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V 社交の仕事

「相変わらず、勇ましいなあ」

 声をかけてきたのは、王立騎士団のレオンハルト・ローヴァイン第二隊長。魔物討伐の救護班に参加して何度かご一緒したことがある。本人は大きな怪我をする人ではなかったので治療する機会はなかったけれど、部下は何人か治療していて、私の腕を認めてくれていた一人だ。


「お久しぶりでございます」

「おまえからそんな丁寧な挨拶を受けようとは」

 討伐隊ではほぼすっぴん、髪は一つにまとめ、足さばきの邪魔にならない膝下のスカートをはいてダッシュする姿がデフォルトだったけど、夜会にあんな格好で参加するわけがない。もちろん緊急事態以外で隊長様にため口などもってのほか。

「ボルフェルト伯爵家に嫁ぐことになりましたので。ボルフェルト家の皆様に恥をかかせるわけにはいきません」

「ボルフェルト家のヨハネス殿と婚約したんだったか。あの噂は本当だったんだな」


 めかし込んだ姿をしげしげと眺めているけど、好感も卑下も感じられない。ただ観察しているだけのように見える。

「こういう時って、お世辞でも褒めるもんじゃないんですか?」

「ボルフェルト家の侍女の腕が素晴らしいということはわかった」

 褒めるのはそっちね。まあ間違ってないけど。

 私の周りの男どもは皆こういう人なんだろうか。褒めたくもならないのは私のせい?

「次に治療の機会があったら、痛くてよく効く治療をして差し上げますね。とはいえ、これからはボルフェルト領外の仕事は滅多に来ないでしょうが…」


 これから先、レオンハルト様達王立騎士団の皆さんに会うのは、こうした社交の場くらいになる。

「王立騎士団は常時敏腕治癒師募集中だから。何かあったらいつでも泣きついて来いよ」

 泣きつく…。何かあったらって、…破談になったらってことか!

 意地悪な顔して笑っているレオンハルト様に

「大きなお世話でございます」

と笑顔で答え、広げた扇の裏で思いっきりあっかんべーしてやった。



「おお、リーゼじゃないか。めかし込んだなあ」

 レオンハルト様をきっかけに、私に気がついた王立騎士団の方々が私のところに来てくれた。

 最近の武勇伝にはじまり、今の王立騎士団の状況や国内の魔物の発生状況、隣国の流行病のことなどいろいろ聞くことができた。こうした情報はありがたい。魔物も病気も広い目で追わなければ、自領で閉じこもっていては迫ってくる危険を未然に防ぐことはできない。教会で派遣されているといろんな情報が入って来てありがたかった。代わりに何か大ごとがあったら一番に現地に派遣されてしまうけど。


 治療に行ったことのある領の領主、領主夫人からもお声をかけていただけ、お知り合いの方もご紹介いただいた。これが社交というもの。面倒だとおっくうがらず、時々は参加した方が良さそう。


「帰るぞ」

 話がはずんでいるところだったのに、突然現れたヨハネス様に腕を引かれた。

 驚きながらも皆様にご挨拶をして会場を離れた。これだけの人達を前に挨拶もしないなんて。苦笑いを見せていた面々は、婚約者の嫉妬とでも思ったのだろうか。…まああり得ないけど。



 帰りの馬車でヨハネス様は不機嫌オーラを漂わせ、腕組みしたまま向かいに座る私を睨みつけてきた。

「婚約者と同行しながら、何人もの男達に声をかけて喜んでいるとはな。我が家の品位を落とすつもりか」

 軽蔑のこもった眼差しを見れば、それが嫉妬ではないことはわかる。誰かに変なこと吹き込まれて真に受けたんだろうか。

「私のような者でも婚約者として紹介していただけると思ってましたが。ずっと離れておいででしたので、私は私で自分の知り合いにご挨拶しました」


 こうした社交の場に出向くのは、人とのつながりを持つため。初めて婚約者を同行する夜会なら、普通なら会場にいた知り合いに紹介するのは当たり前だ。それを拒否して離れておいて、私が仕事関係の知り合いと話したくらいで男あさりでもしていたかのように文句を言うとは。

 ああ、小さい男だなぁ。


「私は治癒師として働いていますので、仕事関係の知り合いがいます。王立騎士団の皆様とは討伐で何度かご一緒していますし。シュナイト伯爵ご夫妻は昨年、伯爵の領内で起きた事故の際に教会から派遣されましたので、そのお礼を言われました。そうした方々とお話しするのはいけないことでしょうか。むしろヨハネス様にも親交を深めていただけるチャンスでしたのに。残念に思います」

「それならそうと言えば…」

 …あの態度でどうやって。

「殿方と話している私を見て不快に思われたかもしれませんが、『帰るぞ』ではなく『こちらの方は?』とでもお聞きいただけましたら、ご紹介できたのですが」

 私の言葉に自分でも悪手だったと自覚したのか、会話を止めてプイッと私から目を逸らせた。

 甘やかされて育ったのか、社交慣れしていないのか。ちょっと、いや、かなり残念だ。


「…自慢したくなるような女なら…」

 小さな声で、本人は自分が口にしたと自覚さえないほどだったかもしれない。けれど、その言葉を聞き逃しはなかった。

 結局、私のせいか。

 時間をかけて私を仕上げてくれた侍女達にも申し訳なくて、家に着くまでの馬車の中は重苦しい空気に包まれていた。


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