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II 出会いのタイミング

 こう見えても治癒師としてはご指名がかかるほどの実力はある。

 あちこち駆け回っていた私は最近ではほとんど家に戻ることはなかったのだけど、ある日突然父に呼び出された。

 スケジュールをやりくりして家に戻るといきなりの縁談。もう決まったもの、断ることは許さんと言われ、戻った翌日が顔合わせときた。間に合わなかったらどうするつもりだったんだろう。


 溜め息交じりで応接室でお相手を待っていると、窓の外に立派な馬車が止まった。

 馬車から壮年の男女、おそらくボルフェルト伯爵と伯爵夫人、それにお相手となるであろう若い男性、嫡男のヨハネス様が降り立った。


 ヨハネス様は我が家を見上げ、ゆっくりと視線を動かして家、続く庭をしげしげと眺めて、たまたま(?)庭にいた姉のマルゴットを見つけた。

 金色の髪を緩やかにまとめ、瞳と同じ空色のドレスで、庭に咲くクレマチスを眺める姿。世話をしているわけではない。見てるだけ。来客のある日は着飾って庭に出現するのは姉あるあるだ。


「遠いところ、ようこそお越しになられました」

 私からはヨハネス様の背中しか見えなかったけれど、視線が止まり、固まったのがわかった。

 まさにa boy meets a girl の瞬間だった。

「ヨゼフ、お客様がいらしたわ」

 笑顔で家令を呼び(ヨゼフは当然スタンバイ済み)、屋敷に入るのはその家の令嬢。…しかし、顔合わせの場に現れたのは私だった。



 最初のご対面で、露骨にがっかりされたこっちの身にもなってほしい。

 元々茶色い髪はお日様をたっぷり浴びて少々色があせてパサつき、顔合わせを前に急いで油を塗り込んだところでごまかしはきかなかった。日焼けもしてるし、手荒れもあるし、伯爵家の嫡男が知っているご令嬢枠から外れてしまっているのは申し訳ないけれど、私も別に望んでこの縁談に臨んでいる訳じゃない。ひとえに我が家の借金返済のため。

 行ったことのあるボルフェルト領なら安心。治安もそんなに悪くないし、街は活気がある。あそこなら何とかなるかと甘く考えていたけれど、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。


 既に親同士で話はついており、この顔合わせは内容の確認と署名だけで終わるものだった。

 後はサインという時になって、ヨハネス様は意を決し、口を開いた。

「今日、庭でお会いしたご令嬢は」

「ああ、あれはリーゼの姉のマルゴットですよ。うちは娘二人で、長女には婿を取り、家を継がせる予定でね」

 ヨハネス様の気持ちを知ってか知らずか、父は「姉は嫡男にはやらん」ということをほのめかした。


 ボルフェルト伯は

「姉妹揃って治癒師とは、リーベル殿も運がいい。しかもリーゼ嬢は評判の治癒師。王立騎士団も狙っていると聞き、かっさらわれる前にこうして婚約できて本当に良かった」

と、自らの運の良さを笑顔で語り、はっはっはと笑い声をあげた。


 つまり、将来の伯爵夫人を姉に入れ替える気はないということだ。そしてヨハネス様もここで駄々をこねるようなしつけはされていなかったようで、自分の人生が決められる中、想いをぐっとこらえるその姿は見ていて気の毒だった。

 しかし、その落胆はやがてヨハネス様の中で化学反応を起こし、私への怒りに変わっていくのは想像がついた。


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