コンピューター室【二階】
廊下は静まり返っていた。
「ショウマ……」
エマもショウマの後を追って、保健室から出た。
「ごめん、勝手なことして……」
「ううん……いいよ」
「二人で頑張ろう?」
「……うん。……そうだね」
保健室は一番端っこ。
目の前の北階段は、壁がある。
制服姿の二人は廊下を歩く。
一年生と二年生の教室。
異常もなさそうだし、怪異の類も今のところ見当たらない。
そして……。
「コンピューター室だ」
「……コンピューター室? こんな教室……あったっけ?」
そう。
現在の羽黒野小学校に『コンピューター室』はない。
「今はないけど、昔はあったんだって。お父さんが言ってた」
ショウマのお父さんは子どもの頃、羽黒野小学校に通っていたらしい。
「へぇ……大きなパソコンがいっぱい」
慎重に中に入る。
「ゆっくり、中を見よう」
とりあえずコンピューター室の中に、化け物などはいないようだ。
「次の階段はどこにあるんだろう」
「……もう二階だし窓をぶち破って、外に出たら……なんて方法は通じないだろうな」
「異次元に放り出されるかも」
優しいショウマがそんな提案をするのは意外だった。
「だよね。エマ、パソコンの電源がつくか試していい?」
「うん……なにか武器を構えておこっか……」
とは言っても、掃除用具のホウキくらいだ。
「モニターが大きいね」
「うん。本体の電源を入れて、モニターの電源を入れるんだよ」
ショウマはプログラミングが得意で、パソコンにも詳しい。
「……なんかのゲーム画面……?」
ゲームのような画面がでてきた。
タイトルは『|The Real Zombie Survival Game』
その下に、ドット絵のゾンビの絵が飛び跳ねている。
横から銃弾が飛んできて、ゾンビが倒れた。
「めっちゃ昔っぽい画像! どこがリアルなの! ふふ」
「僕はドット絵好きだけどなぁ」
「リアルじゃないって話だよ~」
簡単なゲーム説明のようなトップ画面だ。
「ゲームをして、クリアしたら、階段をゲットできるとか?」
「そんな簡単にいくかな」
「こっちのパソコンもつけてみよっか」
エマがショウマの座ったパソコンの隣のパソコンの電源を入れる。
「あ、エマ。もう」
「ついた! 同じ画面だね」
「僕はこういうホラーゲームはあんまり好きじゃないな」
「知ってる。じゃあ、私に任せてよ」
「あれ、これ二人でできるみたいだね。エマのマウスの動きが僕の方にもでてる……この時代のパソコンには、こんな機能はないはずなのに……って、ここは異次元学校だもんね」
二人が座った別々のパソコン。
でもゲーム画面は同じで、一緒にゲームができるようだった。
「じゃあ二人で遊べるわけだ」
「そうだね。エマ、なんだか楽しそう」
やっとエマが笑ったので、ショウマは少しホッとする。
「えっへっへ。ゲーム大好き! じゃあプレイ~!」
「あ、こら」
スタートをエマが押した。
ゲームのストーリームービーが始まったようだ。
ドット絵の学校、そして廊下のような場面。
【エマ:ゾンビだ! ゾンビだ!】
「え? エマだって」
【ショウマ:協力して、ゾンビをやっつけよう!】
「僕までいる」
画面の右側、一番右の部屋からゾンビが出てきた。
そのドット絵のゾンビは廊下を歩いて、左に歩いていく。
「ねぇ、私達っぽいキャラがパソコンある部屋にいる」
「本当だね」
『うがぁああああああああああああああ』
ものすごく不気味な声が聞こえた。
「うわ、こわ……! なんか絵はドッド絵なのに、声だけやたらリアル」
エマが怯えた。
『うごぁああああああああああああ』
「……待てよ……この声……どこから聞こえてくる?」
ショウマが立ち上がる。
「ショウマ!? これ右から来るゾンビを左の画面にあるミサイルで撃つゲームみたいだよ!? どこ行くの!?」
ショウマがコンピューター室のドアを開けて、廊下を覗いた。
「わぁあああ!」
「ショウマ!? どうしたの!!」
エマも慌てて、ショウマのもとへ行く。
そして廊下を見る。
まだまだ、遠い先だが……廊下を歩いているのは、紛れもなく本物のゾンビだった。