第一話
『コーヒーには毒がある』
別にカフェインの事ではない。
僕が入れるコーヒーには毒があるのだ。
僕の家は、先祖代々から続く暗殺者の一族だ。
父母は暗殺者。祖父母も暗殺者。
もちろん僕も暗殺者で、今春に高校一年になったばかりの妹も暗殺者だ。
依頼が来れば、家族の誰かが暗殺を実行する。
だからといって誰彼、無差別に殺す訳ではない。
依頼は、長年付き合いのある――信用出来る人からしか受け付けない。
暗殺の対象も犯罪者や、人には言えないようなことをしている奴らだけだ。
それから、家の祖父方の家系の人間は、普通の人とは違う特殊な力を持っている。
妹は『投げたナイフが100%急所に命中する』能力を持っている。
妹が投げるナイフは、確実に人間の急所に当てる事が出来るのだ。
父は『気配を完全に消す』能力を持っている。
例え目の前に居たとしても、絶対に誰にも気付かれずに行動する事が出来る。
母や祖母は、家に嫁入りしたため能力はもっていないが、それでも信じられない位の身体能力や技術を身に付けている。
祖父は……聞いた話では、複数の人間をいっぺんに殺すことが出来るらしい。
どんな能力かは分からないが、知らぬが仏である。
ただし上記の能力には限定条件が付きまとう。
妹は、足の指で投げたナイフでないと能力が発現しない。
そのため、妹の足の指は、手の指以上に発達している。
足の指で箸を持ち、小さな豆を摘むなんてお茶の子さいさいだ。
しかも家の中では、ドアを開けるのも足。リモコンのスイッチを押すのも足。足でスマホを操作したり、と常に足を使うため、行儀が悪いったらありゃしない。
また仕事の際、夏場はサンダルを脱げば良いが、靴を履いていた場合、わざわざ脱ぐ必要があるのだ。
なんとも間抜けに聞えるが、まだまともな部類である。
父は、能力を発動するために全裸になる必要がある。
透明人間かよ!とつっこみたくなるが、透明人間と違うのは生物は誤魔化せても、機械には通用しない事だ。
そのため監視カメラがあろうものなら、全裸のおっさんが映り込むことになる。
しかも能力の持続時間は10分であるため、その間に仕事を完了させないといけない。
実際に若い頃はストーリーキングとして、警察に厄介になった事もあるとかないとか。
あと父は裸族で家の中では常に裸である。中年のおっさんの裸とか、まじやめて欲しい。
限定条件や変な性癖こそあるものの、非常に強力な能力であることに変わりはない。
もちろん欠点もある。が、それはまた今度、話をしよう。
さて、コーヒーの話に戻ろう。
僕の能力は『飲み物を毒物に変える』能力である。
僕が入れた飲み物は、僕が念じると毒物となるのだ。
毒の種類は僕でも判らない。
飲んだ人間は心臓麻痺や、脳卒中を起こして死に至るのである。
その上、飲み物を調べても毒物は検出されない。
これほど自然に、かつ病気に見せ掛けて殺す能力はそうそうない。
僕の能力は一切の痕跡を残さないため、非常に重宝されている。
限定条件は勿論、コーヒーであることだ。
その上、カップに注ぐだけでは駄目で、最低でもお湯を沸かして抽出したコーヒーでないと毒物に変化させることは出来ない。
これはそんな僕とある少女のお話。