表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

そこは体育館【一階】

 

 手を繋いで、階段を降りる。

 二人は中学校の制服で、階段を降りる。


「えっ……」


「どういうこと……?」


 階段を降りた先。

 そこは体育館だった。


「なにこれ……」

 

「わぁ……卒業式の装飾になってるね」


 卒業生の椅子。

 在校生の椅子。

 保護者の椅子。

 来賓客用の椅子。

 ステージの上には、校長先生が卒業証書を渡す演台。

 豪華な花と校旗が飾られている。

 紅白幕には、在校生が作った花や鳥の飾りが貼ってあった。


「……うん……」


 エマの顔が真っ青だ。


「エマ……?」


「あ、うん……卒業式……だね」


「僕のイメージしていた通りの卒業式の体育館だよ。何回も練習してたけどさ、紅白幕とか花とか飾りとか本番みたい」


「……う、うん。私も……こんな感じかなって思ってたよ」


「だよね。大丈夫? 一回、椅子に座ろうか?」


 二人は体育館の一番後ろ側にいた。

 左側に並べられた在校生の小さな椅子にエマを座らせようとしたが、エマは首を振る。


「大丈夫」


「本当に?」


「うん」


 保健室で随分と休んだ気がしたが、ゾンビゲームでまた疲れ切ってしまった。

 でも、ここはもう一階だ。

 いや、やっと一階まで辿り着いた!

 

「もう一階だ。窓や扉からは出られないかな? 見てみよう」


「ショウマ……窓はでられないよ……だって光が入って来ないし……窓の外は壁になってる」


「じゃあ、全部のドアが開かないか試してみよう?」


「う、うん……」


 普段の出入り口は、もちろん開かない。

 紅白の幕の間に入って、体育館の左右にある扉を開けてみようとしたが、開かない。

 いつ何が起きるかわからないので、警戒はずっとしている。


 離れないように、慎重に歩く。

 体育館の床に貼られているコートラインも踏まないように歩く。


「今度は何が出るんだろう……」


「なんだろうね、でももう、ここは一階だよ。必ず脱出しよう。ゴールはもうすぐそこだよ」


「……でも……」


「エマ、さっきからどうしたの? 何を考えているの?」


「……なんでもないよ……」


「そう? じゃあステージの上に上がってみようか? 練習したよね! 卒業証書の受け取り」


「……うん……」


 二人でステージに上がって、演台を見る。

 真っ黒な賞状盆に、賞状があった。


 『卒業証書 佐藤笑真 右の者は小学校の課程を修了したことを証する』


「うわっ……名前が書いてある……」


 ショウマが苦笑いした。

 

「ここまでハッキリ書かれると……気持ち悪いし怖いね……」


「うん」


 この異世界学校で、名前を把握されている事が不気味で嫌すぎる。


「でもさ、これを受け取ったら……ゲームクリアなんじゃないかな?」


「えっ」


「このゲームから卒業できるんじゃないかな?」


 そうショウマが言った瞬間、ワーーっと拍手が起きる。

 蜘蛛ロボット、ノイズ生徒、まさかの鮫、ゾンビ……それらが椅子に座って拍手している。


「ひぃ!?」


 一瞬で激変した光景に、制服姿の二人は手を取り合った。

 演台の影に隠れるが、攻撃はしてこないようだ。


「これは……エマ、やっぱり考えた通りだよ。気持ち悪いけど、拍手されてる……早く卒業証書をもらおう」


「……でも、でも駄目だよ……」


「何が?」


「だって……卒業証書は一枚しかない……」


「えっ……」


 ショウマが卒業証書の数を確認する。

 確かに、卒業証書は一枚しかなかったのだ。


「本当だ」

 

「じゃあ……どちらか一人しか……」


 二人とも、お互いの困惑した顔を見た。

 拍手が、ピタリと止んだ。

 

「ショウマ……私はこの卒業証書は、いらない」


「エマ? いらないって、どういうこと」


「私は、地下を目指す……!」


 突然、エマが叫んだ。

 当然、ショウマは驚く。


「え? 地下って……学校に地下室はないよ?」


「ここにはある。異次元学校の地下には、願いを叶える宝石があるんだよ……!」


「何を言って……宝石って、四階に書いてあったやつ……?」


 四階の黒板に書いてあった言葉。


 『宝石が欲しかった、でも駄目だった。閉じ込められて、身体が変わっていく』

 

「そう! それを取りに行く! だから卒業証書なんかいらないの。地下の階段を探そうショウマ! きっとどこかにあるはずだから……!」


 どうして、エマがそんな事を言い出したのか……。


「さっきのご褒美の検索に書いてあったの?」


 それしかないと、ショウマは思う。

 あの検索で、エマは何かを見たのだ。


「……そう……さっき検索して、書いてあったの。異次元学校の地下には、願いを叶える宝石がある」


「……そんなものより、脱出した方がいい」


「そんなものよりって……! 宝石を手に入れなきゃいけないの!!」


「地下なんか行ったら、もっと危険なことがあるかもしれない。引き返せないよ、きっと。そういう宝で子どもをおびき寄せているんだ。絶対に、ここで脱出方法を探すべきだ」


「危険なんか、どうにでもなるでしょ! 二人でここまでこれたんだもの!」


「宝石なんか、必要ないでしょ? 僕達は、ここを脱出するために頑張ってきたんだ」


「宝石は必要なんだよ! 私は絶対に手に入れなきゃいけないの!」


 エマは、自分の考えを変えようとしない。


「どうして、どうしちゃったのさ、エマ。……一体、何を願うつもりなの?」


「それは……その……でも、絶対に必要なの……じゃあ私一人でも地下へ行く」


「だめだよ、そんなの……」


 しばらく、二人とも黙っていた。

 でも、ショウマが卒業証書を手に持った。


「エマ、卒業証書を受け取って、ここから脱出するんだ」


「……何言ってるのさ。私、一人で逃げろって言うの……?」


「そうだよ」


「何を馬鹿な事言ってるの!?」


「この卒業証書はエマのものだ」


「……そんなの……名前が一緒なんだから、わかるわけないじゃない……」

 

「わかるよ。僕は卒業証書をもらってない」


「……ショウマ……?」


 ショウマが悲しく微笑む。

 怪異の観客達は二人をじーーーーーーっと、ただ見ていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ