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VI 治癒師の仕事に同行

 幸いと言っては何だけど、私にはやることがいろいろあってヨハネス様とずっと顔をつきあわせていなければいけないわけではない。夜会で令嬢達に言われたとおり、私は金で買われた治癒師。やるべきことをやる。それが自分の務めだ。


 領内の教会に出向き、薬や治療に使う物品を補充するのも私に任された仕事。包帯や油紙、薬師に頼まれた薬瓶を調達したり、薬草や薬を融通したりと私が仲介役を果たすことでうまくいっていることもある。こういう便利屋さんみたいなことは私のように領内を巡回している人間が適任だろう。

 領の教会を巡るうちに、教会の皆さんとも地域の人たちとも顔見知りが増えてきた。みんなと仲良くなれたわけではないけれど、これからの長い付き合いを考えると、顔を覚えてもらい少しづつでも信頼関係を築いていくことが大事だ。



 私がここに来て四ヶ月目、

「おまえも治癒師の仕事を理解したほうがいいな」

 伯爵様にそう言われたヨハネス様が教会巡回についてくることになった。


 正直言って面倒だった。これまで私と侍女一人護衛二人の四人で、物品用の馬車を含めて二台で移動していたのに、ヨハネス様一人増えただけで同行する護衛も侍女・侍従も増え、総勢五台の馬車を連ねて移動することになった。増えたのはヨハネス様の荷物&お付きの人で、教会に届ける薬や物品の数はいつも通り。スペースに余裕がありそうなので届ける物品を増やしてはどうかと提案したけれど

「いつも通りで充分だ」

と却下された。


 伯爵家の跡継ぎを守るためとはいえ、人が増えれば移動も遅くなるし、移動先の宿泊代や食費も増えてしまう。伯爵家が出しているので私が文句を言うところではないけれど、ついもったいないと思わずにはいられない貧乏性の私。これに慣れるのには時間がかかりそう。



「全くこの道はずいぶん揺れるな」

 領主の館のある街と王都を結ぶ道は舗装されているけれど、少し離れると領内はまだまだ道が整備されていなくて水たまりやへこみが多い。毎回揺れに悩まされ、へこみが深くなると振動で薬瓶が割れることもある。

「道がきれいに整備されると住民達も喜び、出荷する作物も傷みが減って新鮮なものが手に入るようになるでしょうけど…」

「道を使う住民の怠慢だ。穴を塞ぐなり、均すなり、日頃から手をかければいいものを」


 住民には住民の仕事がある。村や町の中の生活道路ならともかく、町と町を繋ぐ長い道の途中をどう住民に割り当てようというのだろう。今回の一往復に使うお金があれば、ここまでの水たまりを埋める程度ならできそうだけど。



 次に休憩に停まった街で、住民から出された蜜たっぷりの甘ーい桃に機嫌をよくしたヨハネス様は、住民が

「この品種は特に実が柔らかで、街の皆様にも生をぜひ味わっていただきたいのですが…。道が悪いもので遠くまで出荷すると痛んでしまうのです」

とさりげなく悪路を話題に出すと(入れ知恵はしておいた)、

「それは大変だな。道の整備を父上に進言しておこう。こうしたことは領主が率先しなければな」

と、さっきとは真逆な発言をして、住民から拍手を受けていた。


 周りから相談されると親身になれるのは領主になる人間としては悪くないけど、私からの提案には無条件で反発してしまうのよね…。

 ま、道がよくなるならよし。


「それにしても、婚約者がご一緒でうらやましいですな」

「末永くお幸せに」

 私達二人が将来の領主夫妻だと知ると周りは祝福してきたけれど、このヨハネスという男は笑顔を引きつらせて建前上の礼も言えず、住民のいないところで苦々しい顔を見せた。この人、よほど私とセットとして扱われるのが嫌なんだな。


 言えるものなら言ってみたい。

 私もあなたとの結婚を望んでいるわけではありません。私という担保なしでうちの領に融資してもらえるなら、すぐにでも婚約解消に応じますが? って。

 言えない以上、何とか妥協点を探すしかないのだけど。

 …厳しいわー。


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