VII 治癒師の仕事見学
目的地である西の教会に着くと、ヨハネス様は司祭に招かれ中に入った。
私がいつも通り薬や包帯を運んでいても気が付かない。護衛や教会の人達が運び込むのを手伝ってくれて、人手が多い分作業ははかどったから、まあよしとしよう。
物品搬入が終わってものんびりお茶と雑談を楽しんでいるので、
「先に行ってますね」
と声をかけると、
「それじゃ行くか」
と重い腰を上げた。私が一服していないことなど気にならないらしい。…まあいいか。
治癒魔法を見たのは初めてだったのか、いちいち何をしているのか聞いてくる。せっかく見学に来たのだから私の仕事を理解してもらっておいた方がいいと思って丁寧に説明してみたものの、さほど興味があるわけでもなく、説明の途中で別の質問をしたり、
「ふーん、…大体わかった」
とぬかしてどこかに行ってしまうことも。
父親に言われていやいや来ているけれど、来ているだけでも偉いと勘違いしてる子供みたい。
逆に治療中にじーーーーーっと見られるとなんだかざわざわして落ち着かず、術がうまくかけられない。あまり人の目など気にしたことはなかったのだけど、自分の未熟さに腹が立つ。
それなのにひと作業終えると、
「…そんなので治るのか。簡単だな」
…見ているだけなら簡単に見えますかね…。
「毎回同じか。工夫しないから時間がかかってるんじゃないのか?」
工夫してこれだけの時間に縮められたの!
「今の、どこが直ってたんだ? 全然変わった様子ないが」
内臓見せたろか。
患者も触る、薬も触る、勝手に蓋開けて臭いかいで顔をしかめ、瓶からこぼしても気にもしない。
「施術中の患者に触るなっ …ないでください!」
怒鳴りそうになるのをこらえながら優しく諭し、施術を続けていたけれど、むかつくのを我慢しているうちに指先に妙なしびれを感じるようになった。
患者さんに迷惑をかけてはいけない。平常心、平常心と唱え、必死に治癒魔法をコントロールした。
そして施術が終わったら、施術中の心得、薬の取扱いを説明し、とにかく邪魔をしないようお願いした。
興味? 好奇心? 無関心よりはまし?
どう心を持っていけばいいのか、わからない。
王族が見学に来た時だって動じなかったのに、ヨハネス様が後ろにいるとまた何かやらかすんじゃないかとピリピリしてしまう。治癒の力加減がおかしくなったのか、手をかざした部分の患者さんの皮膚が赤くなっていることがあった。こんなことは初めてでちょっと心配だったけれど、患者さんは痛くもかゆくもないらしく、後で聞けば数時間から長くても二日ほどで赤みは消え、病気や怪我の治り自体はいつもどおりだった。
ひとまずは安心したけど、気を引き締めなくちゃ。
余計な気遣いのせいで仕事時間が長引き、その日は日が暮れても終わらなかった。
ヨハネス様は自分の好きな時間に休憩を取り、先に宿に帰り、食事を済ませ、雑談にふけっている。
私のことを冷やかされると、
「こっちはあんなのに付き合わされて迷惑なんだ。あいつのことを話題に出すのはやめてくれ」
と本気で怒って場を白けさせていた。その後ろで遅い夕食を取っている私のことなど、目には入らないらしい。
私に気がついた人が気まずそうな顔をしていたけれど、しぃーっと指を唇に当てて声に出さないよう頼んだ。
夜中に急患が来て、その対応で寝不足気味な翌日。ついあくびが出てしまうと、
「気が緩んでる証拠だ」
と朝からお説教を食らった。
私が昨日の夜走り回っていたのを知っている人達もいたけれど、領主の息子相手に何も言えなかった。私も言い訳しなかったので、自分は正しいと思い、私に注意できたことに満足げで、私が仕事を始めてもゆったりとコーヒー片手に新聞を読んでいた。
まあ、見てるだけの人ですから。




