ノイズ生徒になる前に!【四階】
四階の教室、廊下を動き回るノイズ生徒たち。
これは、この異次元校舎の四階から出られなくなった『成れの果て』……?
「ここに、ずっといて……私達もノイズになっちゃう!? や、やだ! やだそんなの!!」
「待ってエマ、落ち着いて……!」
エマの叫び声に、ノイズ生徒たちが一瞬止まった。
顔があるわけでもないのに、一斉にこっちを見た気がした。
「ひっ……」
「……うっ……しーっ……」
二人とも固まってしまう。
でも、数秒でノイズ生徒たちは元のように動き始める。
椅子に座って、教科書を出して……。
廊下を歩いて、二人、三人集まって、まるで話をしているような。
黒板前に座っていた二人は、それを黙って見つめる。
これが自分達の未来……??
そう思うと、恐ろしさで固まってしまう。
でもショウマが、話し始める。
「ここから出る方法がきっとあるはずだよ」
「……うん。そうだよね……」
「エマ? 具合が悪い?」
「ううん……いや、悪いけど……出る方法を探したい……」
「そうだね」
二人はしばらく黙って、座っていた。
パニックになっても仕方がない。
……冷静に、ノイズにならずに、次の階段を探すんだ。
静かに、ショウマが話し始める。
「宝石ってなんだろうね」
「……宝石は、願いを叶えてくれる宝石だよ……」
「エマは、知ってるんだ?」
「えっ? あ、なんでだろう……頭に思い浮かんだの。どうしてかな」
どうして自分がそんな事を言ったのか、エマにはわからなかった。
「……この異次元学校には宝石があって、その宝石のために……みんなここへ来たの?」
「わからない……」
「じゃあ……僕達も……宝石を取りにきたのかな……」
エマもショウマも、どうしてここにいるのかわからなかった。
「……わかんない……私、何かのゲームの話を勝手に思い出しちゃったのかも……」
「疲れちゃったよね。僕もさ……水を飲んで、また眠ろうか」
エマはへとへとで、ショウマの言うように水を飲んで少し休むことにした。
水道でまた水を飲む。
これで空腹もまぎらわせる。
ノイズ生徒がいない美術室のすみっこで肩を寄せ合って、エマはうとうとして少し眠った。
「……ショウマ……!?」
ショウマがいない事に気付いたエマは、飛び起きた。
「エマ、ここにいるよ。ごめん」
ショウマは少し離れていたが、美術室の中にいて、すぐにエマのもとに来てくれた。
「ごめんね、離れて。でも危険がないように見守っていたから、大丈夫だよ」
「ううん。私が寝ちゃってたから……ショウマは寝てないの?」
「うん。なんだか目が冴えて……このイーゼルにあった絵を見てた。で、気付いたんだけど、全部描きかけなんだ」
「え?」
エマは立ち上がって、ショウマのもとへ行く。
円形になったイーゼル。
そういえば、確かに描かれている絵は、全て中途半端だ。
「……これって……一万円札を描こうとしてる? でもお札って難しいよね」
本物の一万円札は、細かく細かく作られている。
この一万円札は適当に、長方形に『10000』と描いただけだ。
「こっちは……宝石? ダイヤを単純に描いてるけど……これでは駄目だったのかな」
「犬かなぁ? ……だけど、ヘタすぎてわかんない……」
「これは……パソコン? に見えるような……」
絵は中途半端なものが多いが、適当に想像で描き終えたものもだめらしい。
「もしも、絵をしっかり描いて完成させたら……階段がでてくるのかも?」
「じゃあ、何を描けばいいんだろ」
先ほどの黒板の文字を思い出す。
『願いが描けなくて、あれになっていく……私も……ノイズに……な……てく』
「さっきの、願いが描けなくて……っていうやつ?」
「それだよ、エマ。もしかして、みんなが描いてるのは、自分の願い、願望なんじゃないかな? みんな叶えたい願いを……描こうとしてるんじゃないかな? だからキャンバスには、自分の願望を描かなきゃいけないんだよ」
「そっか……お金に、宝石に……」
二人はキャンバスに願いを描くという事までは、わかった。
でも、正確に一体何を描く?
「ショウマの願いって何?」
「えっ……僕……? 突然言われても……」
「考えて」
「形にできるものじゃないっていうか……世界平和とか、そういうもの……?」
「ショウマらしいけど、そういうのって……ありなのかな……」
世界平和を絵にするのは、難しすぎる。
「漢字で書いてみる?」
「ここは、美術室なんだよ? 書道室じゃないもん」
「……だよね……でも正確に丁寧に描くなんて……お手本がないと無理じゃないかな」
キョロキョロとショウマが美術室を見回す。
絵の具や、鉛筆、椅子、画板……デッサン人形などがある。
「デッサン人形を描いてみるとか」
「ショウマは、それが欲しいの?」
「……うーん……欲しくはない」
「でしょ」
「失敗したら一回で終わりなのかな。変わってくって描いてたよ。何回かかはチャレンジできるかも」
「ノイズに、ちょっとずつなっちゃったら、それってどうなるの?」
「わからない」
「腕がノイズになっちゃったり、足がノイズになっちゃったら……怖いよ」
「うん……まぁこれが階段を見つける方法かもわからないもんね」
「また他の教室を見てみようか」
ノイズ達が歩く廊下を、また歩き、他の教室を覗く。
「ぎゃっ!!」
「うわ……」
『願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け願望を描け』
黒板にびっしりといつの間にか、描かれた言葉は、あまりに不気味だった。