因果応報
◇◇◇◇◇◇
「……で?そのまま自信満々に石原を誘った結果、思いっきり振られたわけか」
ケンジが俺の背中を軽く叩きながら、呆れたような視線をよこす。
「うっ……あー、まぁ、ちょっとタイミングが悪かっただけだ。振られたわけじゃねえし」
「いい加減にしないと、そのうち女に刺されるぞ、お前。特に美咲みたいなタイプは怒ったら怖えーぞ」
悠真はペットボトルを片手に肩をすくめた。
「はは、怖いこと言うなよな」
ケンジの目がスゥと細まり真剣みを帯びた。
「本気で言ってんだぞ、悠真。女は吹っ切れると怖いからな」
当事者は語る、ってやつ?と冗談っぽく進めようと思っていたが思ったよりもケンジが真剣だったのでやめた。
それに、なんだか少しだけ背筋が冷たくなった。
「…あ、ああ、大丈夫だって…」
俺のどちらとも取れない返答にケンジは肩をすくめ、にやりと笑った。
「まぁ、そのうち痛い目見るぞ、お前」
その言葉が嫌に耳の奥に響いていた。
その後ケンジとは別れて一人で駅に向かって歩いていた。試合後の帰り道はどうしても暗くて不気味に見える。
ケンジのやつが最後びびらせてくるから尚更不気味に見えてくる。
さっきのケンジの言葉――「痛い目見るぞ、お前」が妙に耳に残っていた。
暗い帰り道の静けさのおかげで、周囲は見る限り人通りのない道で自分以外の気配を感じてだんだんと足早になる。
瞬間、スマホがポケットの中でピコン!となった。
「うわ…?!」
思わず身をすくめて、慌てて取り出す。
「……誰だよ、こんな時間に」
表示された名前には香織と書かれていた。
画面を見ると通知の文字が一件だけ。
【今日の夜あいてる?】
その言葉に自然と笑みがこぼれた。
さっきまで美咲に誘いを振られて、気分が落ち込んでいたけどその一瞬で全部吹き飛んだ。
すぐに返信を返そうとメールを開いた瞬間、今度は着信を知らせる音楽がなった。
「香織のやつ…返信も待てないくらい俺に会いたいのかよ」
仕方ねえな、と思いつつにやけながらボタンを押した。
記憶の中の香織はクールで嫉妬をするようなかわいい性格ではなかったが、合わない間に心境の変化でもあったのかもしれない。
「……香織?返信待てなかったのかよ。ふ、かわいいやつだな」
思いっきり甘い声で名前を呼んでみるが、何故か応答がない。
あれ、おっかしいな。だいたいこの声で名前を呼べばどんな女も黄色い声を上げるんだけど。
ただ、微かに息づくような、遠くでかすかに揺れる気配だけが聞こえる。
「………香織?」
暗い帰り道の冷たい空気と、無人の街灯の下で、電話の沈黙が段々と心配になってくる。
指先に伝わるスマホの重みが、妙に現実感を持たせていた。
「もしかして、なんかあったのか?」
返答のない電話に、香織の身になにかあったのではないかという不安が現実みを帯びてくる。
「なあ、大丈夫っ――『悠真くん』
思わず息をのむ。その声は電話の奥というより…すぐ後ろから聞こえた。
振り返ると、暗がりの中で人影が後ろにある。心臓が跳ね上がる。
「……誰だ?」
声を抑えつつ後ろを確認しようとするが、影は薄暗く、何者かの存在を確かめるのは難しい。
次の瞬間、影はスッと手を上げた。手の中で光る鋭い刃物がしっかりと視界に入った。
「……っ!」
「悠真くん……ずっと、あなたのこと、すきだったのに……」
最後に見た記憶は振り上げられたナイフが勢いよく自分に向かって降りてくる、そんな最悪な景色だった。




