01-03 精霊の主
「彼女?」
ローズが首をかしげる。
「うん。来て、フレア」
レイトの目の前の何もない空間がいきなり燃え上がった。
これにはローズとフェリクスだけじゃなく他の面々も驚いたらしい。
『全然呼んでくれないから忘れられてるのかと思ったよ』
炎の中から現れた赤髪の女性はうれしそうにレイトにまとわりつく。
『ディアナちゃんもデュークも久しぶりー』
「おう」「お久しぶりです」
『ん。それで?アドルートのお姫様にあった精霊派遣すればいいの?』
「うん、頼んだよ」
『まかせてー』
炎を上げてフレアが消える。
ローズとフェリクスが唖然としている。
「……彼女はまさか……」
何とかフェリクスが言葉を口に出す。
「そう、あの方がレイトの契約精霊の一人、火の上位精霊フレア様だ」
上位精霊はその力ゆえに信仰の対象とされることがある。そのため上位精霊には「様」などの継承をつけて呼ぶことが多い。
火の象徴であるアドルート家にとってこれ以上の信仰の対象はない。というか、何とかして彼女の力を引き込みたいと考えるのは当たり前だろう。
「……ローズをレイト殿の妻としてもらってもらえませんか」
「まて、フェリクス。うちのライナが先だ」
「いやいや、親父2人落ち着け」
バトルに発展しそうな雰囲気だったのでデュークが止めに入る。いい大人が何をやっているのか。
「……そういえば、レイト、眼が……」
こちらへ飛び火するのを恐れて、無理やり話を変えるローズ。
たしかに、レイトの瞳がアメジストからルビーのような色へと変化している。
「よくわからないけど精霊たちが面白がって勝手に色変えるんだ。恥ずかしいからやめてほしいんだけどね」
「そうなんですか……それで、フレア様は?」
「そろそろ戻るんじゃないかな……ほら」
再び目の前の空間が燃え上がる。
『ちょうどいい子が一人いたからすぐに呼ぶね!』
この場の全員が理解することのできない言語で呪文を唱えるフレア。
すると、フレアと同じように炎を上げて橙の長い髪を持った精霊が出現した。
『……あなたが私を呼んだアドルートの姫?』
「姫?」
デュークが疑問を口にしたが、ディアナに睨まれたため黙る。
『なるほど……フレア様のおっしゃったとおり魔力は申し分ない。アドルート家の血筋なので私との相性もいいだろうし……うん。いいわよ契約しても』
「え?ありがとう……ございます?」
やけに速い展開に困惑するローズ。
『なんで敬語なの?私はガーネット。よろしくねローズ』
ガーネットがローズの手を取る。ローズの体が炎に包まれるがこれは契約が成った証で、彼女に害のあるものではない。
「え……契約の呪文は?」
「あー……それ効果ないらしいぞ?呪文って言ってるけど、契約してくださいっていう感じの事を伝えるだけになるらしいし、嫌なら断るって言ってた」
ローズの問いにデュークが答える。ガーネットはそれに頷きながら、ローズに後ろから抱き着いている。平均的な女子程度の身長のローズに比べて、ガーネットは頭一つ分ぐらい背が高い。
『じゃあ、とりあえず戻るけど、近いうちに呼んでね?』
そう告げるとレイトの頬にキスをしてフレアが消える。
それと同時に、レイトの瞳の色もアメジストに戻る。
「……あれが火の上位精霊」
フェリクスはまだ呆然としている。
「ガーネットは火の精霊なのよね?」
『そうね。しかし、いろんな精霊がいるわねここ……とくにフレア様の契約者。あなたどれだけ契約してるの?』
「レイトの他の契約精霊を見てみたい」
「えっと、それはまた実習のときとかに」
「……そういえば、どうして精霊を外に出してないんですか?」
フェリクスがレイトに問い掛ける。
精霊使いの中には自分の力を誇示するために常に精霊を侍らせている者もいる。
「精霊との契約は対等なので、そんな馬鹿らしいことするのはどうかと思いますが」
「……まあ、普通はそう思うだろうな。しかし、上位精霊となるとスフィア家の連中が煩いぞ?」
「ああ、あの家ですか……」
スフィアの連中には既にバレている。デュークと共に精霊の谷を出たところを目撃されるというとても間抜けな話である。
「そうそう、そのスフィアから手紙が来てるわよ、レイト」
シンシアの手から家紋の押された封書を受け取る。
『拝啓 レイト・ルナフォード様
ご入学おめでとうございます。私は2つ上の学年になりますが、妹のリディアがレイト君と同じ学年に入りました。これはもはや運命かもしれません。もうレイト君は我がスフィアと共に精霊の友としての道を歩……(中略)……さて、入学のお祝いとして私にできることと言えば、まことに残念ながらこうしてお手紙を書くことぐらいなのです。かなうならばすぐに再入学してレイト君と同じ学年で……(中略)……学内で困ったことがあればいつでも相談してください
ローレンス・スフィア』
「なんだその束……」
横から覗き込んだでデュークがドン引きしている。
「これだけ書いておいて言いたいことは最後の1行に纏められてるっていう……って何これ?」
同封されていたカードを手に取る。
「トランプ?」
「……ハートのエースか、厄介なもの貰ったなレイト」
「何これ?」
「それは明日の新歓試合で派閥の標に使うカードですね?」
魔法学院には1~3年生の間に4つの派閥が存在するらしい。4年以上は専ら自分の専門の研究をするか、3年で卒業の道を選ぶので下級生の戯れに入ってくることはない。
現在存在する派閥は、
生徒会長のライナ・クラモールを筆頭とした“研鑽派”
副会長のトウキ・ノースウィンドを筆頭とした魔力絶対主義の“魔術派”
ローレンス・スフィアを筆頭とした精霊絶対主義の“精霊派”
カイン・ザイールを筆頭とした剣を中心とした魔術の在り方を探す“騎士派”
とくに魔術派と精霊派の中は最悪なことで有名らしい。
新入生の新歓試合の時に、自らの派閥に引き入れるために始まったのがカードを配り、その派閥のカードを持っているものは積極的に守り、他は徹底的に潰すというスタイルだ。
特に目をつけている者には絵札を与え、引き込む。という形が浸透している。
「……デュークの分も入ってたよハートのジャック」
「マジかよ」
熱烈な歓迎にげんなりする。そうえいば、と声を上げたソアがレイトにカードを差し出す。
「ライナからだ」
受け取ったのはダイヤのエース。
「……またエースか」
「オレにもエースくれりゃあいいのにジャックかよ」
二枚目のカードにますますテンションが落ちる2人。もっとも理由は違うようだが。
「とりあえず明日は研鑽派として出ましょうか」
「そうだな。その方がいい」
「ローズさんは?」
「私はスペードのクイーンを貰ってるのですが……みんながダイヤなら私もダイヤで出ます。特に騎士派に思い入れはないですし」
騎士団長の父親の前で言うセリフではないと思うが。
一緒に出れるとわかって少し嬉しそうにしているディアナ。その手にはダイヤのクイーンが握られている。
「今年は研鑽派が圧勝しそうね……」
シンシアがつぶやく。
「あとはノースウィンドだけ警戒しないと。何かしかけて来るかもしれん」
「なぜノースウィンドが?」
「レイトはノースウィンドの次男だ。あの阿呆ども6歳のレイトを魔の森に捨てやがってな……」
怒りを通り越してもはや呆れたという表情で告げるグリム。
「まあ、そのおかげでルナフォードは優秀な魔術師を手に入れたからいいじゃないか」
シンシアは少し自慢げに言い放つ。
「あ、ここまでの事全て国家機密に値するから発言は気をつけるようにな?」
勝手にワインを開けてくつろいでいたレオボルト(国王)が念のために釘をさす。




