9 平和な時間
魔物と遭遇することもなくあたし達は無事トンネルに到着することが出来た。
辺りは不気味なほど静まり返っていた。
すーちゃんはまた小さいサイズに戻りあたしの肩にちょこんと乗っている。
あたしは急いでトンネルの中に入り、現世界に通じる洞窟に向かった。
「すーちゃん、あたしは一度あっちの世界に戻るけど……また必ず来るからっ」
「へいっ! ありさ殿がお戻りになられるまでここでお待ちしてますー」
洞窟の前で残り2個になってしまったユニオンの1個を強く握り、あたしは瞳を閉じた。
ユニオンの割れる音と共に強い光が放たれた。
「……ん……んっ」
あたしはゆっくりと目を開けると
「おやっ」
聞き覚えのある声がすぐ近くからした
「……えええっっっ! なんでまだすーちゃんがいるの!? 」
「ふむぅ……わいにもさっぱりわかりまへん……てかありさ殿……めちゃめちゃ老けてますやん」
「失礼ねっ!!! あたしはもともとこの年齢なのっ! それにまだ23なんだから老けたとかいわないでっ! 」
「そ……それにその格好は少々刺激が……いくらわいが鳥でも……」
異世界の小学生体型と違い、現世界では服のサイズが合わず、ところどころ破れかなり肌が露出していた。
「ちょっ……ちょっと!! バカっ!!! 見ないでっっ!!! 」
「……ブフッ」
あたしの平手がすーちゃんの片頬をきれいに捉えた。
でも、あたしはそんなことよりすーちゃんがいるってことは現世界に戻れていないのかどうかが不安になった。
身体の感覚が戻らないまま急いでトンネルから出てみると、外は真っ暗で虫の声が鳴り響く天照山だった。
あたしは安堵の胸をなでおろし、すーちゃんに話しかけた。
「ちゃんと戻ってこれたみたいで良かったぁ。ここがあたしの住んでいる世界なの。でも……なんですーちゃんがこっちにきちゃったんだろうね……」
すーちゃんも分からないみたいで頭をクイッと傾げていた。
うーん。すーちゃんをここに置いとくわけにはいかないし……。あたしのアパートはペット禁止だし……。でも仕方ないかぁ……。
「すーちゃん! 今からあたしのアパートに帰るけど、ぜーったい騒いだり勝手に外に出ちゃダメだからねっ」
「ほいっ」
「そうやって素直な時は可愛いんだけどねぇ」
あたしはクスクス笑いアパートに戻る事にした。
「ただいまぁ~」
部屋に着いたあたしはすぐさま服を着替えソファーに倒れこんだ。
今回もいろいろあったけど、なんとか無事に帰ってくることが出来た。
しかし課題は増える一方で異世界の魔物退治はおろか魔法すらもまだ習得していない。
そしてフェアルシアさん達の救出……。ホントにあたしに出来るんだろーか……。
でも……頑張らないとね。
……そういえばっ!!
あの時は時間がなくて思いつかなかったけど、地下で見つけた魔法書。
あたしは何が書いてあるのか全然読めなかったけど、すーちゃんだったら解読できるかもっ。
それであたしか魔法を使えるようになればフェアルシアさん達を助けることができる。
絶対とは言い切れないけど、今はそれに懸けてみるしかないわね。
今日はゆっくり休んで明日また出発しないと。
考え事をしながら危うく寝てしまいそうになったあたしの視界には、冷蔵庫を漁る鳥の姿が飛び込んできた。
「ちょっとあんたっ!! 何してんのよっ! 」
「ファッ! ……い、いやぁ……ついうまいもんの匂いがしたもんで」
「異世界から来たのによく食べ物の場所とかわかるわね……てゆーか勝手に部屋の物さわらないでよねっ!
お腹空いてるなら何か用意してあげるからあっちで大人しくしててっ」
仕方なくキッチンに食事の準備を。
……って鳥なんだから木の実とかがいいのかな。
そんなの家にないし……パンとかなら食べるよね。
あたしは食パンを取り出し、食べやすいように細かくちぎっているとリビングの方で
「おうっ…………おうっ……」
……また変な声が聞える。
急いでリビングに行くと、そこにはあたしのお気に入りだった青い鳥さんのぬいぐるみが無残な状態になっていた。
「すーちゃん。済んだことはもうしょうがないけど、これからはちゃんと確認してね」
「は……はい」
あたしのビンタで両頬がポンポンに腫れたすーちゃんは萎縮していた。
どうやらすーちゃんは、リビングにいたあたしのぬいぐるみを魔物と思ったらしい。
「そもそもここは異世界と違って魔物はいないの。すごく平和な世界なの」
「ふむぅ……以後気をつけます」
あたしもすぐ手を出しちゃったことを反省しながら先ほどのパンをすーちゃんに差し出した。
***
「それじゃあ再び異世界にっ」
朝早起きして出発するつもりが、昨夜のすーちゃんとの騒ぎと朝寝坊しちゃったせいでトンネルに到着したのがお昼過ぎになってしまった。
今回も無事に帰れることを願いつつ、あたしはそっとユニオンに触れる。
「いくよ……すーちゃん」
「ういっ」
暗闇の世界に希望のような光を放ち、ユニオンは砕け散った。




