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最終話 アリオラの始まり

騎士叙任直前の彼らが武器を破壊され、心を折られてへたりこむ中央広間の中、アリオラは執事とナナシの方を見た。


「つまらんかったぜ………この歳のワシに手も足も出んほど弱いとは………」


ナナシの前に執事と四人の下男たちが両手首と両足首から血を流して、座り込んでいた。


「おかげで、手足の四つの腱だけを切るって縛りしたってのになあ………きっちり一人四振りでとは………ちっとは避けてほしかったぜ」


アリオラはナナシの変化に驚いたが、それよりもロンダが拘束されていたなら、ロンダの身が危険だから、

「ロンダは?ロンダは掴まってるの?どこにいるの!」

しかし、

「ははははは、ふははははは」

執事がアリオラを見てうすら笑うだけだったから、アリオラは走り出した。

胸に悪い予感を抱いて。


月明かりの下、かつてロンダが息子さん夫婦と住んでいた家へと。

「―――あ、あの時にはもう………殺されていた、の………ロンダは生きてるって嘘だったの?ああ、あああああああ!」


そこにはずいぶん前に焼け落ちたであろう家の残骸と、ロンダと息子夫婦のために作られたと思われる三つの石が並べられた墓があった。

墓の石は、長くそこにあったように苔が生え、村人が手向けたであろう小さな花が置かれていた。


「ロンダぁ、ロンダぁ………ごめんなさい、ごめんなさい、わたしを逃がすために―――」


墓の前で泣くアリオラの後ろで、もの悲しい音楽が響くのは、ナノが弦楽器で鎮魂歌を奏でるから。


その切ない音色が、アリオラが耐えてきた悲しみを、一滴残らず涙に変えて大地へ零れるままに泣かせて。

零れる涙とともに胸の痛みを伴う悲しみは和らいで、脳裏に浮かぶロンダの笑顔を悼む悲しみに変わっていく。


「わたしは、ロンダのおかげで生きてるよお。ロンダとお爺様が守ってくれたからだよお!」

だからアリオラは、ロンダに謝る事は止めて、

「ロンダぁ、ありがとう!わたし、生きて行くよお!生き抜いてみせるよお!見ててねえ!見てて!」

深く大きな感謝とアリオラの決意を伝えた。


鎮魂歌に包まれるアリオラは、

「泣いてちゃ、ロンダに怒られちゃうね。そうだよね、ロンダ?『泣いていても誰も助けてくれませんよ。自分で怒って、立って』って言ってたもんね?」

そう呟いて、ロンダに別れの黙とうを捧げた。


「ああ、アリオラお嬢様。その悲しみを怒りに変えて、憂さ晴らしはいかがですか?」


「憂さ晴らし?」


「ちょうどいい感じに、怒りのぶつけ甲斐がある連中が集まって来てますから!」


ナノの言う意味が分からず困惑していたアリオラだったが、

「おー、修行相手がおかわりだぜえ!ワシの姿が元服したての時から変わらんから、正直期待うすだが、まあ。良かろう!」

少年姿のナナシが刀を収めた鞘を肩にあてて持ち、その鞘先に執事をぶら下げて近づいてきた。


少年ナナシの視線を追うように動かすと、屋敷の南方から十以上の豪華な馬車と、馬に騎乗した傭兵らしき姿の者達が二十人以上、馬車や馬に付けたランプの灯りとともに屋敷へ向けて走って来るから、


「ナノ、あれの事?怒りのぶつけ先………」


馬車と傭兵達の方を指刺したアリオラが聞くと、

「あのお坊ちゃん方の護衛と、従者もろもろの一団ですね。お坊ちゃま方が戻らないから心配で来たんでしょう。つまりまあ、ろくでもないオプラトス大王国の貴族の仲間です。憂さ晴らしにはもってこいですよ?」

ナノがいい笑顔をアリオラに向けるから、

「やってやる!よおし、今に見てろオプラトス王!いつかわたしの拳をお前に届けてやるぞお!」

ロンダがかつて言った言葉を借りて立ち上がり、

「その前に、お前らだあ!わたしはお前ら理不尽を踏みつぶしてやる!あああああ!くそったれー!」

アリオラは拳を頭上高くに掲げて叫んだ。


「ああ、僕のお嬢様の口が悪い!でも、素晴らしいです、僕のお嬢様!では、また応援の準備をば」


「ああ、旦那。ワシへの応援はいらんぜ!ありゃあ、強すぎて修行にならねえ!」


「お、いいですね。ナナシ君!そういうの、僕は好き!」


三人は屋敷から離れて立っていたが、近づく集団を睨む姿に敵対心を感じたからか、馬車と騎乗した傭兵達が周囲を取り囲み、馬車からはそれぞれ四名から五名の鎧を身に着けた護衛さしき男たちが降りてきて、全部で60名以上に取り囲まれた。


「さあさあ、聞けよ音楽!届けよ応援!」


再び鳴り響くのは、アリオラの背を強く押す、ナノが奏でる力強い音の波。

鎮魂歌は止み、今鳴り渡るのは行進曲か祭囃子か。

それはアリオラの耳には、心が沸き立つ楽しい音楽に聞こえるから、きっと今回のは祭囃子で合っている。


「おい、くされ執事。この旦那を侮っとる時点で、お前は無能よ!あの旦那はなあ、化け物だぞお?」


「私を無能呼ばわりですか?何を言って―――」


「さあ、嬢ちゃんの気迫にワシも張り切ってまいろうか!お前らの腐れたお仲間だ、返してやろう!」


「や、止め―――」


「受け取れよ?ほーれ!」


少年ナナシのどこにそんな力があるのかと言いたくなる程放り投げられた執事が包囲している護衛や傭兵にぶつかって、

「「「ぎゃあ!」」」

包囲網の一部を吹き飛ばして、

「【血装ーけっそうー】!やるぞお!やってやるう!【血装・刃嵐ーじんらんー】!」

アリオラは怒りのままに、【血装・刃嵐】を放ち戦場に血の嵐を作り出し、

「いくぞお!せいぜい避けてくれよお?せいやあっ!」

少年ナナシが刀を抜き放って戦場を駆けまわる。


「き、貴様等、オプラトス大王国に反逆す、がぺ―――」


「ぐ、なんだこの赤いのは!あっ―――」


「見た事もな、ぐが―――」


「待て待て待て!やめろ、俺達傭兵は手をひ、ぎゃん―――」


「もう、嫌だあ!かぺ―――」


血の嵐が護衛や傭兵達を舐めるように斬り刻み、少年ナナシが血の嵐とは別の相手に斬り込んで行く。


あちこちで悲鳴が上がり、絶望の声が聞こえ、斬ってはいるが殺しはしていないのに心に刻まれる血の嵐の恐怖と、獲物を見るような目で斬り込んでくる少年のギラギラした目に、心が現実を拒否。

次々に気絶という救いへと逃げ込んで行った。


ちなみに、気絶くらいで後に目を覚ました彼らに刻まれた恐怖のトラウマは消える事はないのであるが、ともかく祭囃子が止んだロンダの墓の周りに立っていたのは、二人だけだった。


「終わっちゃった………」


「やっぱり、つまらんかったぜ………」


周囲に気を失った護衛や傭兵達が転がる村の中で、二人だけが祭りの後の寂しさのようなものを胸にポツリと呟いて。

そのアリオラの前で、朝日が昇っていく。

アリオラを照らす陽光にアリオラが感じるのはもう肌を焼く痛みではなく、温かさだけで。

朝日が村を、世界を照らしていくからアリオラはしばし、朝日を眺め続けた。


「わたし、もう自由なのか………」


そう呟いたのはアリオラはもう軟禁されていないから。

アンガビが追って来ても黙って捕まるアリオラではもうないから。

始まる新たな一日をどう生きるのか、巡りくる明日をどこで迎えるのか、全てがアリオラの自由なのだ。


朝日の眩しさに目を細めて、その場でぐるりと回って世界を眺め、どこへ行って何をしよう、何になろうかと想いを巡らしていたアリオラだったが、

「あ、わたしお金持ってない!」

重要な事を思い出した。

世の中、お金である。

どこへ行き、何をしようが、生きている限りお金がかかるのだ。

それなのに、アリオラはお金を持っていない。もっと言うなら、使った経験すらない。


「どうしよう、ねえナナシ君。どうしよう?」


頭を抱えたくなる難問に、思わず少年に過ぎないナナシに聞いて、

「せっしゃはお金など持っていないでござる。また野宿せいかつは嫌でござるう」

ナナシが少年姿から子供姿に変わっているから、

「ナナシ君がまた縮んだ」

そう驚いて、そんなアリオラは耳に聞こえてくる音の方向を振り返る。


『ガラガラガラガラガラガラ』


そう音をたてて近づいて来るのは、

「ナノ?」

アリオラと少年ナナシが護衛と傭兵達に勝った時にはいつの間にかいなくなっていたナノで、

「ナノ。その荷物は何?」

ナノが巨大な背架だけでなく、肩にかけたロープの先に、護衛や傭兵の物と思われる剣やら鎧やら飾りのついた箱やらを結んでいくつもいくつも引きずって来たからそう聞いて、

「執事さんが、『屋敷にあるものは全て自由に』って言ってたんで、『自由に』もらってきただけですよ?」

ナノが平然と言ったがそれは、屋敷の中ではなく村の中に転がっていたもののはずで、

「でもそれ屋敷の中の物じゃ―――」

そう言いかけたのだが、

「いやあ、屋敷の広ーい庭先も屋敷のうち!良かったですねえ!お金になりますねえ!」

ナノが良い笑顔でそう言いきるから、

「ふふふ、あははは」

アリオラは笑って納得する事にした。

ひとまずお金の心配はしなくて済みそうだと思いながら。


「それで、ナノ。わたしは吸血鬼で血を飲まないと身体は回復しないはずなんだけど、わたしはナノの料理で元気に回復したよ。ナノ、何かした?」


そう聞いたのはきっとナノこそが、その理由だと感じているから。


「え?何かしたもなにも、僕の血を料理に混ぜただけですよ?美味しかったでしょう、僕の血は?」

ナノはまたいい笑顔だったから、

「とってもね!」

アリオラはナノについて色々疑問があったのだが、それを聞くのは諦める事にした。


「それで、ナノもナナシ君もわたしの奴隷じゃないでしょ?奴隷の首輪を誰かが見たら、きっと執事達の所へ戻されるよ?」


どうやらアリオラと共にいてくれる気のナノとナナシに聞いてみたが、

「あ、奴隷の首輪ですか?首輪の内側が蒸れて嫌なんですよねえ。えい」

ナノがまるでネクタイでも外すみたいに簡単に鉄製の奴隷の首輪を外すから、

「え?」

驚いたアリオラがまた見る事になったのは、

「あ、ナナシ君のも。きっとナナシ君の中の人なら自分で斬れるんでしょうけど。えい」

ナノがナナシの奴隷の首輪をいとも簡単に外し、

「はい、お嬢様。これで何の問題も無し!でも僕、ナノの心はいつまでもアリオラお嬢様の奴隷ですよ!」

そんな事を言い出すから、

「ふふふ、あははははは!ナノはもう!ナノったら、もう!」

もう笑って全部認める事にした―――ナノはそういう規格外の存在だと。


ひとしきり笑って、笑った事で潤んだ目の端にたまった涙を拭いて、アリオラは周りを見渡して、


「でも、これからわたしは何をしたらいいんだろう………」


そう呟いたのは本心からで、手に入った自由があまりにも急すぎて、

「生きていられると思ってなかったからなあ………」

つい昨夜まで死ぬか利用されるだけのアリオラの人生において、どう生きたいかなど考える余地は無かったからだ。


「では、アリオラお嬢様の奴隷ナノが決めてあげましょう!お嬢様、お嬢様の国を造りましょう!」


「え?」


「ですから、アリオラお嬢様が自分の国を造るんですよ?」


「どうして?」


「オプラトス大王国をぶっ潰すためには、国が必要でしょう?おかしな事を聞くなあ、僕のお嬢様は」


「うん、待って。ちょっと待って。わたし、たしかにオプラトス王へ拳を届けたいって言ったよ。でも、ひと殴りできればそれで―――」


「いやだなあ!王に拳を届けるには、個人の努力じゃ無理ですって。だから国を造りましょ!」


「ナノ、どうしてそんなに国を造りたがるの?」


「僕、オプラトス大王国が大嫌いなんですよね。だから、オプラトス大王国で苦しんだお嬢様が作る、オプラトス大王国とは全く違う国を見てみたいからですが?」


「わたしが国を造るって、無理よう」


「大丈夫、アリオラお嬢様の後ろにはいつも僕、奴隷のナノがおります!応援してあげます、良かったですね、僕のアリオラお嬢様?」


ナノの言い様が、アリオラの奴隷がナノで良かったね、とむしろナノの押し売りのようで、呆れるやら何やら複雑な気分だったが、

「や、やるだけやってみよう、かな?」

そうとでも言わねばナノが許さないだろうから、そう答えた。


「良い子ですね!僕のアリオラお嬢様は!」


ナノはそう言って笑い、

「ナノどの、腹が減ったでござるう。何かくれでござるう」

ナナシはやはり子供らしいままで、

「ナノ、せっかくだから屋敷の広ーい庭先にある馬車も『自由に』していこう!」

アリオラが言った言葉に、

「はい!お嬢様!いいですねえ!分かってきましたねえ!そうしましょう!ああ、お嬢様は今、生きてるう!」

ナノはパッと顔を明るく笑った。


しばらくして高位貴族家らしい豪奢な馬車の屋根の上に、巨大な背架と剣や鎧、飾り箱を山ほど括り付けて、品もなにも無くなった馬車がオプラトス大王国の外を目指して進み始める。


―――その道行は波乱万丈。

様々な出会いと、ナナシが決闘する度に背に増える空飛ぶ刀、力ある兄妹の合流に、勇者と呼ばれ男が引き連れた移民達との合流。

さまざまな事が起こるが、それはまだ先の話である。


アリオラの国を興す旅は、始まったばかりなのだから。


◆◆◆◆


―――オプラトス大王国の北東にある村にて。



燃え上がる家々、累々と横たわる焼けた村民の死体。人間が焼ける匂いが鼻を突き、炎の赤が地面の雪と黒煙を赤く照らしている。


聞こえてくるのは、悲鳴と怒声、慟哭と笑い声。

斬られて悲鳴を上げる村民、殺された家族を前に慟哭する子。

立てこもった家を『出てこい』と怒鳴って蹴破り、中にいた村民を斬り殺してから家の中を物色し金目の物に笑い声を上げて略奪する騎士達。

弱者である村民の命は軽く、強者である騎士達は身分も彼らの持つ財貨も重い。


その村には、青年の友人が暮らしていた。

もう十年以上の付き合いの男で、一緒に大工修行をした間柄だった。


修行を終え村に移り住んだ後結婚し、友人とその妻の間には二人の子供も出来て、訪れる度に大きくなる子らに、青年はなんとも言えず温かい気持ちになったものだ。

彼は村一番の大工として頼りにされていて、だから青年は持ち前の人好きな性分で村民たちとも仲良くなっていた。秋の祭りにも何度も参加させてもらった、思い出の地だ。

そんな彼らの生活が命が、眼前で破壊されていた―――


「―――滅してくれよう、愚かな人間ども!」


青年の中に湧き上がったのは怒り。

人が好き、この世界での生活が好き、学ぶ事が好き、仕事は何でもやってみたいと旅をして仕事を覚えて夢中になり、何にでも興味を抱いて全部やってみて、出会う人と言葉を交わし、さざまざまな美味しい料理を食べて感動し、実に50年近くそうやって生きた青年だったのに、である。


大きすぎる怒りは『人生』で得た喜びを焼きつくすように覆い隠し、青年の友人や知人がまだ多く生きているというのに、彼は人間を愚かと断じ、殺し尽くそうと思い至り、空へと舞い上がった。


「なぜ、生きるのも大変な人間が、同じ人間を殺す?」


「なぜ、人が懸命に手に入れた物を笑ってかすめとる?」


「なぜ、騎士が、王が、国の民を無残に殺す?」


「なぜ、なぜだ、オプラトス王!お前は、何のための王だ!」


この時、やっと青年は知る事ができた。

自分が存在する理由を、生まれてきた理由を。


それは、

「世界を見て、人間が存在に値しないと感じた時、滅ぼすためだ」

最強の力を持って空に座していた五角竜シィアマルブルムが変異して人の世に降りて『人生』で得た答えがこれであった。

人の見た目でありながら空に浮かぶ青年の名はナノ―――一部の方言で『名無し』を意味する、ナノ。


「人間は存在するのに値しない。滅ぼしてくれる」


五角竜シィアマルブルム―――ナノが宙空で、竜の力を発揮しようとした時、ふいにナノの耳に届いたのは泣き声。

まだ幼さの残る少女が、その小さな身体のかぎりに泣く声。


ナノの心に、響き渡る泣き声に思わずナノは視線を向け、そこに初老の男に抱えられて飛空艇から降りて逃げていく少女を捉えた。

その目には涙があふれ、伸ばす手は村へと向き、泣いて泣いて泣いて。


その声を聞くうちに、

「人間が存在に値しないと判断するのには、まだ早い、のか」

その涙がナノの腹で燃え盛る怒りを濡らして弱めるように感じて、ナノは少女をずっと目で追って。

自身の竜鱗を一枚少女の方へと飛ばし、竜鱗は光を歪めて見えぬままに、少女の首裏に張り付いた。


「人の死を悼む少女に―――かけてみようかなあ!彼女の造る世界なら、僕が暮らしていたいと思えるかもしれないもんねえ!」


数年たった頃、彼女に付けた竜鱗から得られる感覚から、彼女の飢餓感を感じてナノはあの屋敷へと駆け付けた。

竜鱗で姿を見えぬようにして様子を窺い、執事が奴隷を集めている事を知ると、奴隷商の商品奴隷としてもぐりこんだ。


竜鱗を使って奴隷商人には、ナノが実際に商品として並べられている奴隷に見えるようにし、自分以外の奴隷達を竜鱗で覆い執事達には見えぬようにして、まんまと奴隷として購入された。

予想外だったのは、ナナシという子供奴隷がナノの竜鱗から抜け出してナノの横に奴隷として並び立ったために、同時に購入された事だったが、

「おや、ナナシ君なかなか強いですね」

ナノはナナシの内側にいる存在を感じて、ナナシをただの子供だとは思わないから、問題はなかった。


ナノが世界の命運を託した少女の前に奴隷ナノとして立った時、その酷いやつれ方と扱いに、ほんの少し怒気が漏れて、執事の肩を跳ねさせたが、それも些細な事だ。

ナノはあの時の少女を、目の前のアリオラという吸血鬼の娘を救い出すと決めているのだから。


そして迎えた騎士青年達の襲来の夜、アリオラが首へ当てた包丁の刃がボロボロになったのも、アリオラの服の姿に変えている竜鱗の防御のおかげである。

衣服として見えているのは一部だけで、実はほぼ頭まで見えぬ竜鱗によって瞬時にアリオラの身は守られる。竜鱗と金属の刃、当然竜鱗の方が比べようもなく強い。


複数楽器による演奏の件はもっと単純。

身体から放出する魔力を操作して、見えぬ魔力で複数の楽器を奏でただけだ。

ついでに、見えぬ魔力でアリオラとナナシを覆って、無尽蔵の魔力を供給し、体内を活性化させて肉体強度を上げに上げていたが。

だから、屋敷の外ではナナシにその『応援』を断られたのである。


朝焼けの中、国を造るよう願うナノにやっと、

「や、やるだけやってみよう、かな?」

そう答えたアリオラを、ナノは眩しく見る。


一人の少女に、地位も、財産も、人脈も何もない少女に、国を造るなど並大抵の事ではないどころか、できたら偉業。

なんなら、奇跡ともいえるそれを、アリオラに決意させたナノは、薄く笑む。


「アリオラお嬢様が造る国を見て、それから判断します。でもきっと、アリオラお嬢様なら大丈夫だと、僕の五角竜の部分が言っています。たぶんね!」


五角竜シィアマルブルム―――ナノは、賭ける事にしたのだ。

アリオラという痛みを知る少女に、世界の人間全ての命運を。


そのために助けはするが、直接力は振るわないと決めているのは、己が強さをよく知るため。

それにナノが戦っては、意味がない。

人間が、アリオラが勝ち取った国こそ、意味があるのだから。


「さあ、行きましょう、僕のアリオラお嬢様!まずは、剣や鎧もろもろの換金から!」



こうして、五角竜シィアマルブルムの『人生』は続く。

竜の血を飲んで、ほぼほぼ不老不死になったアリオラの永き永き人生の、常に後ろで。

全6話最後までお読み頂きありがとうございました!


別の連載作品「戦えないNPC神官に転生したからNPC村娘やNPC魔王を転職させて守ってもらおうと思います」も投稿中です。

こちらもお読みいただければ嬉しいです!


星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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