緋志は若干挙動が怪しかった。

 意図的に、ルミと視線を合わせない様にしているように見える。

「? どうしたの?」

「いや、あの〜、吸血鬼が相手に血を飲ませる事についての説明は……」

 緋志が大変言いにくそうにそう言うと、ルミは顔を真っ赤に染めながら叫んだ。

「それは古いしきたりなの!!! いいから忘れて!!」

「……はい」

「おーい、お二人さーん、俺の事忘れてないかーい!」

 不幸にも放置された陣が悲痛な叫びを上げた。ルミはそちらをチラッと見て

「私が行って来るから!」

 早口でそう告げ、ツカツカと足早に陣の元へと向かって行った。

「おい、クソガキ」

「何ですか……」

「妹に手え出したら」「出しませんから」

 緋志はゲンナリしながらシスコン吸血鬼の方へ向き直った。

 この後は、麗子さんに報告して、あとは彼女が何かしらの策を用意していると言っていたので、それを実行に移せば終わりだ。

「えーと、取り敢えず俺が担ぎますから……」

 もうすぐ、全てが解決する。

 そんな幻想は、儚く砕け散った。



「ルミちゃん!!!」

 緊迫した声が緋志の耳に届いた。

 陣の方を振り返り、その光景を目の当たりにする。

「ルミ……?」

 彼女は地面に倒れこんでいる。

 彼女の背中に突き刺さっているのは

 禍々しい模様が付いた黒い矢だった。



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