充実感への道
簡単に言えば生活の場を紹介する話。早くね?
えがおの都へ着く頃には、腹の虫が鳴き始めていた。丁度、昼食時だ。勇美は門を開け、龍二が入るのを確認すると自分も入り、門を閉めた。
「お、勇美と龍二か。おかーり」
「ただいまー、笑都さんっ」
敷地内にある畑から、管理人である柳瀬笑都が、手を軽く振りながらやってきた。浴衣にスニーカー、手には小型ノートパソコンというように、現代的なのか時代錯誤なのかわからない身なりだ。さらに、年は自分と変わらないのでは、と思いたくなる程の童顔である。そのぱっつん前髪のためだろうか。とにかく、何キャラだよ、と突っ込みたくて仕方ない勇美であった。
「どした、勇美よ。腹減り過ぎて放心か?」
「……大丈夫っす」
苦笑いを浮かべ頭を下げ、自室の玄関へと向かった。
「あ、待ってよいさみーん!」
「……いさみん。ワロタ」
えがおの都は、管理人が暮らす一階と生徒が暮らす二階とで構成されている。それほど大きい訳ではなく、住人は五人までと聞いている。なお、一階には全員で食事をとれるリビングがあるが、自室で食べてもよいことになっている。もちろん勇美は自室で食べたかったが、龍二の誘いにより一階で食べることになった。半ば強引に引っ張られ、リビングへたどり着いた。
そこで出会った人物に、勇美は驚愕した。その人物も、また同じ反応を示した。
「白川くんと神田くん……だよ、ね」
おずおずと話し掛けてきたのは、同じクラスの純朴少女、足立晴夏だった。彼女もここで暮らしていたようだ。
「えー!?晴夏ちゃんも一緒だったんだねっ!全然見かけないし気づかなかったよー。あー僕としたことが!」
「あ、あの、私、忙しくて……。色々あって、顔合わせるタイミングがなかったというか……」
龍二のテンションに押され、若干涙目になっているように見えた。思わず同情してしまう。
「ねぇ、足立さん。よかったら一緒に食べない?」
あたふたしている晴夏に助け舟を出そうと、勇美が割って入った。龍二と二人きりより、女子がいてほしいという本音もあるが。晴夏は表情を和らげ、頷いた。その様子を見て、龍二は頬を膨らませた。
「いさみんフォロー上手だねー?いい雰囲気じゃん、意外とやるねぇ?」
拗ねたのかからかっているのか、わざとらしい口調でそう言ってきた。
「な、や、な、しら、か、わ、わわ、く」
「あー、昼食を頂こうか」
また彼女があたふたしてしまったため、次の行動に無理やり移ることにした。
カウンターに出来立ての料理が並んでいる。笑都が作ったものだろうか。三人はそれぞれ料理を取り、テーブルへ向かった。勇美は端、その隣に龍二、勇美の向かいに晴夏が座った。揃って「いただきます」を言い、談笑しながら食事を進めた。始めは口数が少なかった晴夏も、馴染んでいった。
「よしっ、晴夏ちゃんにもかわいいあだ名を付けよう!」
あ、やっぱりそういう流れになるんだ、と勇美は苦笑する。
「え、あ、あだ名……?」
「そう!んー、ここは無難に……はるにゃん」
「無難じゃないよね」
妙なあだ名になるのはオレ(と、さっくん)だけで充分だ。いや、さっくんは自分で付けたのだが。再び同情心が芽生え、思わずツッコミを入れた。龍二は渋々諦め、晴夏にあだ名が付くことは阻止された。
「あ、の、……ごめんなさい」
「謝らないでよぉ!こちらこそだよっ。これからも晴夏ちゃんって呼ぶね。勢いでかわいく呼んじゃうかもしれないけど」
晴夏が、またあたふたしている。食事をしているだけなのに。
楽しい。落ち着く。孤独に過ごそうと思っていたのに。
本音を言えば、大変疲れていた。新しい環境というだけで疲れるものだが、その上性別が変わり、こんなに騒がしい、仲間。
疲れで笑ってしまうとは。
「ん……美味しいな」
この疲れは、充実感となり得るのだろうか。わからないや。脳が即答した。ので、今はゆっくりしよう。