01-16 氷の記憶
この記憶はあの日の物。
明日だ。
明日で弟は6歳になる。
これは8歳のトウキ・ノースウィンドの記憶。
6歳と言えば、自分は既に父の自慢の種としてあらゆるところに連れまわされ、妹のトウカはためしに行った精霊との契約で、見事中位の精霊との契約を果たした。
しかし、この弟はどうか。
白い弟は、本当に血がつながっているのかと思うほどに違っていた。
トウカなどは可愛い可愛いとべったりだったし、自分も普通に接してきたつもりだった。
そして、弟が生まれた一年後にもう一人の妹が生まれた。
名前はレイカ。自分たちと同じ髪と瞳を持つ少女だ。
レイカが生まれたことで形式的にも弟の心配をしていた母が興味をなくし、彼を構うのはトウカと自分、それと数人の侍女だけとなった。
そして、弟が5歳の誕生日。
期待はしていないといった表情で父が挑ませた魔力の測定において、父の顔を凍らせる事件が起きた。
0。
表示されたのは0だったらしい。
そこから家での弟の扱いは変わりだした。
世話をする侍女は減り、トウカと自分も近づくことは禁じられた。もっとも、トウカは弟の部屋に勝手に忍び込んでいたようだが。
そこから自分とトウカは家庭教師などをつけられ、トウカですら彼に会いに行くのは難しくなっていった。
そして、弟の6歳の誕生日の一週間前。
トウカなどはレイカと一緒にプレゼントを上げるだとか、魔法を見せてあげるだとかで浮かれていたが、俺の気持ちは沈み切っていた。
原因はレイカの誕生日の日から。
トウカや自分と違い特別すぐれているわけではないが、一般から見ればかなりの数値を出したレイカに父は満足し、ある決断をした。
弟を捨てることを。
曰く、名家であるノースウィンドの恥となるような者はいらないと。
その宣言を聞き、愕然としたのを覚えている。
父親としては自分には甘いいい親だと感じていたが。
政治家としてはダメで、責任ある立場の者としては論外。
貴族としての在り方もダメで、総合的にダメな親だったが、ついにそう来たかと。
今考えると、どうしてそこまで魔力の有無にこだわったのか。
理解はできない。
家庭教師をつけられて上質な教育をつけられていた自分と違って何の措置も取られなかったが、弟は侍女たちから字を習い、父の目を盗んでは魔法の理論書を読みあさっていた。
おそらく自分よりは優秀な弟。
「どうしてですか!?本気ですか父上!」
「もう決めたことだ。サユキも納得している」
「そんな……」
「アレが成長したとしても、間違いなくこの家を継ぐお前の足枷になるぞ。それでもいいのか?」
「弟の一人ぐらいいたところで一緒じゃないですか!」
「いいか、トウキ。明日からお前たちは3人兄弟だ。わかったな?」
「だけど!えっと……」
「トウカとレイカには明日説明する。さあ、早く寝なさい」
半ば強引に部屋の外に出される。
それから、俺はレイトの部屋へと向かった。
家具の少ない部屋。
扉を開けると机の上に突っ伏して白い弟が寝ていた。
夜が明けると同時に父は弟の測定を行うだろう。
そして、結果は今回も0。
父が来るまでここにいよう。
そしてもう一度頼んでみようと、眠っている弟に毛布を掛け、もう一つだけある椅子に座った。
窓から月の光が差し込み、弟を照らす。
白く光を反射し、神々しく見えた。
月が沈み、日が昇り始める。
それから数時間たった後、この部屋に近づいてくる音が。
甘い香りを感じたと思った瞬間、意識を失った。
そして、自分の部屋で目を醒ました。
そして、はっとなる。
時間は?
既に日は昇っている。
頂点に近い。
寝起きのままの恰好で部屋を飛び出し、弟を探した。
見つかったのは泣き続けている妹たちの姿のみ。
父親はいつも通り王宮へ。
母は優雅に茶をたしなんでいた。
「レイトはどこに!?」
「さて、今頃眠っているでしょうね」
茶を啜る母。
それ以上の事は何も答えてはくれない。
夜になっても泣き続けるトウカを慰めようとするが、失敗。
このままでは妹までおかしくなると思い、あえてきつくトウカを叱りつけたのを覚えている。妹までまともでなくなるぐらいなら敵視される方がましだと考えた。
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そして、ここからだんだん家がおかしくなり始めた。
父は下級の貴族や、金払いのいい商人たちと頻繁に会うようになる。
そして、聖霊へ執着し始めた。
宗教などに興味を示さない父が急に豹変し、そして、優秀と信じて疑わない自らの息子に合った最高の精霊を求めて各地を調べていた。
父がいないのをいいことに、母は湯水のように金を使うようになる。
屋敷の中の雰囲気も悪く、学園に入学する際、妹たちは寮に逃がそうと画策するも失敗。
何をするにもノースウィンドという家名の大きさが邪魔になり、うまくいかず。
残されたものは、まともだったころの父が作ったこの派閥と妹二人。
打倒クラモールを掲げる父だが、現状を見るに勝てないのは明白。
クラモールの長子であるライナは生徒会長を務めあげる秀才。
弟のデューク・クラモールは凡骨だと言われてきたが、それなりに優秀。
現当主は魔術師師団長。
大してこちらは目が眩んだ父と足りない自分。
もし、弟が家に残っていたとしたら何かが変わっていたのだろうか。




