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16 VSケルベロス

現在の時刻は18時を過ぎたところ。こっちの世界でも時間の経過は同じなのかわからないけど、辺りはしっとりと薄暗さを増していて

村の不気味な雰囲気をより一層引き立てていく。ケルベロスもそうだけどあたしにとって馴染みのない異世界で、どんな魔物が出てくるかもわからない状況は

まったく気が抜けない状態だ。

そしてあたしのユニオンは現在4個。もしここから現世界に一旦戻る場合はあたしが魔法を使える状態にするために一個。

洞窟までのテレポートで一個。そして現世界に戻るために一個だから最低でも3個残しておかなきゃいけない。つまりユニオン1個分の滞在時間しか

今のあたしには残されていなかった。


「ケルベロスってたしか神話の話だと3つの頭を持つ犬みたいな生き物だったわよね」


ふいにアトリーナさんがみんなに問いかける。


「はい。わたしの読んだ本の中ではケルベロスは地獄の番犬ともいわれ、冥界から逃げ出そうとする魂を捕食していたそうです。

普段は甘い食べ物が好きで太陽の光には怯えるそうですが……本当のところはどうなのでしょう」



「もしその神話通りなら夜行性って事になるんじゃないのか? だからこの時間に村をうろついても……って見ろよあれ! 可愛い豆柴がいるじゃない」


とても可愛らしいアトリーナの声にあたしは耳を疑った。

どうやら民家で飼われている豆柴に興味を示したようだ。


「ああーん、すっごく可愛いっ」


こんな幸せそうなアトリーナさんの表情を初めて見てしまった。もしかして無類の可愛い物好きなのかしら。

繋がれている鎖を何度も張りつめる様に、豆柴もアトリーナさんに精一杯近づこうとしている。


「フェアルシアさん、アトリーナさんて……」


「もふもふしたい」


あんたもかいっ! 

両手をあわせ目をうるわせているフェアルシアさんにツッコミを入れようとした瞬間、アトリーナさんの甘い声は悲鳴に変わっていた。

右手を抑えながら震えているアトリーナさんの足元は瞬く間に赤く染まり、命に関わるくらいの出血をしているようだ。

そして先程の愛くるしい豆柴は愛くるしいまま。ただその可愛い顔がいつの間にか3つになっていた。その外見は愛くるしくなったケルベロスそのもの。


「ア、アトリーナさん!!」


あたしは咄嗟にアトリーナさんの元へ駆け寄った。腕の一部を噛みちぎられたような状態であたしは手で口を覆ってしまう。 


「……ぐっ、油断しちまった。 フェアルシア、ちょっと治してくれないか……」


以外にも落ち着き払った様子でいるフェアルシアさんはゆっくりと深呼吸し、アニマと唱えるとアトリーナさんに向かって強いフラッシュのようなものがたかれた。

その光がアトリーナさん全身を包み込み、瞬く間に出血が消え、傷一つない綺麗な腕に戻っていた。


「さんきゅー! フェアルシア。 ったく、あのクソ犬ども! 可愛い顔してやってくれるじゃねーか」


アトリーナは瞬時にケルベロスとの間合いを取り、目にもとまらぬ速さで剣を抜き、イグニースと叫んだ。

炎の塊がケルベロス目掛けて放たれる。危険を察したのかケルベロスは咄嗟に避けようとするも間に合わず、胴体の一部から炎があがった。


「ふん、あたしの炎は甘く無いわよ。 僅かでも触れたら最後。 灰になるまで焼きつくしてあげるわ」


「アニマ」


「ちょ、何してんのよ、フェアルシア!! 敵を回復させてどーすんのよっ!!」


「あんなに可愛い生き物を焼くなんて非人道的すぎです! そんな状態を見過ごすなんて私にはできません!」


「そんな事言ってる場合じゃないだろ! このままほっといたらあたし達が殺られちゃうだろ」


「ファー、きゃわいいわんちゃん。 いこいこしてあげるーっ……ぎゃあああああっっっ」


「お前はさっきのあたしを見てなかったのかよっ! 今度こそ瞬時に消し炭となれ! イグニースッ!!」


「アニマ」


「お前は敵かっ!!」


あたしはこの喜劇に唖然とし、ただただ立ち尽くしていた。


「倒そうにも回復される、捕獲しようにも噛みつかれる。 こんな状況……一時撤収よ!!」


そう言ってあたし達4人は一目散にその場から撤退した。



     ※※※



「くぅ~っ、ひと暴れした後のビールはたまんねえなぁ!!」


アトリーナはジョッキをテーブルに叩きつけ、とても満足そうな表情をしている。


「あっ、おにぃさーん! メルちゃんにカルピスおかわりとハニートーストバニラアイス添えちょーだいっ」


ひたすら甘いものばかり食べているメルちゃんを見てると吐き気すらもおぼえる。


「はぁ……、あの黒くてつぶらな瞳。 綿毛のようなふわふわの毛並み。 そしてカールの様に反りくり返った尻尾。 抱っこできなかったのが残念でなりませんわ」


遠い目をして窓の外を眺めるフェアルシアさんをホッケをつつきながら見ているあたし。


ケルベロスから逃れ、光を求めて集まる虫のごとくあたしたちが逃げ切った先にあったサラリーマン横丁。

作戦会議をするためにその酒場に入ったけど一向に話が進まない。


「ほらほら、ありさも遠慮せずに飲めよ。ってメルと同い年くらいじゃ未成年だな。カルピスでもいっときな」


「あたし未成年じゃないですよ。ここの世界だとこんなですけど実際は23歳なので。……じゃあ梅酒いただこうかな」


店内は少し狭いけど活気のあるお店で、それでいて久しぶりにみんなとお酒が飲める雰囲気にあたしは少し酔っていた。


「あぁ~ん。 このデザートすっごくおいしいのっ! アツアツのトーストにシロップをつけるでしょ、

そしてひんやりアイスを乗っけるでしょ、それをお口に運ぶと……きゅ~ん、おーいてぃー」


幸せそうに食べているメルちゃんを眺めながら、あたしはケルベロス撃破を案出していた。

おそらくアトリーナさんの魔法でケルベロスを倒すことは出来そうな感じがする。でもフェアルシアさんが近くにいる限り

その結果を検証することは出来ない。だとするとフェアルシアさん抜きでケルベロスに挑む。でもそれだと万が一誰かが負傷

した時に手当てをする人がいない。それにどうやってフェアルシアさんがいない状況を作るのか……。

そもそもあのケルベロスはこの村を脅かす存在なのかしら。明らかに誰かが飼っているような感じだったけど。

実はハイドロックって人が個人的にケルベロスに恨みがあって三姉妹に頼みたかっただけとか……。


「ちょっといいかな、君達」


えらくかしこまった男性二人があたし達に話しかけてきた。店内にいる客層とは随分違った身なりで軍服の様なものをまとっている。


「確認の為に問うが君は未成年だよね? 当然のごとく未成年の飲酒は法で禁止されている」


「ち、違います! あたし未成年じゃありません。今はこんなですけど」


「身分を証明出来るものは?」


「えっと……免許証がありますけど」


「どれどれ……見慣れないモノだがここに載っている人物も全くの別人じゃないか。これを身分証として今まで掲示したのであれば有印公文書偽造罪だ。

ちょっと一緒に来てもらおうか」


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