平和な保健室【二階】
保健室のベッドで眠った二人。
ショウマは、エマの苦しそうな声で目を覚ます。
「やだ……やだ……ほう……せきを……」
「エマ?」
カーテンを少し開けてエマの様子を見ると、涙を流して苦しそうだ。
「エマ……起きて……エマ」
「あ……ショウマ……ここ……保健室……そうだった」
「うん。大丈夫? すごくうなされていたよ」
「そっか……うん……また変な夢を見たみたい」
「どんな夢……?」
「覚えてない、でも怖い夢」
「今までの事を考えたら、怖い夢くらい見るよね。大丈夫? 水をもってくるね」
保健室の蛇口からは、きれいな水が出てきた。
ショウマは水の入ったコップをエマに渡した。
「ありがとう」
「平気?」
「うん。もう忘れた」
エマが微笑んでくれたので、ショウマも微笑んだ。
「似合ってるね、ショウマ」
ブレザーを羽織っているショウマに、エマが言う。
「へへ。こんな場所で、僕らに制服を着させて、なんのつもりだろうね」
「さぁ……なんだろう」
二人で乾パンを食べた。
「保健室なんて、全然入ったことなかったなぁ~一度転んで擦りむいた時かな」
「僕は、たまにあったけどね。この冊子が面白いんだよね。歯の磨き方の冊子。知ってる? 歯磨き粉の量」
「知らない! いつもテキトーだった!」
「実はね……」
二人で話して、笑う。
いつもの日常みたいだ。
保健室のなかでは、本当に何も起こらなかった。
窓の外は見えなかったけど、平和だった。
化け物もいない、変なことも起こらない。
何時間経っても、平和だった。
お腹が空いたら、食料を食べて、ベッドで寝た。
トイレもある。
保健室の冊子もポスターも、隅々まで読んだ。
備品も数えて、しりとりしたり、思い出話をしたり……。
楽しい時間が過ぎていく。
「ショウマ! 名札を取り替えっこしない?」
「どうせ同じなのに?」
「うん。そっちがほしい」
「ふふ、いいよ」
平和な時間だった。
繰り返し、繰り返し平和だった。
でも、食料は減っていく。
何時間どころじゃない……何日経った?
……一体、何日ここで過ごしているんだろう……?
「エマ……」
「ん~~? 今日は何しよう? 麺棒の数でも数える?」
エマは笑顔で楽しそうだ。
でも、ショウマは覚悟を決めて聞く。
「そろそろ……ここから出ない?」
「……出たら……また鮫とか蜘蛛ロボットとか……ノイズがいるかも」
「怖かったよね」
「うん」
「でも……ここにいても……さ」
「ずーっと此処にいてもいいんじゃない?」
エマが笑う。
「此処に……ずっといても、いずれは……ダメになっちゃうよ」
「そうかなぁ~~??」
「食料は、食べた分はしっかり減ってる。保健室にある分は、もうあと少しだよ。此処にいてもいつかは……」
ショウマの話に、エマは困ったように笑った。
「ここで救助を待つのもいいかもね」
「エマ……救助は来ないよ」
「……そんなのわからないじゃん……」
「わかるよ! この異常な学校……蜘蛛ロボットがいて、生徒はノイズ、三階なのに鮫がいるんだよ? こんな異次元な場所に、どうやって助けが来るの?」
ショウマの必死な問いかけ。
でもエマは、うなずかない。
「……それでも私はここにいる……ショウマと保健室にいて、それで……ゲームオーバーならそれでいい!!」
「エマ!?」
「いいの! もう怖いのはイヤ!! 私はずっと此処にいるから……!!」
「……そんなのはダメだよ」
「えっ……」
「僕達ここまで来たんだよ? 『真実は笑顔と共に!』僕達は……真実を追い求めるコンビだよ? このままここでゲームオーバーなんて絶対にダメだ!」
「でも、此処でならずっと平和だよ!?」
「ここの平和は永遠には続かない! 僕達はこの学校から出なきゃ! だから、僕は保健室のドアを開けるよ!!」
「ショウマ!! 待って!!」
ショウマが保健室のドアを開けた。
二階の廊下が見えた。
ショウマは一歩踏み出した。