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真実【一階】

 エマの顔が青ざめて、涙が滲んだ。


「死んでない」


「僕は卒業できていない。できなかった。卒業できるのは生きているエマだけだ」


「死んでない! ショウマは死んでなんかいない!!」


「エマ……!」


 泣いたエマの手をショウマが掴んだ。


「私は地下へ行く! 宝石を探すんだ!!」


「僕を生き返らそうなんてしなくても、いいんだよ」


「やめてよ……なんで……そんな……」


 力が抜けたように、エマはその場にへたり込む。

 どこかの窓から、ガラスが割れ落ちる音が聞こえた。


「エマも、記憶が戻ったんでしょう? ここに来た目的を……思い出したんだよね?」


「……ショウマ……」


「僕のために、異次元学校に来たの?」


「……ショウマのためじゃない……私のため……さっき、検索してハッキリ思い出した……宝石を探すために来たの。小学校の空き教室に……夜中潜り込んだの……そして本当に、気付いたら、此処にいた……」


 検索して、何もでなかったわけではなかった。

 しっかりと、検索には出てきたのだ。


 夜中に、小学校の空き教室に入ると……異次元学校に行くことができる。

 その地下には宝石があって、それはどんな願いでも叶えてくれる……。

 

 そして、エマも最近、検索してその記事を見た事を思い出した……。


 全てを思い出したのだ。


「僕を生き返らせるために……?」


「なんで……どうして、ショウマがそれを知ったの? 気付いていなかったでしょ!?」


「さっき検索で自分の名前を調べたんだ……」


 悲しそうに微笑むショウマ。

 

「えっ……うそ……どうして……」


「……なんだか、気になってね」


 エマの様子がおかしかったから……とはショウマは言わなかった。

 

「そしたら、卒業式前に……交通事故で死んだ男子の記事が出てきた……卒業式の十日前に、僕は事故にあって死んだんだね」


 ショウマが自分の名前で検索をしたら、そう記事が出てショウマは全てを悟ったのだった。


 知った真実は、笑顔からかけ離れた……悲しい悲しい真実だった。

 

「やめてぇーーーー!」


「エマ……」


 座り込んだエマをショウマが抱き締める。


「エマ、卒業証書を受け取って、ここから出るんだ。もう中学校は始まっているんだよね? ここから出て、中学生活をどうか楽しんでよ」


 エマはショウマを力いっぱい抱き締め返す。

 痛いくらいに抱き締めて、震えるような声でエマは話す。


「……行けてない……」


「え?」


「行けてない……行けてない……中学校なんか行けてないよ」


 小さな声で打ち明けた事実。

 

「エマ……どうして」

 

「どうして!? ショウマが死んで! 学校なんか行けないよ!! 行けるわけないでしょ!!」


 エマは叫んだ。

 

「エマ……」

 

「私はもう中学一年生だよ、六年生のショウマを置いて……私だけ中学生になっちゃったんだよ!! そんなの嫌だ!!」


「……エマ……」


「みんな私に同情して、ヒソヒソ近寄ってもこないし……お母さんとお父さんは、私が勝手に死んじゃわないかって見張ってる……」


「それはみんなエマを愛しているから、心配なんだよ」

 

「みんななんかいらない! ショウマだけいればいい!」

 

「エマ……! そんな事言っちゃいけないよ」


「私は地下へ降りる。宝石を探す。そのために来たの……どうしてショウマが一緒に此処にいるのかは、わからない……でもきっと一緒に生き返るためだよ!」

 

「僕に会いたいと願ってくれたからでしょう? エマの願いはもう叶ったんだ」

 

「そんなの違う! これからもずっと一緒じゃなきゃ駄目! ショウマと一緒に卒業して、ショウマと一緒に入学して……ずっと、ずっとそうだと思ってたのに!!」


 抱き締め合って叫ぶ声が、心に刺さっていく。


 卒業式の十日前。

 青信号で歩道を渡っていたショウマに、暴走車が突っ込んだ。

 ショウマは病院に運ばれたけど、意識が戻らずにそのまま……。

 

「ごめん……ごめんよ……車が突っ込んできた時に、猫がいたんだ。……僕は咄嗟に拾い上げて、歩道へ投げたんだけど僕は轢かれちゃった……本当にごめん……あの猫は怪我してなかったかな?」


 エマも病院に行ったはずだが、記憶がない。

 お葬式も行ったはずだけど、記憶がない。

 でも、いつの間にか家に猫がいる事に気が付いた。


 轢かれたショウマに寄り添って鳴いていた猫を保護した人から、譲り受けたと両親から聞いた。


「その子は保護されて……それで……今は、うちにいる」


「そうだったんだ……ありがとう。エマに飼ってもらえて、猫も幸せだね」


「私は……幸せじゃない」

 

「エマ……」


 一度も猫は抱いていない。

 

「頑張って……卒業式を出たんだよ……頑張ったの。ショウマの卒業証書もあったんだよ!?」


「そうだったんだね……」


「私がニ枚受け取ったの。みんながそうしたらいいって、そうしてあげてって!!」


 同じ名前で、強い絆に結ばれた二人。

 エマが、受け取ってあげたらショウマも喜ぶと……言われた。


「ごめん……」


「でも私は本当は……嫌だった……」


 言えなかった想いがこみ上げる。


「嫌だった! 嫌だった! 嫌だった!! ショウマが死んだなんて言わないで! 思わせないで!! なんで私が受け取るの?! なんでショウマがいないの!? 私は、ショウマがいない証なんか受け取りたくなかったんだよ!!」


 体育館に響く、エマの泣き叫ぶ声。


「エマ……ごめんね……」


 エマの耳に響く、ショウマの優しい声。


「……ショウマは……悪くない……」


「ごめんね……僕のせいで沢山、辛い思いをさせたよね……」


 ここでの恐怖体験だって、二人だから乗り越えられた。

 ショウマがいなくなって、エマは全てを一人で乗り越えなくっちゃいけなくなった。


「……違う……その時は、私も私の役目だって……思ったから、自分で決めたの……。……でも、どんどん苦しくなって……毎日がどんどん暗くなって……溺れそうで、でも色んな事が追いかけてきて……辛くて……」


「うん、うん……ごめんねエマ。ずっと辛い思いを我慢してきたんだね」


 エマを抱き締めるショウマの瞳からも、涙が溢れた。

 

 今までこの異次元学校で体験してきた恐怖や苦しみは、きっとエマの心が体験したものだったのではないかとショウマは思った。

 

 ショウマを轢き殺した車。

 取材で追いかけてくるマスコミ。

 エマを心配するあまり、どう接していいか分からず、ノイズのように見えたクラスメイト。

 ショウマを失ってから溺れるような息苦しさ、苦しみ。

 死への恐怖と、自分を追いかけてくる毎日が過ぎていく恐怖。

 

 エマは一人で、その苦しみに耐えていた……。



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