不気味な蜘蛛(クモ)ロボット【五階】
コツン……コツン……コツン……。
コツン……コツン……ブブブブルルルウ……コツン……コツン……ブルルッルルル。
エマとショウマは、階段を降りようとしたので壁の影にいる。
だから、教室がある長い廊下の先は見えない。
「……誰かこっちに来てる」
「先生……?」
「……なんか誰かってより……」
「《《なにか》》……?」
人間の足音じゃない。
こんな金属的な足音は聞いた事がないし、何かエンジン音のようなものが聞こえる。
「エマ……ここにいたら、駄目な気がする」
「……うん……私も」
「ゆっくり、誰が来ているか見てみよう」
教室前の長い廊下を覗いてみる。
コツン……コツン……コツン……。
「……なに……あれ……」
ブルルン!! ブルルン!! ブルルン!!
廊下を歩いているのは真っ黒な、機械……?
蜘蛛のような形。
「ロボット……?」
蜘蛛の頭の部分には、何か車のエンジンのような音がして、灰色のガスが出ていた。
「……なんかショウマ、怖い」
「うん。僕も怖い。なんかあれに見つかったら……やばい気がする」
蜘蛛ロボットが歩いた後ろは、何故か引きずられたように血の跡がべっとりとついている。
「……うっ!」
血を見るだけで、エマは恐怖と吐き気を感じた。
【五階・徘徊する蜘蛛ロボット】
「エマ、逃げよう。こっちへ来る」
「でも、どうやって……」
「見て、あの蜘蛛ロボット……一時停止する時がある。前、右、後ろ、左って順番に見てる……」
「本当だ」
確かに、向こうからやってくる蜘蛛ロボットはたまに停まって四方向を一定時間見ている。
「いい、右を見たら教室に飛び込もう」
教室のドアは、前も後ろも空いている。
「教室に入ったらどうするの?」
「何か隠れる場所があるかもしれない。ここにいるよりは見つかりにくい」
「うん、そうだね」
「3、2、1、で走ろう。エマは陸上クラブだから、すぐに教室に行ける」
エマは、小学校では陸上クラブだった。
短距離走の選手で、いつも運動会では一等だった。
「ショウマ、うん。ねぇ絶対絶対見つからないでね! ショウマが心配」
「僕は運動苦手だけど、教室までくらい走れるよ」
「うん……」
蜘蛛ロボットに見ているのが見つからないように、息を潜めて二人で見る。
見れば見るほど、不気味な蜘蛛ロボット。
機械のようだが、ところどころは、何か生き物のように動いている。
薄暗い廊下だけど、エマの視力の良い目は、不気味さと異質さをよく見抜いてしまう。
蜘蛛ロボットには……口があって……そこに無数の牙と、血が滴り落ちていた。
「エマ!」
「う、うん」
「3、2、1……GO!」
エマの方が先に飛び出す。
瞬発力はナンバーワン。
ショウマもすぐ後ろを走ってきたのでホッとする。
教室に二人で飛び込んだ。
ドアを閉めたら音でバレるかもしれないので、そのままだ。
「この教室も……机も椅子もない……」
ガラーンとした教室。
気づけば、カーテンもない。
「先生の机がある。あの中に隠れよう」
「うん!」
二人で黒板前にある先生の机の下に隠れた。
恐怖で震えているのがわかる。
「き、教室に……入ってくるかもしれない」
「しーっ……エマ……今は隠れてる、大丈夫」
二人で狭い先生の机の中。
ショウマの声が少しだけ安心させてくれる。
「ショウマ……これから……どこに逃げよう……」
「落ち着いて、まずは観察だ」
逃げられない五階に、閉じ込められている。
ブルン……ブルン……カツカツ……カツン……ブルン!ブルン……
音が近づいてきた。
もしもあの蜘蛛ロボットが、先生の机の中まで覗いたら終わりだ。
恐ろしい隠れ鬼ごっこ。
蜘蛛ロボットが教室に入ってきた音がする。
ひぃ……っ
息が止まりそうになる。
怖い、怖い、怖い……!!
ぎゅっと……ショウマが手を握ってくれた。
エマも握り返す。
今は何も喋れない。
蜘蛛ロボットは、教室を二周ほどグルグルと回ると出て行った。
「はぁッ……! はぁ……怖かった……!」
緊張が少し解けて、エマがショウマの肩にもたれた。
「さっきのエマの走りは速かったね」
「うん、だって陸上クラブだったもん」
「そうだね。小学校で一番速いもんね」
「うん。そう、一番速かった……うん……」
なにか違和感。
でも、今はそんな事より、ここからの脱出。
「僕があの蜘蛛ロボットを見張るから、エマは窓が開かないか見てくれる?」
「う、うん……!」
二人で分担作業開始!!