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X 入れ替わったパートナー

 次の曲が始まったところでアルノーに声をかけた。姉と一緒に夜会に参加するくらいだ。婿入りの話は進んでいるのだろう。

「お姉様との婚約、決まったの?」

「リーベル領を継ぐにはマルゴットとの婚約が必須だって。うちの父も乗り気でね…。ほぼ決まりだろうな」


 アルノーの表情は冴えない。それもそのはず、アルノーにはリタという恋人がいる。

 リタは商家のお嬢さんで、アルノーの家もリーベル家の分家で爵位はなく、二人の結婚に障害はないはずだった。

「リタのことは?」

「とてもじゃないが説得できなかった。君の父はマルゴットを娶らないなら話を白紙に戻すと言うし、僕の父は子爵家に入らないならリタの実家を潰すと脅してきた。向こうの家に迷惑をかけるわけにいかないしね。…どうしようもないさ。家を捨てて逃げて幸せになれると思うほど夢想家じゃないよ」


 アルノーの父は農園経営で財を成していた。私の父に長年にわたり金銭的な援助をしていて、その条件が自分の子供にリーベル領を継がせることだった。当初リーベル領を継ぐのはアルノーの兄だったのだけど、留学先で恋に落ち、現地で結婚して戻って来なかった。長男がいなくなったら次男のアルノーがその役割を果たさなければいけない。その決定に子供の意思など関係なかった。


「姉の事はどう思ってるの?」

「どうって…」

 遠い目で踊っている姉を見るアルノー。

「美人だけどね。それだけかな。領のことは夫任せでいいと思ってるみたいだから、やりやすいと言えばそうかもしれないけど」

 恋心はない、か。まだ恋心が芽生えた方が楽なんだろうけど。


()()はどう思う?」

 私が踊ってる二人を指さすと、

「あの伯爵令息はおまえの事よりマルゴットを気に入ってそうだな」

 誰の目にもそう映っているだろう。周囲も二人に目線を送り、ひそひそと噂話に余念がない。これは広まりそう…。


「…なんか、あの二人が収まってくれた方が、何かといいような気がしない?」

「そんな可能性、あるのか?」

 私の意見にアルノーは懐疑的だった。

 恋人がいながら親から縁談を押し付けられ、不満たっぷりなのに折れるしかなかった。そこに突然非現実的な甘い誘惑を向けられても簡単にはのれないだろう。慎重な性分というより猜疑心で固まってしまっていると言ったところか。

「わかんないけど、ありえなくもないような…。もしそうなったとしても、姉と交代で領に戻らされたくないのよね…。もし、仮に、万が一、そういうことになったらうち側の有責になる訳だし、交渉の余地があるんじゃない? その時はもう一回リタを受け入れてもらえるように頑張ってみてよ」


 アルノーはほんのわずかに期待に目を光らせながらも、すぐに現実に戻り、諦めた顔でため息交じりに答えた。

「そんな奇蹟が起こったらね。…しかし、妹の婚約者とあんなに楽しそうに踊るか? ふつう」

 ヨハネス様は婚約者である私を同行している。姉もまた間もなく婚約するであろうアルノーと来ている。それなのに二人は自分達の本来のパートナーといる時以上に笑顔を絶やすことなくダンスを楽しんでいる。ダンスは姉の得意とするところ、二人が踊る姿は華やかで、ステップも軽く、実に優雅。とはいえあの二人、あんなに目立っちゃっていいんだろうか。


 さすがに二曲目には突入しなかった。そこはさすがに常識ある行動にとどめたけれど、その後も二人はずっと一緒で、二人だけの世界に入り、パートナーのことは頭の中から抜け去っているみたい。


 会場を離れる時、組み合わせは完全に入れ替わっていた。しかし馬車は別々、戻る先も別。入れ替わりはここまで。

 ヨハネス様はなんとも名残惜しそうに

「ぜひ、うちにお越しください」

「ええ、ぜひ伺わせていただきますわ」

 なんて言ってたけど、社交辞令、…だよね?

 じゃないかも。


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