蜘蛛ロボットの習性【五階】
廊下を歩く蜘蛛ロボットをショウマが見張る。
エマは教室の窓が開かないかの確認。
「いくよ!」
「うん!」
ゆっくりと歩いて、ショウマが廊下を見る。
あの蜘蛛ロボットがどういう動きをしているのか、まだわからない。
教室内には蜘蛛ロボットが徘徊した血の痕が残っている。
教室の中をぐるっと四角く回ったあとがある。
「う……気持ち悪い……」
血を見ていると、吐き気がする。
見ないようにしながら、その血の痕をさけてエマは窓を確認する。
やっぱりここも、窓ガラスも窓枠もあるけれど、その先にあるのは壁。
開けてみたけど、触れるのは壁だ。
ショウマを見ると、まだ蜘蛛ロボットを見ている。
教室内は、さっき隠れた教卓……先生の机が黒板の前にあるだけ。
蜘蛛ロボットが机の前を通っていたら見つかっていた。
「ショウマ……」
小さな声で、呼びかける。
「教室を見回って、端まで行くかもしれない。今、教室に入った」
「窓はやっぱり開かない」
窓がもしあっても五階の高さから逃げるなんて不可能だ。
でも、階段がないこの状況からどうやって逃げればいいのだろう??
「……というか、私はどうしてこんな場所にいるんだろう?」
気付いたら寝かされていた……?
思い出そうとすると、エマの頭はズキズキ痛む。
エマは教室の床も調べてみたが、やはり何も変わった様子はない。
「大丈夫?」
「うん」
「蜘蛛ロボットが、また戻ってくるから、机の下に隠れよう」
不気味な空間。
蜘蛛ロボットが、またやってきた。
ショウマの手を握ると、握り返してくれる。
不気味な移動音。
エンジン音、金属音。
絶対危険だと、わかる。
鳥肌が立つ。
絶対にこっちに来ないで!! と強く思う。
心臓が破裂しそうだ。
そして、また蜘蛛ロボットは出て行った。
音を聞いて遠くまで行ったのを確認してからショウマが机から出る。
「……同じルートを歩いてる……」
「え?」
「血の痕が同じだ」
教室の中の血の痕は、増えていない。
つまりレールの上を歩くように、蜘蛛ロボットは移動している。
「じゃあ、机の中にいれば……見つかることはない」
「そうだね」
エマは少し安心して、また先生の机の中に座り込む。
「どうして、こんな場所にいるんだろう」
「わからない……僕も覚えてない」
「ここにいたら、お母さん達、大人が助けに来るかな?」
「じっとしているべきなのか……それとも、あの蜘蛛ロボットを倒すか……」
「む、無理だよ! 絶対だめ! ショウマ、やめて!」
「うん、ひ弱な僕には無理だね。武器も無いし……」
二人はじっとして机の中にいた。
なんだか、じっとりとして不快な温度だった。
暑いけど、ショウマから離れたくはない。
「喉が乾いた……」
「うん」
五階にはもちろん水飲み場もトイレもある。
ちょうど廊下の真ん中辺りだ。
「エマ、僕は蜘蛛ロボットを観察してみるよ」
「うん、私も」
怖くて、机の中でじっとしていたい。
でも、エマは自分がそんな臆病者ではない事を思い出す。
「あいつが定期的に、廊下と教室を回っているのなら、見つからないで教室を移動できるかも」
「他の教室に行って、どうするの?」
「階段があるかも」
「え? 教室に?」
「だって、こんな……変な空間なんだよ」
「……これって夢かな……」
ショウマに優しくほっぺたをつねられた。
「いたい……」
「うん」
「しっかりしなくちゃね!」
エマはほっぺたをペチン! と自分で叩いた。
このまま、ここで助けを待っていても誰も助けに来ない気がする。
この蒸し暑い不気味な空間で、水も飲めずにいれば、いつか……。
ここは確かに変な空間。
「異次元……異次元学校だ」
「一階を目指そう。絶対に脱出するんだ」
「うん……!」