I want to drink water(水を飲みたい)【五階】
【異次元校舎・五階】
怖い気持ちを抑え込んで、エマとショウマは蜘蛛ロボットを観察する。
「廊下にある教室は、六つ。僕達が倒れていた教室と、今のこの教室」
「廊下の真ん中に、水飲み場とトイレがある」
「喉が乾いたから水が飲みたいよね」
ショウマの言葉に、うなずく。
静かに教室のドアの影から、蜘蛛ロボットを観察した。
時計がないので、二人は頭の中で数を数えながら見る。
「……60秒が4回……教室に入ってる時間は4分くらいみたい」
「うん。教室を出て、次の教室に入る時間は……1分。前のドアから入って後ろから出る。片道30分くらいで巡回してるっぽいね」
蜘蛛ロボットが教室を見回っている間は、廊下を歩けるということだ。
「でも教室を移動してたら、いつか鉢合わせちゃうかも?」
「……それは怖いね。全ての教室に先生の机があるのかどうかわからないし……」
結局、二人は何度も蜘蛛ロボットを観察して、この教室に入ってくる時に先生の机の中に入って隠れる。
それを何回繰り返しただろう。
エマは少し眠った時間もあった。
緊張して、疲れて、怖い。
ショウマが隣にいれば、少し恐怖も和らいだ。
でも、もう喉がカラカラで、しんどい。
「……変だな。さっき数えた時間より、この教室に入ってくる時間が少し速い気がする」
「何が?」
「さっきから見ていたのに、気づかなかった。教室は6個あるのに、蜘蛛ロボットが教室に入る回数は5回だ」
「こっちから見ているとわかりにくいね」
「うん。蜘蛛ロボットが認識できない教室、入れない教室があるのか? ……そこに何かあるのかも」
「じゃあ動いてみる?」
「隣の教室に移動してみようか」
隣の教室に先生の机がある事は、確認できた。
一番端の教室に蜘蛛ロボットが入った瞬間に、急いで隣の教室に入る。
「はぁ……っはぁ……っ!」
慌てて先生の机の中に入ったので、頭がぶつかりそうになった。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫。まだ余裕があるよね」
「うん、大丈夫だよエマ」
二人でおでこを押さえながら、息を潜めた。
もう何回も、蜘蛛ロボットを見ている。
あれはずっと同じ動きをしているから、大丈夫、大丈夫とエマは自分を勇気づける。
そして蜘蛛ロボットが教室を巡回して通り過ぎるのを待った。
「ねぇ、次は水道で水を飲もうよ」
普段は水筒の水を飲んで、手を洗ったり歯磨きをしたりするだけだけど、今はあそこの水でも飲みたい。
「そうだね……やつが入らない教室は、一番奥だ。水を飲んで、一つ一つ教室を移動していこう」
「うん。絶対うまくいくよ」
喉がカラカラ。
ここに来て、何時間経ったんだろう。
悪夢ならもうさめてるはず。
怖いけど、一度教室移動ができてしまえば、なんとかなる気がしてきた。
「よし、じゃあ、3、2、1、GOで出て、水飲み場に行こう」
「そのままガブガブ飲んで、教室に行こう」
水がやっと飲めると思うと、エマもショウマも笑顔になる。
今は『水が出ない』可能性は考えたくない。
「私が先に蛇口まわすね」
「さすが陸上クラブのリーダーだね」
「ショウマ、もうクラブは引退したでしょ……って……あれ……?」
陸上クラブはもう引退……?
「あ、そっか。もう二月で引退したんだっけ……まだまだずっとリーダーの気がしちゃって」
「もう、急に変な事言うから」
「ごめんごめん。じゃあエマ、行くよ……?」
「う、うん……!」
この機会を逃したら、30分後だ!
エマとショウマのいる教室を蜘蛛ロボットが出て行く。
近くにいるのが恐ろしいが、様子をうかがって、一番端っこの教室に蜘蛛ロボットが入ったらGO!!
「3、2、1、GO!」
蜘蛛ロボットが教室を回るのは4分。
大丈夫、余裕がある!
喉がカラカラ。
水飲み場に着いて、すぐに蛇口をひねる。
「うそ……出ない」
ひねっても出ない。
「全部、まわそう!」
廊下から丸見えの場所だ。
余裕だと思っていたけど、そうはいかなかった。
「どれか一つでも、出ない!?」
ギュッと一つ回したら何か液体が出てくる気配がした。
「やった……! きゃああああ!!」
出てきたのは、真っ赤な液体。
大量の血だ!!
思わずエマは叫んでしまった。
「エマ……!」
悲鳴を察して、教室の蜘蛛ロボットが立てた激しい音が聞こえた。
「ぎゃああああああ!! いや! ぎゃあああああ!! もうやだ! もうやだぁあああ!!」
一度叫んでしまうと、一気に恐怖も混乱もエマに流れ込んできた。
「エマ! こっちへ!」
廊下に蜘蛛ロボットが出てくる!
ショウマは咄嗟に、エマの手を引いて男子トイレに隠れようとした。
しかし事態は最悪な方に向かう!!