1 きっかけ
7月30日
ジメジメした梅雨もあけ、夏休みに入った子供たちは外ではしゃぎまわってるらしく、楽しそうな声が聞こえる。
とても外に出ようなんて思えないくらい日差しが強そうで、エアコンの効いた部屋であたしはパソコンをいじりながら横目で窓をみる。
「子供は元気で将来性もあっていいなぁ……」
それにひきかえあたしは朝から目的もなくいろんなサイトをちょこちょこ覗いていた。
仕事もしなきゃいけないし、自分磨きもしなきゃいけないし、素敵な出会いを見つけて結婚も……とか言われるけど、そんな気分になれないっしょ。
今のあたしは仕事もせず、貯金もなく、自分をさらけ出して話が出来る友達なんていない。
こんなあたしでも数年前まではきちんと会社に務めていた。
短大を出て一般の会社に入り、1年は頑張った。いや……1年しか頑張れなかった。
ただあたしは周りの人から見ると変わり者なんだろう。
普通に遊びに行ったりもするし、カラオケや飲み会に参加したりもした。
でも全然楽しくない。素直にその場の雰囲気を楽しめず、いつも違うことばかり考えていた。
あたしはなぜこんな事をして、こんなトコロにいるんだろ
一体何がしたかったんだろう、幸せってなんだろ、楽しいってなんだろ
いつもこんな事ばかりを考えていた。
多分よく言う中二病のなりかけ? いや・・なっているのかも。
それでこのままじゃダメだと思い会社を辞めた結果、本当にダメな子になってしまった。
今では友達からのお誘いもなくなり、アパートから出ることもあまりなく、曜日も分からないような生活でゴロゴロしているか、パソコンを触っているだけ。
妄想好きなあたしは非現実的な話を好み、小説や不思議な体験談などを読みながら想像して小さな幸せを感じる毎日だった。
「う~ん……異世界のお話って素敵、こういう世界が本当に存在するならいってみたいな」
そんな妄想をしていると時間が経つのも早く時計の針は15時を指していた。
少し気分転換にいつものところに行こっと。
部屋から出るのも億劫だけど、ずっとここにいるのも頭がおかしくなりそうだし。
いつもの部屋着から少しカジュアルな服装に着替え、長くなった髪を一つにまとめ、あまり位置が高くなり過ぎないようなポニーテールにした。
あたしの住んでるアパートの周りは自然が沢山あって四季の移り変わりが楽しめる場所。
そこから10分程歩いたところにあたしの大好きな場所がある。
天照山という大きな山で観光シーズンになると県外からも多くの人達が訪れるちょっとした有名な場所である。
ただ、あたしがいつも行く場所は観光地とは正反対であまり人気のないところ。
たまに散歩にくるが今までに誰かと会ったことなど一度もなかった。
いつものようにアパートを出て、入り組んだ細い路地を歩き、山のふもとの道に出る。
ちょうど車が一台ギリギリで通れるくらいの道だ。
少し歩くと山中へと向かう細い、かつ年期のはいった丸太で作られた階段があり、それを軽快に登っていく。
階段を登り終えたところがあたしの大好きな場所。
座って休憩出来るような大きな岩があり、鳥の鳴き声や木々のせせらぎが聞こえてくる。
山頂ではないので景色を見渡せるわけではないが、自然に包まれた感じを充分に満喫できるから落ち着きたいときや気分転換の時にここによく来てしまう。
「小鳥さんこんにちはっ……森の中って気持ちいいねっ」
と童心にかえってつぶやいてみる。
爽やかな風が頬をなで、長くなった髪を揺らして遊んでいるようだった。
どのくらい時間がたっただろう……この場を充分に味わったありさは立ち上がって背伸びをした。
その時
「……パキーン……」
遠くでガラスのような物が割れる音がした。
なんだろう。誰か居るのかな? いやっ、いたら怖いしっ。
てかこんなトコロでこんにちはってのも変だし。
怖いからもう帰ろうかな
でもなんだろ……
ちょっとだけ気になる……
そういえばこの場所に何度も来てるけど、これ以上奥には行ったことがなかった。
どうせ今からもやらなきゃいけないことがある訳でもないし、もしかしたらもっと綺麗な場所があるかもしれないし……
よぉーし、探検でもしてみますかぁ。
あたしはさらに奥に進んでみることにした。
蛇とかでないかなぁ
なんか気持ち悪くなってきたよぅ
一応歩けるような道にはなっているけど、すぐ近くまで木々が生い茂っていて薄暗く、あまり遠くまでは見渡せそうにない。
不安と少しの好奇心のまま歩いていると何か黒いものが見えてきた。
洞穴?トンネルかな?
近づいてみるとトンネルのようだった。距離にしては分かりにくいけど微かに反対側の景色と光が目に入ってくる。
ここまで来たんだから行ってみよう
トンネルの中に入った瞬間、今までと違う感覚を味わった。
鳥の声や風の音も無く、ただ足元からひんやりとした空気が漂っている。
トンネルの大きさ的には大人二人が並んでも歩けるくらいのものだろうけど、急に暗くなったせいか周りがはっきりとは認識できない。
足元は歩くたびにピチャピチャと鳴り、トンネルの中はその音だけが響いていた。
正直、昔までのあたしなら一人でこんな薄暗いトンネルに入ることなんて出来なかっただろう。
今もまったく怖くないわけじゃないけど、非日常に憧れて刺激がほしかったのかな……それとも大人になったから? などと考えつつ反対側の光を目指しながら歩いていると……
ちょうど中間くらいの場所だった。
左に何かいる!?
視界も慣れてきて周りが少し見えるようになっていた。
何か像らしきものが左側の窪みに置いてある。
「暗くてよくみえないなぁ……何かライトみたいなもの持ってくれば良かった……あっ、そういえば携帯持ってきたかもっ」
ポーチをまさぐり携帯を取り出しライトで照らしてみた。
そこに映ったものは子供くらいの大きさの石像が座禅をくんでいるものだった。
何かを祀ってあるのかな……あんまりジロジロ見るものじゃないよねっ……深く気にしないようその場を離れようとした瞬間、石像の右奥の方で何かが光った。
多分入り口からまっすぐ歩いてくると出口の光だけを見て進むから気づかないかもしれないが、石像の右の所にさらに奥に進む洞窟のようなものがあったのだ。
何か光ったものはその洞窟の中に入れと導いているようにもみえた。
この辺りからあたしの頭はぼーっと霧に包まれた感じになっていたんだと思う。
招かれるようにトンネルの中の洞窟で光っているものに近づき……触ろうとした瞬間……あたしの視界は暗闇から一転して、真っ白い光のようなものに包まれた。




