筋肉との別れ
◇◇◇◇◇◇
柔らかく差し込む光に包まれて、視界がぼんやりと白く霞んでいる。
そこで、俺の意識は覚醒した。
どこだ、ここ……。
静かすぎる。
耳を澄ましても、自分の呼吸と心臓の音しか聞こえない。
体の感覚も、何もかも、妙に現実味がない。
――天国か?
手足を動かそうとするが、布に包まれた感覚だけが頼りで、自分の体がどうなっているのかすら掴めない。
目をゆっくり開き直す。
白く広がる天井、柔らかな寝具、窓から差す温かな光……
すべてが見慣れないものなのに、奇妙な程違和感を感じさせない矛盾に眉をひそめた。
あの時、俺は死ななかったのか。まあ俺が死ぬわけないよな。
だけど、まるで洋風映画にでも出てきそうなこの場所――いったいどこなんだ……?
部屋の中を見渡すと、すべてが整然としていて、どこか現実離れしている。
白い漆喰の壁に縁取られた窓枠から、柔らかい朝日の光が差し込む。
光はカーテン越しに淡く拡散し、部屋全体を優しく包み込んでいる。
いや、どこお姫様のお城の中だよと心の中で突っ込む。
床には淡い色合いの絨毯が敷かれ、踏みしめるとふわりとした感触が返ってくる。
やわらか…っ!下手したら俺のベッドよりも柔らかいぞこの絨毯!!
天井は高く、シャンデリアが静かにぶら下がっていて、金属の装飾が朝の光を反射して小さく煌めく。
壁には、古典的な絵画が等間隔に掛けられており、どれも高額そうなものばかりだ。
そんな眩い光と静けさに包まれた部屋の中で、ふと、胸の奥にざわつく感覚が走った。
……あれ? そういえば、俺、あの時刺されたはずだよな……?
手をそっと胸に当ててみる。
冷たい感覚も、熱い痛みも、血の感触も――何もない。
腕を動かしても、背中に手を回しても、刃の痕らしきものはどこにもない。
これなら、バスケットもいつも通りに続けられそうだな。
そのことにほっと安堵の息をついた。
胸の奥の不安が、静かに霧散していく。
だけど、そう安堵したのも束の間。
腕を少し動かした所で、妙な違和感にピタリと体を止めた。
……あれ、俺の筋肉どこにいったんだ?
筋肉の感触が明らかに違う。
以前のような力強さも厚みもなく、柔らかく、細くなっている。
手を握りしめてみるが、指先に伝わるのは、以前の力強さではなく、ふにゃりとした柔らかさだ。
腕から胸へと手を当てると、ぽよんと大きな膨らみに当たる。
筋肉が落ちると脂肪に変わるとは聞いていたが、どれだけ寝てればこんなに……。
恐る恐るベッドの端に座り、視線を部屋の隅にある大きな鏡へ向ける。
足先まで届く全身鏡は、朝の光を柔らかく反射して、部屋全体を淡く明るく染めている。




