01-17 月の兄妹
部屋に残るのはトウキ。
それとトウキを冷たい目で見るイサク・ルナフォード。
「初めまして、ではないよね。何度か会ってるはず。君のお父さんが良くわかんないことしようとするたびに僕が止めにノースウィンドの屋敷に行ってたから」
トウキは何も答えない。
「個人的にお話したいことがあるんだけど、何のことかわかる?」
「……レイトの事、でしょうか?」
「そうそう。オレの弟のレイトの事ね。あの子は優秀だよね。最初父さんと母さんが引き取るって言い出したときは吃驚したけど、家に来てすぐの時から読み書きも完璧で魔法理論もほぼ完全に理解してた。あの頃は僕もすでに知略に関しては神童とか呼ばれてたけど、それを上回ってた気がするね。ノースウィンドは何か特別な教育でもしたの?」
「いえ……、父も母もレイトの事は早々に見限ってましたから。侍女かトウカに字を習ってたのは何度か見たことがあります。それと、父の書斎で理論書を読み漁っているのも」
「5歳児がすることじゃないでしょ……どれだけあの子は放置されてたのか……」
「言い訳をするつもりはありませんが、レイトが5歳になるまでは自分も妹たちもレイトと普通に接していました、が」
「が?」
「突然、父が用意した家庭教師たちが来るようになり、一日の大半の時間を拘束され始めました。トウカもレイカも同じです」
「なるほどねぇ……」
「あの日の前日も自分はレイトの部屋で朝やってくるはずの父たちをもう一度説得する気でしたが、気付くと自分の部屋で」
「ああ、それなら。レイトが森に捨てられた日の10日ほど前に君のお父さんがガスタイプの睡眠剤を購入してるからソレのせいじゃないかな?本当に愚かだよね。記録ぐらい消しておけばいいのに……」
「つまり、自分はレイトを眠らせる用の薬で一緒に眠らされたという事ですか……」
「あの子は正魔力値が0だから体内の代謝作用も弱い。実際、レイトは午前中のうちに森に捨てられた様だけど目覚めたのは真夜中だったしね。まあ正魔力が0のおかげで魔獣に気付かれなかったんだけど」
さらにイサクが続ける。
「そこからノースウィンドの動向はますますおかしくなっていったし、本人たちはどうせ弱点を捨てきったとでも思ってたんだろうけど、レイトが生きていたことによってノースウィンドはどんどん崩れて行った」
トウキが何かを言おうとしたが、イサクが止めた。
そして、イサクが続ける。
「さて、問題です。10年前のあの日にノースウィンドが取るべきだった行動は?
1、レイト・ノースウィンドを家に留めること
2、レイト・ノースウィンドをバレないように殺害しておくこと
3、レイト・ノースウィンドを“魔の森”以外の場所に捨てること
さて、どれでしょうか?」
「そんなもの、1番に決まっているではありませんか!」
「そうかな?たぶんレイトならこう言うよ『その選択肢なら全部正解じゃないか、兄さん』って」
「!?」
「まず1番、レイトを家においておけば、いつかは上位精霊と契約するかもしれないし、ノースウィンドの隙を生み出すことはなかった。知っているか?あの子は君のお父さんの書類でいろんな書類も盗み見てた。つまり、内部情報の大部分は当時6歳のレイト・ノースウィンドによる告発だ。2番はさすがにわかるだろう。3番はあそこに捨てられたからレイトはルナフォードに来ることになった、とだけ言っておこうかな。我が弟に関しては何かと機密事項が多くてね。おっと、質問するつもりが喋り過ぎてしまった……他に何か聞きたいことは?」
「……アイツの精霊適応値は?」
「ん?ああ、10万だよ。それがどうしたの?……あれ?これ機密だったかな。悪いけど口外しないように。それじゃあ。僕は食事に行く約束があるから。君も妹2人を可愛がってあげるといいよ」
そういうとイサクは部屋を出る。
10万という数字を聞いた途端、トウキの顔が固まったのを見て笑いがこみ上げてくる。
自分たちがいかに愚かなことをしたのか再確認しただろう。
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イサクたち兄妹が行きつけの店、その個室。
「兄さん、早かったですね。もう少しかかると思ってました」
真っ直ぐにテーブルにやってきたイサクにレイトが声を掛ける。
「可愛い弟と妹を待たすわけにはいかないからね……って、ディアナはどうした?」
「一度家に戻って着替えて来るそうです」
「なるほど、女の子は大変だね」
イサクが機嫌よく微笑む。
そして、遅れること3分ほどでディアナが到着する。
簡易的ではあるがきちんとした正装をしている。
「ドレス姿なんて久しぶりに見たけれど、そこまでおめかしする必要あったかい?」
「たまにはきちんとした姿をお兄様方に見ていただこうかと思いまして」
ディアナが席に着き、食事が運ばれ始める。
イサクは食前酒を注文し、グラスを手に取る。
「酒精を入れて大丈夫なんですか?」
「ああ、今日はもう休みにしてきた。最近ずっと王宮に籠ってたから少し羽を伸ばそうかと思ってね」
「そうですか、お疲れ様です」
「レイトも飲むかい?」
「いえ、外では飲まないようにしているんです。精霊たちが混ざりたがるもので」
「なるほど、それじゃあ帰ってから父さん秘蔵のワインを開けようか」
「いいですね」
「ふふふ、レイト兄様もイサク兄様もバレたら怒られますよ?」
「ディアナが黙っていてくれれば大丈夫だ、父さんも早々帰っては来ないだろうし」
そういうと、イサクはグラスの中の朱を口に含み、嚥下すると言葉を続ける
「これからしばらく忙しくなるし、今日ぐらいゆっくりしても罰は当たらないだろ?」
「そうですねぇ……ついでに色々やってる下級貴族たちの始末もするようですし」
「あれ?レイト、それ機密じゃないか?なんで知ってるんだ?」
「残念ですけど、ルナ経由で微小闇精霊からの情報でも集められるのです」
「そういえばそうだったね。さすがは我が弟、そして聖霊様」
「ものすごく精神力使うんであまりやりたくないんですけどね……」
「それじゃあ、ナダレ・ノースウィンドの動向とかわかる?」
「わかりますけど……兄さんでも掴んでないんですか?」
「案外細かく手をまわしててね。前までの雑さが嘘のようだ」
「人間変わるものですからね。まあ、あの人の人間性に関しては僕は一切情報持ってないんですけど。それこそ、トウキさんとかに聞いてくださいね」
「わかってるよ。それで、」
「ああ、はい。高位の魔法使いをかなりの人数集めて無理に聖霊召喚しようとしているようですけど」
「あー……諦めてなかったんだ」
「私が聞いた話では、トウキさんと精霊を契約させるのをまだあきらめてないということでして、おそらくそのせいですよね?」
「ディアナ……どこから仕入れたんだその情報……」
「え」
「義父さんに危ないことはしちゃダメだって言われただろう……」
溜息をつきながらレイトがディアナを見る。
「危ないことなんてしいませんよ?女の子はお話好きですから」
「なるほどね、そういう情報網もあるのか……」
「兄さん、これは使えるな、とか考えてませんか?」
「さあて、どうだろうね」
そういうと、イサクが席を立つ。
「まあ、向こうが動いてから一気に潰す予定だから今日はゆっくりして英気を養おう」
「そうですね」
国家機密満載の兄妹の食事会は終わる。
そして、裏では北風の最後の行動に出ていた。




