VIII 道路計画(をする人の育成計画)
伯爵家に戻ると、ヨハネス様は道の補修について伯爵に提案していた。
話をしている近くを通りかかったので、ちょっと聞き耳を立てていたら、
「…よく気がついたな。やはりお前を行かせてよかった」
と伯爵様がヨハネス様を褒めていた。
「私は一度通っただけで道の補修が必要だとわかり、現地の人からも是非着手してほしいと言われました。まあ何度通っていても問題点を把握できない者もいますけどね」
自分の格を上げるために誰かを貶めるようなつまんないことしてる? …余計なことを言ったところで機嫌を損ねるだけなので、聞かなかったことにしよう。
大切なのは、道がきれいになること。
「それではおまえに領の街道補修の計画を任せよう。補修対象の道を選びだし、予算の見積もりを出しておくように」
「任せてください!」
いい返事だ。とは言ってもいきなり全部の道をきれいにできる訳じゃないのはわかってるけど。いつも通る道を優先してくれるといいな。
ここからはヨハネス様の仕事ぶりに期待! と思っていたのだけれど、その翌日、
「道の修繕だが、父上に進言し、計画を立てるよう指示があった。どの道を優先するか決めておけ」
ときた。
「…それは伯爵様から出された宿題、ですよね?」
と聞き返すと、
「言い出したのはおまえだしな。あちこち出かけているおまえの方がよくわかっているだろ」
おいおい、私は問題点も把握できないおバカさんじゃなかったの? そう言ってたよね?
確かに私の方が頻繁に領のあちこちに移動している。うまく誘導したら、私の思い通りの提案書を作らせることができるかも。とはいえ、私にもそう時間に余裕はないし…。
やっぱり、出された宿題はちゃんと本人にやらせないと。
「領全体の道、把握できてます?」
「…全部なんて、わかってるわけないだろ」
そんな自分の無知を堂々と言わなくても。
「道を書き起こした地図とかあります? 主要な街道だけでいいんですが。今舗装されている道がどこまで伸びているか、道を広げる必要があるか、峠とか川とか狭すぎて通れないところがあるかもしれません。交通量も知っておきたいところです。大して使われていない道にお金をかけてももったいないですし…。教会のある場所は大きな街が多いですし、そうした施設を目安につなぐ街を決めてもいいかもしれませんね。石で舗装するか、砕石を引くか、土で均すかでも費用が変わるでしょうし…」
思いつく段取りを口にしただけでうんざりしたような顔を見せた。
いや、調査の段取り考えるのはあなたの仕事だし。
王立学校出てるって言ってたはずなんだけど。調査の計画を立てて実行するのはあなたの仕事でしょう。こっちは治癒師の仕事で学校にも通わせてもらえなかったのに。
とりあえず、ヨハネス様でもできそうなことから始めないと。
「まずは村の代表の方に要望を聞いてみてはどうでしょう。私では話を聞いてもらえないかもしれませんが、ヨハネス様ならきっと皆さんから積極的な意見をもらえるのではないでしょうか」
人に頼むのは得意そうだし、領主の息子が質問状を送れば村長さん達も答えざるを得ないし。
「うむ…、そうだな」
ちょっとはやる気になってくれた? よいしょした甲斐あり?
私の提案は受け入れられ、ヨハネス様は役人達に声をかけて質問状を作り、それを役人が主要な道沿いの町長や村長に配った。
集めた意見をどうするかは、ヨハネス様の腕の見せ所でしょう。…ま、中にはとんでもない要求をしてくる人もいるだろうけど、それを見極めるのも大事な仕事。
領内の道路計画で忙しくなったヨハネス様は、治癒の仕事は「大体わかった」と言ってついてこなくなった。
道の方は、回収した意見をもとにいろいろと調べものをしているうちに、次にすべきことがつかめてきたみたい。役人達をうまく使って仕事させているのは、さすが次期領主、いい意味で貴族らしい。それでいてみんなの意見(私を除く)にも聞く耳を持っているのはいいことだと思う。
伯爵家のあるこの街の舗装費用を調べて石畳はすっごくお金がかかることを把握したらしく、費用についてもちゃんと考えるようになってる。よしよし、やればできる子 、やる気を見せているのはいいことだ。あなたにはあなたの仕事がある。
そして私には私の仕事がある。
ヨハネス様がいなければ治療は順調に進み、患者さんに変な赤い跡が残ることもなくなった。
治癒の仕事に関しては私に任せてほしい。欲しいのはお金か物品、労働力。口だけ監視人はいない方がよっぽど仕事がはかどる。…本人には言えないけど。
いっそ婚約なしで、ただの治癒師として雇ってくれないかな。夫じゃなくて雇用主だったらここまで嫌われることもないだろうし、もっとドライな関係でいられるのに。
領主育成まで私の仕事にされるのは、勘弁してほしい。




