XII マルゴットの治癒
二日目も姉とヨハネス様は一緒に行動し、治癒の見学に飽きたらお出かけ。もう姉の治療参加は期待していない。
その日は少し混んでいた。患者さんをお待たせしてしまうのは申し訳ないけれど一人一人丁寧に治療をしていく。治癒魔法はけがや病気を治すことはできても体を若返らせることができる訳ではないので、年を重ねた人の治療は負担をかけないように緩やかに調整する必要がある。
「ずいぶん楽になった。手を当ててくれたところがポカポカして、いい気持ちだよ」
治療を受けるために二つ向こうの村から来てくれる常連のおばあさんは、教会に着いてからも1時間もお待たせしてしまった。腰の痛みは軽減してるけど、腎臓もあまり調子よくなさそう。追加の治癒魔法を施した。
「無理をしないようにしてくださいね」
おばあさんが帰ろうとしたところで、目の前で男の子が転んだ。
膝をすりむいて大泣きしていたので、様子を見に行こうとしたら姉が男の子に近づいた。
「大丈夫?」
笑顔で男の子に話しかけ、膝に手をかざすと、男の子の擦りむいた膝が見る見るうちに治っていった。
男の子は初めて治癒魔法を見たようで、目を輝かせて姉を見つめ、大喜びした。
「すっごおおい! ありがとう!」
後から来た母親も姉に感謝の言葉を告げ、周りにいた人も素早い技に感心している。
姉は男の子に手を振り、ヨハネス様の元に戻っていった。
ヨハネス様が何を言っているかまでは聞こえなかったけれど、立ち上がって姉を迎え、何やらべた褒めしているようだった。謙遜気味に首を振り、恥ずかしそうに、それでいて誇らしげにしている姉の姿。ヨハネス様は姉の治癒師の力を目のあたりにして感激しているようだ。
「あれまあ、あの人、治癒魔法が使えるんだね」
その様子を見ていたおばあさんが、あまり驚いた様子もなく言った。自分の姉だと言う気になれず適当に
「そうみたいですね」
と答えると、おばあさんは姉の技に魅入られるよりも、至極当然の疑問を口にしてくれた。
「それならどうして手伝いもせず、あんなところでのんきにお茶なんか飲んでるんだろうね、こんなに混んでるのに…」
「…ですよねぇ」
姉が治癒をしたのはそれっきり。もちろん、この後も姉が手伝うことはなかった。
私が仕事を終えて戻ると、二人は既に夕食を終えて部屋に戻ったようだった。
私が食堂に入ると、護衛が急に話を止め、黙々と食事を取った。恐らくあの二人のことを噂していたのだろう。もしかしたらヨハネス様に相手にされていない私のことも話題に出ていたのかも。
ないがしろにされている自覚はあるけど、ずっとそうだったので今更だ。慣れてしまうもよくないんだろうけど…。
指先にピリピリとしびれを感じた。
ここでの治療は三日間。明後日には伯爵家に戻る。
姉の今後のスケジュールは知らないけど、このまま一緒に伯爵家に戻るんだろうか。
姉は確実にヨハネス様の心を射止めている。後はいつヨハネス様が決意するか。それともやはり親には逆らえないのだろうか。
翌日、姉は患者の中から子供や若い男の人を見かけると声をかけ、傷を確認して治癒をかけていた。手伝ってくれるのはありがたいけれど、治療対象を選んでいるのは何なんだろう。
体力のある怪我人に速さのある魔法展開で派手に治していくその姿は人々を驚かせ、感嘆の声が上がった。紛れて私の治癒が地味だというご意見もいただいたけど、そういうもんだし。
できればもうちょっとまんべんなく手伝ってほしい。順番を無視して患者を選び、気まぐれに始めて気まぐれにやめるので、ずっと待っている人はどうして自分は飛ばされたのかと不満たらたら。そしてその愚痴を聞くのは私。
乱れそうになる治癒魔法を、深呼吸で整えた。




