XIX 新たな職場
それから半月後、シリングス公爵家から迎えが来て、私はお世話になった修道院を去ることになった。
移動すること三日。豊かに実る畑が広がり、途中の町並みは美しく清潔で、人々の生活にも余裕が見られた。
活気ある中心都市は往来が多く、市場に並ぶ品々も充実している。いい所だなあ。
馬車はお城のような家に横付けされ、なんと公爵様直々の出迎えを受けた。こんな待遇、初めて。
「よく来てくれたね。これから三年間、よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
応接室に案内され、早速今回の身請けに関わる雇用契約の話になった。
公爵領の治癒師として三年間の専属契約、その間お給料も出してもらえる。その金額からして、身請け金はほぼ引かれていないと思われた。
「うちの治癒師が結婚してね。子供ができたので、しばらく治癒師としての活動を休むことになったんだ」
それが私を雇用した理由なら、三年という期間は丁度いい。
「働き次第でその後の契約も考えよう。この領で君の力を発揮してもらいたい」
「誠心誠意、務めさせていただきます」
元気に返事した私に、公爵様は子供を見守るような笑顔を見せた。父と同じ世代に見えるけど、何と言うか余裕があると言うか、品があると言うか…。こういう大人になりたいと憧れる。
「実は甥から君のことを聞いていてね。うちの治癒師も、以前君が応援に来てくれた時のことを覚えていて、君なら大丈夫だと太鼓判を押ししてくれたんだよ」
甥っ子…? 誰だろう。シリングスという家名に知り合いはいないんだけど。どこかで治癒した誰かかな…?
それが誰であっても、私のことを認めてくれた人の顔を潰さないように、頑張って働こう。
公爵家の使用人が住む棟の一室を与えられ、ここに住みながら定期的に巡回の旅に出ることになる。
翌日には早速同僚となる治癒師のヴィムさん、アデリアさんと顔合わせをして、仕事の段取りを聞き、担当区域と巡回コースについて確認をした。
初回はアデリアさんに一緒に回ってもらい、次からは私一人で回ることになった。各地域には医者や薬師、教会のボランティアの方もいて、ここの領の体制は充実している。街には公爵家の私設警備団がいて、治安もよく、とても心強い。
領の北東部にある森には時折魔物が発生し、魔物と遭遇して怪我をする人もいる。領内には専属治癒師の他に教会に治癒のできる修道士も常住している。状況に応じて教会に治癒師の派遣を優先してもらう契約もしてある。魔物との接点があるだけに対策もぬかりない。さすが公爵領。いいところに就職できた。
二ヶ月ほど過ぎて仕事に慣れてきた頃、いつもの巡回ではなく、魔物討伐に派遣されることになった。
ここに来てからは初めてだけど、討伐参加の経験はあり、やるべきことはわかっている。ひるむことなく
「お任せください」
と答えると、警備団の団長は新人が張り切ってるとでも思ったのか、
「油断のないように気を引き締めて務めてくれ」
と、少し強めに言われた。心配してくれているのを感じ、素直に頷いた。
「お、久しぶり」
討伐出発の日、声をかけてきたのは、王立騎士団のレオンハルト様だった。王立騎士団も魔物の討伐に派遣されていて、顔なじみの小隊の皆さんがそろってる。
今回の討伐は公爵領の警備団と王立騎士団合同で、東の森で増えてきた魔鹿を駆逐するのが目的だった。
私がレオンハルト様の知り合いで、討伐は初参加ではないと知り、警備団の団長も少し安心したように見えた。
「婚約やめたんだよな」
そうだ。レオンハルト様は私の婚約者を知ってるんだった。
「あー、ヨハネス様は元々姉に一目惚れしてたので…」
「ドプナー侯爵家の夜会の後、噂になっていたもんな、あの二人」
やはりあんなところで二人の世界に入っていたら、噂は広がるわよね。
「手紙もらって、そういうことだろうと思って団長に掛け合ったんだけど、予算が厳しくてうちには来てもらえなかった」
やっぱり王立騎士団が動いてくれたのは、レオンハルト様のおかげだったんだ。
「修道院に入ってたことまで調べてくださったんですね。…ありがとうございます」
「身請けにボルフェルト家まで動くとは思わなかったよ。伯爵は品位のある人だと思っていたんだが、なかなか図々しい家だ。…おまえの姉とあの男、うまくいってないって知ってるか?」
うまくいってない?
「ヨハネス様と姉が、ですか?」
あんなに相思相愛だったのに?




