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呪われた一族

ルミがしゃべったのを最後に、リビングには居心地の悪い沈黙が漂っていた。

 ルミは緋志の向かい側に座り、自分のやってしまった事を反省していた。

「(私、何であんな事言っちゃったんだろう……)」

 ルミにはあんな風に緋志の抱えた事情に踏み込む資格などないのだ。散々助けてもらっておいて、自分が不安になればそれを解消しようとする。自分勝手でわがままだ。

「(それに……私はまだ隠している事があるのに、緋志にはちゃんと教えろなんて……)」

 自己嫌悪が限界まで積もったルミは取り敢えず謝ろうと顔を上げた。

「あ、あの」

「なあ」

 そして、同じように顔を上げた緋志とバッチリ目が合ってしまった。

「え、な、何?」

「いや、そっちが先に…」

「ええと、その……」

「あーその……」

 しどろもどろになって結局二人とも口を噤んでしまう。

「ふ、ふふ」

「く、はは」

 そして、どちらからともなく笑い出してしまう。ひとしきり笑った後で緋志の方から声を掛ける。

「何してるんだろうな、俺たち」

「さあ?」

 ルミが首を傾げ、緋志は肩を竦めた。二人の表情は先ほどとは打って変わって穏やかだった。

「まあ、そうだな。うん。確かに、俺は自分の事何にも話してなかったな。それは……人と接するうえでは致命的だな。昔、麗子さんにも注意されたんだけどな……」

 緋志は自分に色々な事を教えてくれた恩人の事を思い出した。

 彼女の教えを無駄にしないよう注意していたつもりだったが、どうやら甘かったらしい。

 ヤレヤレ、といった感じに首を振ると

「ちょっと待っててくれ。」

 そう言ってキッチンに向かった。

 しばらくして戻ってきた緋志の手には二つのマグカップが握られていた。

「どこから教えればいいか分かんないけど……取り敢えず、俺の生まれた家について教えようか」




 俺が生まれたのは普通の家じゃなかった。

 『遠丞』

 それが一族の名前だった。

 退魔師の一族の中ではそれほど大きくない、勢力で言えば中の上くらいだ。

 でも、遠丞は魔の世界で名が通ってる、特別な一族だ。

 『呪われた血』

 それが、生まれながらにして背負わされる遠丞の責務、その根底だ





「呪われた血……」

「まあ、何というか、うちのご先祖様は相当な魔族嫌いだったらしくてな。自分で魔族を狩り殺すだけじゃ我慢できず、一族を起こして……同時にひとつの術を作り出した。

 『血のつながる者に自らの持つ戦闘技術を無理やり伝授し、生まれながらの退魔師を生み出す。』

 そんな感じの術だ」

「伝授? 生まれながらに?」

 緋志の話を聞いたルミはチンプンカンプンだったようで、首を捻っている。

 緋志は陣に自分の事を教えた時と全く同じ反応に、思わず苦笑してしまった。

「まあ、いきなり言われても分からないよな……そうだな、例えば俺は物心ついた時、それこそ四、五歳の頃から仕事を手伝ってたな」

「え、ええ!? そ、そんなに小さい頃から?」

 というか、ルミには緋志の小さかった頃の姿が想像もつかなかった。

「だって俺は極論を言えば生まれてすぐの時でも遠丞家の体術を使えたんだ。何もしていなても遠丞の血が流れていれば、それだけで退魔師になれる……他にも型の名前を言えば体が勝手に動いてくれる。血が体を動かしてくれるんだそうだ。人に出せる限界の速度で、ね。普段は使わないけど、止めをさす時には効果的だ」

 緋志はそこで一口ココアを飲むとホッと息を吐いた。そして内心では少しビクつきながらルミの反応を伺う。

「そっか……だから緋志はあんな風に戦えるんだね」

 そう呟くルミは、何故かほんのちょっぴり嬉しそうだった。

「(気味悪がられるよりは良かったけど、何でルミ嬉しそうなんだ?)」

 声には出さなかったがルミは緋志に、自分と近いモノを感じていた。同時に緋志が自分の事を気にかけてくれたのは、自分の姿を重ね合わせていたからに過ぎない……

「(それは残念だなあ……)」

 何故そんな風に考えてしまうのかさしたる自覚もないまま、ルミは自分の胸が疼くのを感じた。しかし、今は自分のことを気にする時ではない。

「ルミ? どうかしたか?」

「ううん、なんでもないよ。……緋志、緋志は」

 ここまで踏み込むべきではないのかもしれない。それでも、傷つくことを恐れていては何時までたっても前に進めない。

 人間ってそういう生き物ではないだろうか。少なくともルミ自身はそう考えている。

だからルミはこう尋ねた。

「緋志はどうして家を出たの?」

 緋志の目つきが一気に険しくなる。

 それでもルミは目を逸らさなかった。

 吸い込まれるような瞳と強い意志を感じさせるその姿に緋志は抵抗することを諦めた。

「そう、だな」

 覚悟を決めて口を開く。しかし、同時に、緋志の中には不安がこびりついて離れなかった。

 自分の過去を話せばルミに嫌悪されてしまうのではないか、そんな不安が。


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